チョコ 3 <御堂×克哉>
御堂から小箱を渡され、早速包装を解きにかかった克哉は、最初は瞳を輝かせていた。
「ありがとうございます・・・オレ・・・嬉しいです・・・!」
だがそう言った直後、御堂が
「せっかく明日は世の中が浮かれきっているバレンタインデーだ。何なら私が君に食べさせてやってもいいが?」
と言った瞬間、顔を青ざめさせた。
「その・・・まさか・・・」
「何がまさかだと言うんだ?」
ほんの一瞬考えた御堂は、次の瞬間唇を笑いとは少し違う形に歪めて声を発した。
「これを自分の裡に入れられる事を想像したのか?」
「な・・・!」
まさにそれを考えざるを得ない今までの御堂の所業を想像してしまった克哉は、思わず絶句した。そして言葉より遅れて火がつくように赤面した克哉に、御堂は先ほどまでの甘ったるい笑顔を引っ込めて瞳を光らせた。
「まったく、淫乱だな、君は。」
ゆっくりと、子供に言い聞かせるような言葉の流れ。そして背筋がぞくっとするような、蜜を含んだ笑みを浮かべた御堂を見て、克哉はそこから目が離せなくなっていた。この深い瞳に見つめられているだけで、どんな心のうちも全て曝け出したくなってしまう。全てを見せないといけないような、強迫観念にも似た何かが克哉を襲った。それは初めから御堂が仕込んだものだったのか、克哉の天性のものなのか、もうそれは誰にも判断のつかないくらい曖昧なものになってはいたが、そこには確実にどこか歪んだ、ぐずぐずと内側から溶け出していくような淫靡な感情だった。そんな感情に、二人はお互いに絡めとられていた。
「そんな事を想像していたんなら、望みどおりにしてやる。さあ、箱を渡したまえ。」
「は・・・はい・・・」
御堂の言葉の端には欲望が見え隠れし、そして素直に従ってしまった克哉の瞳にも、怯えに混じってどこかそれを求める輝きが灯っていた。
「ん・・・はぁ・・・」
微かな身体に感じるか感じないか程度の海上の揺れの中、克哉の少しだけ高い息遣いが、外で打ち上げられはじめた花火の音よりほんの少しだけ大きく、船室のベッドの上から響いていた。それなりにきちんとしたものではあったが、シングルサイズのベッドだった。そしてそこにいるのは全裸になった克哉一人。御堂はと言うと、ベッドの脇に置いてある一人がけのソファーに足を組んで座って、克哉をじっと見つめていた。
「見ててやるから、自分で入るまでくつろげてみるんだ・・・克哉。」
一つ目のトリュフをキスと一緒に口腔にねじ込まれた後、御堂はそう言ってソファーに座り込んでしまった。一粒のチョコと、それが完全に二人の唾液で溶けきる様なキス。たったそれだけで、克哉の身体は追い詰められ、瞳は御堂だけを見、そして羞恥などと言う感情が抜け落ちたかのように、克哉は自分の中心を弄っていた。
最初は前だけを弄っていた克哉だが、溢れすぎた蜜が後ろまで垂れて淫猥な音を響かせる頃には、奥まったその部分を御堂に曝け出して指を差し入れるまでになっていた。
「御堂、さん・・・御堂さん・・・!ここ、ここを触って下さい・・・!」
無理な体勢で必死に懇願するものだから、喘ぎ声がいつもより切羽詰って聞こえた。それが妙な艶を含み、御堂は思わず咽喉を鳴らした。
「まだだ。」
しかし、そう言った声にはまだ高圧的な何かがあり、
「御堂・・・さん・・・」
と涙を浮かべる克哉に、御堂はチョコをまた一つ取って近づいた。望むものが与えられるのかと、最初の条件を忘れていた克哉の顔が喜色に輝いたのも一瞬だった。惜しげもなくその奥まった場所を御堂にさらけ出していた克哉のそこに、粉っぽい固い感触があった。
「なに・・・を・・・」
「入れてほしいと最初に思ったのは君だ。望みどおりに入れてやる。」
「そんな・・・あ・・・」
そう言った瞬間、克哉の中にトリュフが一つ押し込まれた。
「んっ・・・」
ウイスキーと生チョコの絶妙な柔らかさのそれは、克哉の体温で徐々に形を崩していった。
「もう一つくらいいけるだろう。」
「やぁ・・・もう・・・嫌です・・・なんか、おかしくて・・・オレ・・・もう!」
既に、自分の指でいくら前を弄ろうと、後ろを寛げようと、克哉は一人ではいけなくなっていた。そして後ろにそんな小さなものを入れられたくらいでは達せるはずもなかった。おまけに自分の熱で溶けたチョコレートが部屋中に甘い香を立ち込めさせ、甘さに酔って眩暈がしてきた。
「もう、もう・・・!あぁ!」
3つ残っていたトリュフを全て克哉に入れた御堂は、最後の一つの形がなくなると同時に自分の指をチョコと同じ場所に押し込んで、その熱い裡をぐるりと撫ぜた。
「ああっ!助けて・・・孝典・・・さん!」
ぬぷっと音をたてて御堂が指を引き抜くと、そこからまるで湯煎したようなチョコレートがゆっくりと一筋、克哉の引き締まった臀部を流れ落ちた。
「もう、いいようだな。」
ぺろりとそれを舐めた御堂の仕草があまりに艶っぽく、克哉はたまらなくなり、半分叫ぶようにして限界を訴えた。
「はい・・・はやく、はやくきてください・・・!孝典さん・・・」
「分かっている、克哉。」
そう御堂が言い、服を脱ぎ捨てた次の瞬間、克哉にはずっと望んでいたものが与えられた。
「ああっ!」
その器官は引き攣れ、痛みを伴っているはずだった。それなのに克哉の口から零れ出たその嬌声は、満足のため息にも似た響きを持って、甘く鼓膜を震わせた。
「ああっ、ああぁ、いい・・・いいです・・・!」
しばらく、部屋の中にはいつもより粘り気のある水音が響いていた。引き抜かれるたび、そこからはぐぷっと音をたてて、御堂の先走りと克哉の張り詰めたそれから垂れてきたものと、そして完全に溶け切ったチョコレートが溢れ出していた。
「凄い、な。絡みつかれる・・・持っていかれそうだ。」
ゆっくりと克哉の中を堪能していた御堂の口からそう言葉が漏れた瞬間、克哉の身体が一際激しく痙攣したように震えた。
「もっと、んっ・・・もっと声、聞かせて下さい・・・!孝典さん・・・好き・・・」
「いくらでも、君が望むだけ言ってやる。克哉・・・愛している。」
耳元でそう囁いた次の瞬間、御堂は急に動きを速めた。
「ああっ!孝典さん・・・!ああぁっ!」
「・・・くっ・・・」
頂点を見た瞬間、克哉の目の前が真っ白になった。その長く尾を引く克哉の喘ぎと、搾り取られるような粘膜の動きに促された御堂も、克哉の中に全てを解き放っていた。こんな互いの姿など自分だけが知っているのだと、それが例え誰にも話せない事であっても、それが愛する人の自分にだけ見せてくれる本当の姿なのだからと、御堂も克哉も違うところで同じ優越感と満足感に浸り、絶頂から緩やかに意識を飛ばすのだった。
こうして、甘い夜は更けていった。恋人達の熔けるような、甘い夜が。
おわり |