Sweet
Million Candies 6 〜買い物〜
予報どおり、雲ひとつない青空が広がる午後。傍から見れば不思議な組み合わせの3人組が、セントラルでもなかなかに人気のあるショッピングモールで楽しそうに買い物をしていた。まずは洋服かしらと、中尉が連れて行ってくれたお店は、普段のシックな中尉からは想像できないほど、可愛らしいお店だった。レースをふんだんに使った柔らかい生地に、リボンや小さく嫌味のない花柄を多用している。見た目も華やかなピンクを基調とした店内に、エルリック兄妹は目を丸くしていた。
「えっと、私なりにアルフォンス君に似合いそうなお店を選んでみたのよ。どうかしら・・・あ、好みじゃなかったら他のお店に行くわ。遠慮しないで。」
「え、ボクに似合いそうな・・・?どうしよう兄さん・・・ボク、こういう可愛い服、一回着てみたかったんだ・・・」
どこか夢見心地で、アルフォンスがエドワードの袖をぎゅっとひっぱった。相変わらず今日もその仕草が可愛らしい。そんなことを思って、エドワードはとびきりの笑顔を向けた。とてもではないが、いつもの三白眼からは想像できないような笑顔を。
「ああ、オレもお前に似合うと思うな。こんな、ふんわりした感じのがお前にぴったりだ。」
「えへへ、そうかな?」
すると今度は、照れてはにかんだようにアルフォンスがぱあっと笑った。
「何でも買ってやるからな、遠慮なんかするなよ。」
「うん!」
「よかったわ。気に入ってもらえたみたいで。」
中尉もにっこり笑って、長い買い物がスタートした。
女の子の服選びって、こんなに時間のかかるもんなのか?と、エドワードは一人、店の外のベンチでへばっていた。そしてしびれを切らした頃に、ようやくアルフォンスと中尉がエドワードの所にやって来た。ずいぶん大きな包みを抱えている。
「兄さん!こんないっぱい買っちゃった。本当に良かったの?」
今まで寒いだとか遅いだとかぶーたれていたエドワードの顔が、急に輝いた。
「ああ、良いに決まってるだろ、アル。あとで色々着て見せてくれよ?それで等価交換成立だ。」
アルフォンスは一瞬、ん?と思ったが、深く考えるのはやめて、とにかく礼を言った。
「うん!ありがとう兄さん。あのね、次はランジェリーショップに行くんだって。ほら、あそこの。」
アルフォンスの指差した先には、これまた可愛らしい雰囲気の一件のお店があった。
なんとなく、何かに期待していたはずなのに、いざそこに来るとエドワードは、急激な恥ずかしさに襲われた。
「お前、なんでこんなこっぱずかしい所に平気で入れるんだ!」
普通の服を買う時と同じように、すっと下着専門店の中に入っていくアルフォンスに、入り口で固まってしまったエドワードが叫んだ。
「え、別にいいじゃん、買い物しに来たんだし。それに可愛いよー。ほら、これとか!」
アルフォンスはその手に、ピンクのレースでひらひらした、可愛らしいデザインのブラジャーを持っていた。その横にはホークアイ中尉が、そしてその脇には店員と思わしきメジャーを首にひっかけたおねえさんがにこにこと笑ってこっちを見ていた。
「ええと、あああと、あのだな・・・」
何だかんだ言いつつも、エドワードはただ単に恥ずかしいらしい。それでも、
「アル、ちゃんと清楚なやつを選ぶんだぞ!色は白とかにしろー。破廉恥なものなんか、お兄ちゃん許さないからな!」
という注文はできるようだ。
「そこまで言うなら一緒に来る!」
結局店に引きずり込まれたエドワードは、ホークアイ中尉にくすっと笑われ、店員のおねえさんに営業スマイルを向けられ、かあーっと体温が二度ぐらいあがったようだった。
さて、エドワードを引きずって買い物を終えてみると、アルフォンスは必要最低限の枚数だけしか下着を買っていなかった。そのかわり、通販のできる厚めのカタログをもらってきていた。サイズも分かったし、これからゆっくり買い揃えていけばいいと思ったためだ。(それにエドワードが口うるさいためでもある。)可愛いカタログと買い物の包みを胸に抱えながら、アルフォンスがふふっと幸せそうに笑った。
「これで大体要領は分かりました。ありがとうございました。」
「いいえ、どういたしまして。また何かあったら呼んでね。」
「はい。今度はゆっくり買い物したいです。ねえ、兄さん。・・・兄さん?」
まだぽけーっとしているエドワードは、アルフォンスに突かれてやっと口を開いた。
「あ、ああそうだな。じゃあまた、中尉。」
「ええ、じゃあまたね。」
二人は中尉が去っていく姿を見送った。そしてその姿が見えなくなると、エドワードは、少しくすぐったそうに口を開いた。
「えっと、うちに帰るか。アルフォンス。」
「うん、帰ろう、兄さん。」
アルフォンスも、少し恥ずかしそうにそう言った。昨日までのバタバタしていた状態では感じられなかった幸せな何かを、二人は今感じていた。
つづく |