Phase KIRA with CAGALLI and LACUS

アスランは、自分を守って撃たれた。そうラクスに言われた事を、キラは信じていた。それは多分、自分のために。そして、ラクスのために。

目覚めた後、一度倒れてからの記憶が、キラには一部なかった。だから、もう一度キラはラクスに問うた。どうしてアスランはここに眠っているの?と。答えは全く同じものだった。そして今度の答えをキラは暗示のように信じた。  
『アスランは自分を守って撃たれた』
それだけが、今のキラとアスランの真実だと言うように。

 

 アスランが昏々と眠る傍ら、そこでキラは一日のほとんどを過ごしていた。もともと細身だった身体はさらに痩せ、カガリに世話を焼かれないと食事をする事すら忘れる事が多くなった。大抵の場合、キラはアスランを見つめてぼおっとしているだけだった。
「キラ、大丈夫か?」
いつものように、カガリが食事を持ってキラのもとにやってきた。キラは、
「うん。」
とだけ答え、そしてカガリの顔を見てぼんやり思った。
『カガリ、仕事はいいのかな?僕の食事なんか、いつだっていいのに。それとも、僕がここにいるのがいけないのかな?アスランに会いに来たのかな?』
しかし思いは口に出る事はなく、ただ、黙ってカガリの運んできた食事を機械的に口に運ぶだけだった。
 

「もう、いらない。」
まだ半分も食べられていないだろう食事のトレイをキラがカガリの方に押しやった。
「キラ、駄目だろ?いつも言ってるだろ?お前はもっとちゃんと食べなきゃって。」
「うん、でも、僕ほんとうにもういらないんだ。食べなくない。」
「食べたくなくても駄目だ。お前、一日中こんな所にいて、肌だってこんなに真っ白くなって。食事くらいちゃんと摂らないと本当におかしくなってしまうぞ。」
「うん、ありがとう、カガリ。」
それでもキラは、かたくなにそれ以上食べようとしなかった。今や日常となったその会話と、アスランの点滴を取替え、そしてカガリは少しだけ悲しげに目を伏せた。
「いいかげんにお前はお前の人生を生きてくれ。わたしだって、お前に幸せになってほしいんだ、キラ。お前にだけは、幸せに。」
「……」
カガリの声は部屋に一瞬広がり、そしてすぐに消えた。そうして今日も答えをもらえないまま、カガリは部屋を出て行った。その後姿がドアの向こうに消える瞬間口にしたキラの呟きは、カガリに届く事はなかった。
「このまま、どこまで行けば、君と同じ所に行けるんだろう?ねえ、アスラン。」
 

 それからというもの、たびたびキラはアスランの眠る部屋で倒れた。それは立ち上がりかけた瞬間の脳貧血だったり、ちょっとした風邪をこじらせた結果だったり、記憶の混線によるものだったりした。そんな事が何度も続くたび、医者はラクスに言った。
「ラクス様、どうにかしないと、彼は本当に死んでしまいます。彼の身体はどこも悪くないのに、生きようという意志が全くみられないんです。精神の状態は即、免疫力につながる。無菌的な部屋に移せば、それでも生きられるかもしれない。でも、彼が自分の意思でここから移動する事はないし、それをしたら自殺の可能性だって否定できない状況になるでしょう。もしくは発狂するか。」
ラクスは黙ってそれを聞いていた。そして最後に、小さく呟いた。
「分かりましたわ。」
医師がその場を去った後、ラクスは一人でずっと遠くを見る目をしていた。そして、何かを思い立ったようにまっすぐ前を見た。
「どなたか、カガリさんを呼んで下さい。」

「Phase CAGALLI」に続く。