Daily
life キラ・ヤマト編
何の変哲もない日の昼下がり。まだ随分明るい時間で、外には爽やかに風が吹いているというのに、締め切られた室内でとある密会が進行しておりました…
「なぁ、キラ。」
どこかそわそわした様子で、蒼髪の美青年――その名はアスラン・ザラ。僕の幼馴染だ――が、傍らにいた僕に話しかけた。
「ラクスは今日、夕方まで帰って来ないんだよな!」
「うん、マルキオさんと出かけていったよ。」
なんだかまたアスランがろくでもない事を考えているなー、などと嫌な予感を抱きながら、僕は答えた。
「よし、カガリも今日は首長たちとの会合で遅くなるそうだからな!」
心なしか、アスランの声は上ずっているようにも聞こえる。どうやら嫌な予感は、今日も大当たりのようだった。
「ってか、なんでアスランそんなにギラギラしてんの?」
伊達に幼馴染を何年もやってきているわけじゃない。僕はアスランの分かり易すぎる反応にちょっぴり辟易しながら聞いた。ピクッっと、アスランのこめかみが動いたような気がしたけど、無視する事に決めた。
「なんでじゃないだろぉ!二人っきりになれたのは一月振りだろぅが!」
大袈裟とも言えそうなくらいに腕を天に掲げるようにしてアスランが僕の方へ向き直った。その目は明らかに僕を狙っている。僕にはもう覚悟を決めて諦めるか、それとも必死で抵抗するかの二つしか選択肢は残されていなかった。
「いやそうだけどさぁ。なんか欲求不満のオヤジみたいだよ。」
ふぅ、と溜め息をつきながら、できれば必死にならずに抵抗できたらいいなぁと、僕は心の中で祈らずにはいられなかった。そりゃ、アスランと一緒にいるのは楽しい。身体に触れるのだって、正直言ってしまえばそんなに嫌じゃない。まあ、多少痛いのは我慢するとして、男としてのプライドとか、そういうものはアスランと一緒にいる時はどういう訳だかそれほど感じない。それは自分がアスランの事がやっぱり好きだからだと思うけど、今日みたいなアスランはごめんだ。はっきり言ってしまえばウザい。時々どうしてこんなにかっこいいんだか分からなくなるくらいカッコイイくせに、こういう時は本当にただのスケベオヤジなんだから。そんな事をつらつらと考えていると、どこか怒りを含んだアスランの声がまた飛んできた。
「そういうおまえは、全然満ち足りてるみたいだなぁ。」
「そりゃあ、彼女と一緒にくらしているんだしそれなりにねぇ。」
こういう時のアスランは、本当に手に負えない。こういう時、ラクスの話を持ち出せば諦めてくれる事もあるが、逆に煽る事にもなりかねない。今日はどうやら後者みたいだ。ピクピクっとアスランのこめかみがまた動いた気がした。あーあ、失敗しちゃったかなー。
「ほぉーラクスがいれば俺との愛はいらないとでもいうのか!」
またそういう事を言う…まったく、怒りたくなるのはこっちだよ。君だって、カガリと一緒にいるんじゃないか。僕だって、ちょっとは双子に嫉妬だってしてみたりするんだ。もうどうせ今日は喧嘩になるに決まってるんだから、僕はいつもだったら言わないようなセリフも口に出してみた。案外スッキリするかもねー、なんて思いながら。
「そういうアスランだって、カガリと暮らしてるじゃん。それで何にもしてないとは言わないでしょ。」
案の定、アスランはうっと一瞬詰まってから、つかつかと僕に近づいてきた。これも毎度毎度の事で。
「うるさい!それとこれとは別の話なんだよ!」
はーあ、ホントやんなっちゃう。思わず本音も口から出るってもんだよ。アスラン、自分が言ってる意味分かってる?
「うわっ…アスラン…それ、男として最低!」
がしっと僕の肩を掴んだアスランは、そのまま強い力で揺さぶりながら僕の目を睨むほどに強く見つめてきた。思わずふいっとそらした視線に、アスランの中の何かが切れたらしい。
「うるさーーーーーーーーい!!」
そう叫んだかと思うと、まだ喧嘩する気満々だった僕の口を、無理やりアスランが塞いだ。何って、もちろんアスランの唇で。もうこうなったらさすがに抵抗できなくなりそう。アスランは僕の弱いところ、みんな知ってるんだもん。卑怯だよ。いつもいつもこのパターンで。こうなっちゃうのも、みーんな僕がアスランを好きなせいなんだけどね。でも、やっぱりどこか釈然としないまま、どうやら今日もアスランの思い通りにコトは進んでしまっているようで。あー、もうダメ。力抜けてきちゃった。アスランは昔から器用で、何事もそつなくこなすし、どんな事でも巧い。もちろんこんな事もかなりうまい。ていうかそんな事にぼーっとなってる僕には、スケベオヤジと化したアスランですら、かっこよく見えてきちゃうから重症だと自分でも思う。
「キラ…いいだろ?」
耳元でそっと紡がれた言葉は、僕のあらゆる感覚を撫でていった。あー、やっぱりもうダメ。ゾクゾクする。その声に僕、めちゃくちゃ弱いんだから。勘弁してよ。全身の力が抜けるのが分かった。膝だってガクガクだ。そんな僕を抱えあげて、アスランはそこらのソファーに僕を運んでいった。あー、ダメだよ、こんなところじゃー!帰ってきたラクスに叱られる…。つーかラクスを怒らせると怖いから、ホント、マジ怖いから!あーあー!ダメだってばーー!!
こうして密会はアスランの思惑通りに進み、キラは美味しく頂かれてしまったのでありました。そしてもちろんこの後には、ラクスとカガリの怒りの攻撃が、キラではなく全てアスランに加えられたのでありました。
アスラン・ザラ編に続く? |