風翼 ―― 戦争が終わってどれほど経ったのだろう。俺には時間の感覚、いや時間だけじゃない。全ての感覚が一日ごとに死んでいっているような気がして仕方なかった。カガリの傍に仕え、彼女を守る。それは彼女が用意してくれた、もうどこにも行き場のない俺の居場所だった。不満がある訳ではなかった。軍人として戦争のなくなった世界で生きたいとも思わなかった。ただ、まだ何かが出来ると心の奥底の何かが叫んでいた。今のままではいけないと。どうにかしなければいけないと。世界の歪みと軋みを俺の中の何かが感じ取っていた ―― 届かない宇宙 届かない未来 いるべき場所のない自分に怯え 震えていた 何かが欲しかった訳ではなかった ただ 自由を手に入れるために そこから飛び立ちたいと思った 決して治る事のない 深い傷を負ってでも 羽ばたきたいと願っていた ―― それは裏切りではなかった。本当の姿が見えなかった自分の咎だった。組織を脱するという事、追われるという事、追うものが怒りに震えているという事、巻き込んでしまった者がいるという事、置いてこなければならなかった存在が泣いていたという事。それは全て俺の弱さと迷いと、そして自分には背負いきれない世界というものを勘違いしていた心に原因があった。信じられないもの、信じられない事、信じたくなかった事。自分はもう死んでいたと思っていた。お前が死んだと思ったあの瞬間から。だから、どうして自分は今ここにいるのか、それを少しだけ訝しく思った ―― 目覚めて気づいた 本当は翼なんてなかった ただ冷たい宇宙の下で 一人ぼっちで泣いていた 風を切って飛んでいけたはずだった ―― 生きていたという事。俺がではなく、お前が。思わず涙が溢れた。もうずっと流す事さえ忘れていた涙が。暖かかった。これが自分の体温なのかと、疑ってしまうほど。お前が俺の目の前にいた。失ったと思っていた。それなのに、微笑んでいた。声が聞こえた。手が、暖かかった。ただそれだけで、涙が溢れていた ―― 自分の小ささと そして君の大きさに気付く それでも言える 君のいるここが楽園だと そしてここから飛び立てる 君が一緒なら
おわり |