絶対的支配力 真冬に起こった悲しい事件が終わった。座木は今まで何人もの秋の「友達」を見てきたが、その中で直也は特別な存在に見えた。人間と妖怪の間に、確かに結ばれる絆をそこに見た座木は、長い時の流れの中の、ほんの一瞬であろうそれが、美しく輝いて見えた。例えそれが今回、哀しい結末に終わったとしても、この友情は続いていくのだろう。直也と秋の最後の言葉は、そんな確信めいた予感を座木にはっきりと与えていた。 秋と座木の間には、友情という関係は成り立たない。そもそも座木が秋に勝手に付いてきて、勝手に一緒にいるだけだ。それでも秋が消えてしまわない限り、座木はそこに「いてもいい」存在ではあるのだろう。その価値は、秋のお気に入りの品々で、薬屋の棚に並んで、埃を完全に被るまで動かされもしない玩具と同じか、それ以下なのかもしれない。絆の美しさと偶然の紡ぎだす稀有な関係、種を超えた友情に温かいものを感じながらも、それでも鬱と考え込んでしまう座木に、まるで思考を読み取ったかのように秋はこう言った。 そしてまた、一瞬の内に思考の海に沈んでいったザギの眉間に寄った皺に、すいとその細い指先を寄せ、それを押し広げるようにしながら秋は笑った。 沈黙が支配する。何も言えない。何も聞こえない。秋以外の、何も。すると一瞬、秋は不思議な瞳の色を波立たせた。笑ったようにも、悲しんでいるようにも見えた。そしてまた、全く読めない表情になり、ふわっと夜空に紫に薄くたなびく煙を吐き出した。 座木がいくら考えたところで、秋の心は分かるはずもなく、しかし秋の中ではその答えは自明の理なのだろう。それでもそんな僅かな仕草にありもしない妄想と想像の産物を植えつける。そんな秋が憎くもあり、そして・・・ 支配されているのだ。この身体も、心も、思考も、存在すら、何もかも。そんな絶対的な支配力に、今もまだ、縛られたまま。 おわり |