恋するお豆ちゃん
〜Loving Bean?
最近、兄さんの様子がおかしいことにボクは気がついたんだ。夜中にこっそり起き出しては、壊れかけた古いラジオをいじってる。はじめにボクがそれを見つけてどうしたの?と聞いたら、すごくびっくりした顔でボクを見て、なんでもねエって言ってベッドに走って行っちゃった。その時は変な兄さん、って思っただけだったんだけど。そのおかしな行動に規則性があることに気づいてしまったんだ。 兄さんは決まって日曜日の深夜、2時半ごろに起き出してくるんだ。ボクは眠らないけど、一応兄さんと一緒の時間にベッドに入ることにしている。兄さんはボクが寝ていないってこと知ってるはずなのに、気づかれないとでも思ってるのかな。それでもいつも、こっそり音も立てずに部屋を出て行くんだ。ある日ボクはたまらなくなって、そおっと兄さんの後をつけていった・・・ 真夜中、がらんとした部屋にラジオの音が響いていた。そこにはラジオと毛布を頭からかぶった兄さんだけがいた。電気は消して、見える光は外の星だけ。時折聞こえる怪電波音も消え去る2時半過ぎ。ダイヤルはFMの某。こんな夜中の番組って、一体何を兄さんは聞いているんだろ?軽快な音楽で始まったその番組は、いかがわしそうな雰囲気を一欠けらも持っていなかったから、ボクはちょっと安心した。一応お年頃だしね、兄さんもボクも。ちょっと心配しちゃっただけ。でも、そこから聞こえてくる声に、ボクは驚いちゃった。 この番組では
みんなのリクエストを待ってるぜ!
え?ヒューズ中佐?ボクは一瞬耳を疑った。どーして軍部の人がこんなことやってるんだろって。でも、ヒューズ中佐の性格を考えると、これくらいのことは趣味でやっちゃうのかなーなんて思ったんだ。それにヒューズ中佐って一応(失礼!)情報部のお偉いさんでしょ、機材なんてそこら辺に転がってるし、うーん、ありえないことじゃないかな。で、妙に納得。でも、なんでそれなら兄さん、ボクに言ってくれないんだろ。こんな楽しそうな番組、いくら夜中でも一緒に聞いたっていいじゃないかー!そんな風にボクがちょっとむくれていたら、なんだか番組はどんどん進んでいったんだ。 さて、今夜もここでおハガキを一通紹介するぜ! 今まで番組の内容がかなりヒューズ中佐の家族自慢だったから、ボクはちょっと油断していたのかな。兄さんに詰め寄るタイミングを忘れて、ちょぴりあきれて兄さんとラジオをぼーっと見ていたんだ。 ええとー、どれにしようか・・な、と。 あれ?どうしたんだろヒューズ中佐。なんで続き言わないんだろ。しかも兄さんはどうして小さくガッツポーズしてるんだろ?ボクはその時までのんびりかまえていたし、兄さんがボクを呼んでくれないなら、きっと邪魔されたくないんだと思って、もうそろそろ戻ろうかなーなんて思っていたんだ。 ゴホン、えーあー・・・ なぜか詰まっているヒューズ中佐がこそこそとディレクター?に話かけてるのが聞こえる。え?大佐も一枚かんでるの?うわー・・軍部ってそんなに暇なのかなぁ。そんなことを考えて、こっそり笑ったボクに、少しだけチっていう音が聞こえた。それは兄さんが舌打ちした音だった。どーしたのさ、兄さん。何イラついてるんだろ。さっきはガッツポーズしてたのに。でも次の言葉でボクはその場に固まってしまったんだ。 あー、失礼!気をとりなおして、おハガキ紹介だ! え?え?えーーーーーっ!?何?なになにーーー?!!恋するお豆ちゃんって?鎧って?何が起こってるの?ねえ、兄さん教えてよ!ばっと振り向いて兄さんを見てみたら・・・そこにはほんのり頬をピンクに染めて、うっとりラジオに耳を傾けている兄さんがいたんだ!しかもテープの録音ボタンを押してるよぉーーー!どうなってるのぉーーー!? こんなボクの混乱を置いておいて、ヒューズ中佐はもう諦めたように真面目なコメントを発してる・・・ 「恋するお豆」ちゃん でも、でもヒューズ中佐!最後の方、笑ってますよー!いいんですかー?ボクは頭の片隅でそんな冷静なことを考えてた。事態はだんだんはっきりしてきた。これは・・・これはもしかしなくても・・・ヒューズ中佐の恋のお悩み相談室?で、まさかとは思うけど、兄さんはそれに毎週ハガキを出していたの?!?なんてタイミングがいいというか、悪いというか、ボクは偶然、そのハガキが読まれるのを聞いちゃったわけなの?しかも鎧って、鎧って・・・!!!もしかしなくてもボクのこと!!?? ええーーーーっ!!! ボクの混乱と心の叫びなんかとてもラジオの向こう側には届かないから、番組は佳境に入っていった。兄さんはまだテープの残りを気にしながら録音状態を続けてる。 (ちょっと、ロイ!これも読めってのか?おい!お前がここからは書いたんだろ!) 番組はまた軽快な音楽で幕を閉じ、兄さんが満足げに録音スイッチを切った。ボクは急に静かになった部屋に鋼の鎧の音が聞こえないように、その前にそそくさとベッドに戻った。 R.N「恋するお豆」ちゃん 結局一晩中、ボクはこのフレーズが頭から離れなかった・・・ Happy
end? |