京に散る花
あれは京に散る花
紅く染まる大地
赤く染みてゆく着物の色
月夜に黒く光る鮮血
落ちる簪
何かに憑かれたような悲鳴と狂気
生きるものを切る感触
否
生きていたものを切る感触
この身に血を浴び
生臭さはとうに自分の香だった
あれは京に降る雨
紅く広がる海
赤く広がってゆく小さな波紋
闇夜に浮かぶ己の姿
舞い降りる花
何かに駆られるような衝動と焦燥
死んだものに涙する感情
否
殺したものに涙する感情
それはもう何処にもなかった
あってはならなかった
命を賭して得られたもの
その意味を問うてはならない
剣に賭けて貫こうとしたもの
その存在を認めてはならない
鬼
人はそう呼ぶ
心の中に確かに存在する闇
その深淵を垣間見る
紅蓮に染まった手は
清めようのないほど穢れ
寒々と冷えた目は
暖めようのないほど汚れていた
静かな激情ばかりが
胸を焼く
押さえ切れない狂気だけが
胸を切る
刃に映るその景色だけを
見つめられるのならば良かったのかもしれない
暗闇からまた暗闇へ
陽射しなど見えなければ良かったのかもしれない
血で何も見えなくなるまで
血が滾る
今宵の雨にまた誘われて
京に降らせた血の雨に
血が凍る
散る花の美しさにまた誘われて
京に散らせた血の花に
あれは京に散る花
儚く美しい京の花
あれは京に降る雨
淡く醜い京の雨
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