Sweet
Million Candies 4 〜報告〜
というわけで、めでたくエルリック兄弟はエドワードの右手以外を取り戻した。そして自分達の錬成を行った小屋を錬成しなおし、小さいながらも二人は我が家と呼べるものを持つことになったのであった。ここから、ツッコミをいれるのもバカバカしくなるほどの、兄妹の甘い生活が始まることになったのであった。
さて、いつまでも裸マントでいるわけにもいかないので、(そのままでもエドワードは一向に構わないのだが、アルフォンスが嫌がるので仕方なく)エドワードは自分のお下がりの服を着せてみた。
「えへへ。兄さんの服だー。」
無邪気に喜ぶアルフォンスの可愛いこと!アルフォンスは妙にエドワードの服が気に入ったらしく、ご機嫌だ。
「前から兄さんの服、ちょっと羨ましかったんだー。」
そんなことを言いながら、軍部に向かう途中、アルフォンスは戻った感覚を楽しんでいた。きょろきょろと辺りを見渡しては風景に感嘆のため息をこぼし、花を摘んではにおいをかいで喜んでいる。そして、以前だったらありえないことだが、今はその感触すら嬉しいのか、アルフォンスはエドワードと腕を組んで歩いていた。そんな浮かれっぷりは難しい顔をしてなにやら考え事をしていたエドワードにも感染していた。というのも、エドワードはこのことをできるだけ内密にしておきたかった。今も一応軍属である身。人体錬成はご法度である。それでも今、軍部に向かっているのは、その錬成をするために今まで協力してくれた軍部の面々に報告しておかねば、という義務感にかられているからなのだ。あの大佐に頭を下げるのは癪だが、それでも恩があるのは動かせない事実。筋を通さねば気がすまないエドワードは、その報告をしに向かっているのだ。しかし親しい一部の軍人以外に、この麗しい少女のことをどう説明するか、それが問題だったために、そのことで頭を悩ませていたのだ。でも、アルフォンスのそんな可愛らしいしぐさを見ていると、もうどうにでもなれという気分になってきた。そんなこんなで、ロイ・マスタング大佐のいる司令室に兄妹はやってきた。
「・・・大佐、何かおっしゃってはいかがですか。」
「あ、ああ・・・」
マスタング大佐の忠実な部下以外の人払いをした司令室で、はじめに口を開いたのはホークアイ中尉だった。エドワードにアルフォンスを紹介されて、そこにいた誰もが固まってしまったのだ。
「なんだよ、何とか言えよ。せっかく報告に来てやってるんだろ?そのまま消えちまっても良かったんだぜ?」
エドワードはそんな風にそっぽを向き、アルフォンスはにこにこしながらその様子を見ている。普段だったらエドワードの上官に向かってとは思えない口調にアルフォンスがたしなめの言葉を発し、大佐が嫌味の一つでも言って場が和やかに(?)なるところであるが、今日は違った。この軍部のメンバーの中で錬金術を使えるのは大佐だけ。それであるがゆえに、その成功とちょっとした手違いの原因に一番驚いているのは大佐その人なのであった。
『ちょっとまて。なぜ弟が女になっているんだ鋼の。そりゃ洒落でデートに誘ったことはあったが、まさか本当になるとは・・・。母親の理論ばかり練っていた昔のクセがまだ錬成陣に入り込んでいたのか?母親の錬成を基本に構築したなら、そうなるのも仕方がないのか?それになんだねそのいちゃつきっぷりは。いいかげんに人前なのだから腕を組むのをやめんか鋼の。いやいや、そういう問題じゃないだろう、私。そんなことより人体錬成自体の成功に驚くべきじゃないのか?そうだ、確かにそうだ。』
とまあ、そんなことがぐるぐると頭の中に回って、言葉が出てこなくなっていたのだ。
「・・・長年の願い、よく叶えた。国家資格の継続云々については後日でよかろう。さがって休みたまえ。」
つまり早い話が、大佐に言えた事はこれだけだったのだ。
「つまんねえ反応だなぁ、アル。」
「まあまあ。大佐にそう言ってもらえたことだし、今日はゆっくり休もうよ。」
「まあそうだな。帰るか。じゃ、そういうことで、また来るかもしれないから、よろしく。」
兄妹はそう言って、呆然とした軍人たちのいる司令部をあとにした。
「これで一応報告も済んだし、さあ、帰って休むか。」
「うん、そうだね。とりあえず昨日は応急処置ぐらいにあの小屋を治しておいたけど、もう少しきれいに錬成しなおせば住めるようになるよね。」
「ああ、そうだな。いずれきちんとするさ。」
「それに、兄さん国家資格どうするの?」
「うん、オレもそれを考えてたんだ。お前も肉体を手に入れたし、オレだって右手だけ機械鎧でも不便はないし、資格がなくてもいいとは思う。でも当分生活するためには持ってて損はないよな。」
「そっか・・・そうだよね。でもボク、兄さんが戦争とかに召集されちゃうのは嫌だよ。せっかく二人で暮らせるようになったのに。」
「アル・・・お前・・・」
思わず涙ぐんでしまうエドワードと、心配そうに兄を見上げるアルフォンス、そんな周りが引いてしまうほど仲睦まじい兄妹に、声をかける者がいた。
「エドワード君、アルフォンス君、ちょっと。」
それは、ちょっと困ったような顔をしているホークアイ中尉だった。
つづく |