この物語は、登場人物の行動・描写が暴力的かつ過激になっております。15歳以下の方の閲覧を禁止いたします。また、悲劇的要素を多々含みます。そういった表現が苦手な方にはお勧めできかねますのでご注意下さい。

 

 Lament Angel 10

 

 キラは生きる「意味」だった。罪深い自分の命をこの世に繋ぎ止めるたった一つの想いだった。いくら悲しみの扉を開いてしまっても、どれほどの儚い煌きを殺しても、それでもキラはまだ死ねないと言った。それは、自分の命とは言えなかった。再び与えられたこの命は、キラへの証だった。生きる意味は、もう探さなくても良かった。たった一人そこにキラが存在しているだけで、それで全てが救われていた。でも、ここにはキラはいない。いなくなったのだ。

 キラがいない事に頭が痛んだ。キラがいないのに、なぜキラの命を奪った者が存在しているのか。ラクスの暖かさがアスランを包んだ瞬間、アスランは今まで心の奥底に仕舞い込んであった暗く冷たい気持ちが急激に全身に流れ込んできた。それ故、アスランは自分の命の期限をほんの少しだけ延ばすことにした。 

震える細いラクスの肩をそっと押し返し、アスランはまっすぐにラクスの瞳ではない、どこか遠くを見つめながら言った。
「ならばせめて・・・関わった者、全てを殺す。」
「!・・・アスラン・・・!」
たった一言の言葉は、あまりにはっきりとこの部屋に響いた。その跳ね返る冷たさに打たれたかのようにラクスは身を硬くし、はっとアスランから一歩遠ざかった。しかしアスランの目は、既に今までとは違う色を宿していた。冷たく深く、そして暗い深淵の色。それは確かに美しい緑であったが、背筋が凍るような刃を含んだ色だった。少しだけ震える声で、ラクスは静かに問うた。
「何か、理由があったとしても、あなたのお気持ちは変わらないのですか?」
「変わらない。」
即答したアスランは、今度はまっすぐにラクスを見つめた。痛いほどの強い視線。それを受けて、ラクスは自分の体がもう震えていない事に気がついた。そして、心の中に闇が静かに、音もなく広がってゆくのを感じた。少し悲しくもあり、ほんの少しだけ快楽を伴った深淵が。
「それでは、わたくしの知る限りの事を、教えて差し上げますわ・・・」
いつの間にか、ラクスの瞳はアスランと同じ冷たさに彩られていた。
 

「わたくしがプラントで知り得た情報は、犯人側のたった一人の居場所でした。それも主犯格ではありません。組織立った彼らのほんの末尾に存在する者です。」
そう指を組んで話し出したラクスの声は静かで、そしていつもと変わらず心地よく耳に届いた。
「彼らは、二度目の大戦でほぼ殲滅されたと思われたロゴスの若年メンバーでした。過激な思想と強烈なカリスマ性を持った彼らの中心人物は、オーブに捕らえられていました。しかし、その人物は同じ組織の人間に殺されました。人を法で殺す事のないこの国の中で、オーブ内に入り込んだ者によって。わたくしが追跡できた、たった一人の人間によってです。しかし、組織内ではそれを快く思っていない者がいたようです。彼は組織を追われ、今はオーブの暗い場所に入り浸っております。ここに、その場所を記した紙があります。」
少しだけ、アスランの顔に飢えに似た表情がよぎった。
「わたくしは、この場所をお教えする事しかできません。これ以上の事は、何も分からない。いいえ、分かりたくありませんわ。そして、あなたがこれをどう使って何をしようとも、わたくしは何も口出しいたしませんわ。・・・アスラン。」
そこで、ラクスはまっすぐにアスランを見た。
「あなたは、この国の主席たるカガリさんを裏切っても、この国の法を破ってでも、この紙に記された以上の行動を取ることができるのですか?その覚悟はおありですか?」
しっかりとアスランが肯いたのを見届け、ラクスは少しだけ微笑んでその紙をアスランに手渡した。
 

 そこには、手書きの地図が描かれていた。アスランはその全てを頭に叩き込み、そして紙に火をつけた。小さく燃え上がる炎は指までをも焼く寸前に消え、灰となって床に舞って落ちた。

続く。