心の鍵
遠い日の二人だけの秘密が こんなかたちになるなんて。
ボクたちは思ってもみなかった・・・
ボクには 兄さんのかわりに涙を流すこともできない。
大声で泣き叫ぶことのできない兄さんのかわりに。
ボクには 兄さんを抱きしめることもできない。
一人で凍えて温かさを求めている兄さんのために。
ボクには 兄さんの震えを止めることもできない。
この冷たい鋼の身体では。
でもボクには 兄さんの痛みが分かる。
兄さんが自らを差し出して呼び戻してくれた、この魂と心があるのだから。
兄さんがボクにしてくれたのは、魂の練成だけじゃない。
ボクは痛みも悲しみも寂しさも感じられる心がある。
全て兄さんが ボクにくれたもの。
このボクに 兄さんのためにできることはないのだろうか。
ずっとそばにいて 兄さんのためにできたことは何だろうか。
ボクは知っている。
兄さんが自分の無力さに 悔しさの涙をかみしめていることが。
兄さんが小さな声であやまっていたのを。
兄さんのせいなんかじゃないのに。
それは全部 兄さんの優しさなのに。
ボクは分かっている。
兄さんのほほえみが 本当はとても綺麗だということを。
いつも感情を目に見える形に表現しているけれど、
本当は悲しみをたたえた目をしていることを。
それはあまりに脆くて美しくて、
ボクも同じものを持っていたのだろうかと 疑いたくなるくらい。
それは綺麗な黄金の目だから。
どこまでも澄みきっていて 強くて弱いあの目だから。
何かを失った時 兄さんはボクをそっと抱きしめてくれた。
この醜い鋼の身体も あの小さな身体で。
そんな時 兄さんはとっても大きく見えたのだっけ。
包み込む あの温かさをボクは知っているから。
この身体では感じることはできないけれど
でも なんだか温かいような気がしたんだ。
兄さんと同じ身体に戻れたら
あの身体を思いっきり抱きしめてあげたい。
胸の中で思いっきり泣かせてあげたい。
ボクは兄さんが大好きだから。
この鋼の胸が いっぱいになって弾けないうちに。
どうか 兄さんを守る力をボクに下さい。
ボクの中にある優しさを 全て兄さんのために使いたい。
ボクはどうなってもいいから。
ボクの魂を全て差し出して兄さんを救いたい。
それは兄さんの片腕にも満たないものなのかもしれないけれど。
ボクは兄さんと共にありたい。
もしこのまま ボクが元の身体に戻れなかったら どうなるのだろう。
このまま年老いて いつか遠い日に 兄さんの道が終わるのだとしたら。
このボクの魂はどうなるのだろうか。
兄さんを失ってしまったら ボクは、ボクの魂はここにいる意味はない。
いっそ兄さんのそばに眠りたい。
たとえボクは朽ち果てず 兄さんだけが大地に還ってゆくとしても。
それで永遠に兄さんを守れるのだったら ボクが兄さんの棺にでもなろう。
もしボクが 安らかに眠れないのだったら
いっそ兄さんに壊されて消えてしまいたい。
時に流されて 悲しい記憶だけが残るのならば。
ボクの魂は 兄さん以外に救いの手を持たない。
あの瞳が ボクの心だから。
あの眼差しが ボクの全てだから。
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