Sweet Million Candies 2  錬成

 

ここはセントラルの市街から少し離れたとある小屋。最近エドワードが買い取ったものだ。古くて、今にも壊れそうなこの小屋は、時代からも人の記憶からも消されようとしていた。アルフォンスは、本当は人がいる所での錬成を望んでいた。万が一失敗しても、病院の設備の整った軍部施設近くや、ばっちゃんとウィンリィのいるリゼンブールにいれば、現在肉体のあるエドワードだけは、きっと助かるに違いないと思っていたからだ。しかしそれはエドワードのとんでもない反対にあって、結局ここに落ち着いた。エドワードは、そんな弟を許さなかった。もし失敗しても、自分だけ助かることなど考えたくないと言った。お前が戻ってこられない世界で、オレが生きている意味はないと、そう言い切ったのだ。アルフォンスは、そんなエドワードの気持ちに、もう何も言えはしなかった。喜びと切なさが胸を切るようだった。

 

エルリック兄弟は、大きな錬成陣の中に入り、手に手を取り合っていた。繋いだ手で作った円は循環を表し、足元にある複雑すぎる構築式を最後にまとめる役割をしていた。ここでエドワードがいつものように手を合わせる必要はない。あとは二人で同時に理解・分解・再構築を行えばいいだけだ。二人は視線を交わし、静かに頷いた。すると、錬金術特有の、目の眩むような光が二人を包み込んだ・・・

 

 エドワードがはじめに取り戻した感覚は、聴覚だった。まだ目は錬成時の光に眩み、さらに煙が漂っていて周りの状況がよく分からない。それでも、エドワードは生きていた。少なくとも、自分は錬成に巻き込まれることなく、あっちへ何かを持っていかれることもなかったと分かった。はっと、息をのむ、自分の声が聞こえた。
「オレは・・・生きてる・・・アルは?アル!アルフォンス!」
エドワードの必死な呼び声に、一生懸命応えようとする者がいた。
「・・・に・・・いさん?」
小さな呻きはエドのすぐ前から聞こえてきた。か細い、少し高めの声だ。記憶にある、懐かしいアルフォンスの肉声のような気がする。目の前はまだ真っ白。頼りはこの戻って間もない、聞こえにくい自分の聴覚だけだ。
「アル・・・アルなのか!良かった!」
エドワードは涙ながらに、弟であるはずの肉体を引き寄せて、その感覚全てでその存在を感じようと力いっぱい抱きしめた。頬を、涙が流れていく。そんな抱擁に、はじめは体をこわばらせたものの、おずおずとそれに応える腕が伸びてきた。そして、そっとエドワードを抱きしめ返した。
「兄さん・・・」
感動もひとしおの二人の目の前から、ゆっくりと錬成の煙が引いてゆく・・・

 

つづく