Daily life アスラン・ザラ編

 

何の変哲もない日の昼下がり。まだ随分明るい時間で、外には爽やかに風が吹いているというのに、締め切られた室内でとある密会が進行しておりました…

 

「なぁ、キラ。ラクスは今日、夕方まで帰って来ないんだよな!」
何気ない風を装って、俺は傍らの鳶色の髪を持つ美青年――その名はキラ・ヤマト。俺の幼馴染だ――に話しかけた。
「うん、マルキオさんと出かけていったよ。」
そう答えたキラが、俺の顔を上目遣いで見た。うわ、反則だよキラ…。またそんな可愛い顔してさ。
「よし、カガリも今日は首長たちとの会合で遅くなるそうだからな!」

チャンスを逃すものかと、俺は思わず上ずる声を懸命に抑えながらそう言った。窓は閉めた。ドアのロックも実は閉めてある。女性陣は当分帰らない。用意は万全だ。
「ってか、なんでアスランそんなにギラギラしてんの?」

ちょっと嫌そうに、キラがそう言った。チィ、伊達に幼馴染を何年もやってきているわけじゃないな。キラは俺の考えてる事なんて、お見通しさとばかりにその美しい目を眇めて俺を見てきた。
「なんでじゃないだろぉ!二人っきりになれたのは一月振りだろぅが!」

全く、どうしてキラはそんなつれない態度ばっかり取るんだよ!本当に一ヶ月振りじゃないか!いつもいつもラクスやカガリに俺たちの間を妨害されて、俺はもう我慢の限界なんだよ、キラ!
「いやそうだけどさぁ。なんか欲求不満のオヤジみたいだよ。」
ふぅ、と溜め息をつきながら、キラが肩をすくめてみせた。ああもう、そういう態度が俺を焚きつけてる事、知らないわけじゃないだろう?
「そういうおまえは、全然満ち足りてるみたいだなぁ。」
思わず口調も嫌味まじりにならざるをえない。
「そりゃあ、彼女と一緒にくらしているんだしそれなりにねぇ。」
それをキラはいけしゃあしゃあと無邪気な微笑みで返してきた。その笑顔は涙の次にキラの最大の武器だけど、今はその顔すら憎らしかった。そりゃ、俺だって知ってるさ。ラクスはキラの事が大好きで、俺に堂々と『キラはわたくしのものですわ』なんて宣言をするくらいだし、キラと一緒に暮らしているラクスは名実共にキラの彼女である事は分かってる。でも、俺たちはちゃんとお互いに想い合ってるだろ?分かってるさ。そんな事いくら口にしたって、キラは俺に触れられるのがキライじゃない事だって知ってる。うっとり俺の顔を見るあの瞳は、俺を好きだって言ってる。そんな時、キラが男だって事もぶっとぶ。それなのに、なんだよそのぶーたれた顔は。
「ほぉーラクスがいれば俺との愛はいらないとでもいうのか!」
「そういうアスランだって、カガリと暮らしてるじゃん。それで何にもしてないとは言わないでしょ。」
うかつにも、うっと俺は一瞬詰まってしまった。キラは大体いつもこういう時に彼女たちの事を口にする。そりゃ、カガリは大事さ。彼女は強いし、綺麗だし、ちょっとガサツだけど優しい女性さ。でも、それとこれとは別の事だろ!俺はラクスと真正面からキラを取り合っているって言うのに、キラはカガリと俺の事になったって、全然平気そうだし。全く嫌になる。むしろキラはカガリの味方なんじゃないかとすら思えてくる俺は、どこかおかしいんだろうか。あーもー!どうしてこうキラは、俺の感情を逆なでするのがうまいんだ!
「うるさい!それとこれとは別の話なんだよ!」
キラの肩を掴んで揺さぶった俺は、キラのその紫電の瞳を見つめた。そりゃもう、睨むくらいに。それなのにキラはふいっと視線をそらして言うんだ。
「うわっ…アスラン…それ、男として最低!」
「うるさーーーーーーーーい!!」
そう叫んだ瞬間に、俺の中の何かが音を立てて切れた気がした。そうしてはっと気がつくと、俺はキラの唇をいつもの通りに塞いでいた。ちょっと強引すぎるくらいに。何かキラが言いかけていた気がするけど、もうどうでもよくなってきた。こうなったらさすがのキラも抵抗できないだろうって事は分かってる。キラの弱いところなんて、全て知ってるさ。もしかしたらラクス以上に。それに、ほら、もうキラの力が抜けてきた。キラがすぐこんなになるのも、俺の事好きだからって事に違いはないって、俺は自惚れてもいいと思うんだけど。そうしてそっと唇を離すと、キラが早くも潤んだ目で俺を見上げてきた。その目は何だ!もうダメー、アスランお願いって言ってるだろ、それは確実に!間違ってるか?だから俺は、そっとキラの耳元で囁いた。
「キラ…いいだろ?」
一気に、キラの身体から力が抜けた。知ってるんだ、キラがこの声に弱いって。キラは本当に嫌だったら、何をしてでも抵抗する。キラは強い。嫌な事にはてこでも動かないし、俺すらも殺しかねないくらいの時だってある。だから、今日のキラは本気で嫌がってるわけじゃないって事も、分かってる。そんなキラを抱えあげてそこらにあるソファーに横たえると、何かもごもご言ってた気がしたけど、結局俺の首に手を回してきた。そんな俺の脳内にはもう、後で必ず来るであろうラクスとカガリの怒りの鉄槌なんて一欠けらも残っちゃいなかった。

 こうして密会はアスランの思惑通りに進み、キラは美味しく頂かれてしまったのでありました。そしてもちろんこの後には、ラクスとカガリの怒りの攻撃が、キラではなく全てアスランに加えられたのでありました。

 

おしまい