赤襦袢・おまけ:後日のアルフォンス

 あの襦袢という服を大佐にもらってから、兄さんの様子がちょっと・・・いや、かなりおかしいと思う。なんていうか、ボクがそれを着るのを楽しみにしてる。ボクもあの肌触りだし、着るのは大好きになって、毎日でも着たい。それは別にいい。でも、それを着たボクを見る兄さんの目が、なんだかおかしいんだ。どこかうっとりしてるっていうか、よからぬことを考えているっていうか。はっきり言ってしまえば、あれはいやらしいことを考えてる目だ!何がそんなにいいのか、ボクには分からなかった。だって普通のバスローブの、高級なやつでしょ?確かに生地は良いし、見た目も綺麗だけど、兄さんが興奮するような要素はないような気がする。だからボクは、少しイタズラ心も手伝って、兄さんにもこれを着させることにしたんだ。ボクの半分は、こう思っていた。
『ボクばっかりこんな良いものを着てちゃ悪いよ。せっかくもらったんだし、兄さんにも着てほしいな。』
そしてボクのもう半分は、こんなことを考えていた。
『あの兄さんの目は尋常じゃない。兄さんにもこれを着せて、その訳を知ってやるー!』
ということで、兄さんに話を持ちかけてみた。

「ねえ、兄さん。」
「ん?何だ、アル。」
夕食の時に、さりげなく言ってみた。
「兄さんもさ、たまにはあの襦袢、着てみたらどお?」
「へ?オレが?」
「うん、ボクだけあんな気持ち良いもの、独り占めして着てるのはなんだかもったいないよ。」
「でもなー、オレなんかが着ても似合わないだろー。」
「似合うとかそういう問題なのかな。どうせバスローブでしょ。家の中でしか着ないんだから、いいじゃない。ボクしか見てないよ。」
「そうかー。うーん、でもオレが着てもなぁ。」
「大丈夫だってば、ほら、洗っておいたから。ねv」
「お、おう。じゃ、着てみるかな。」
はじめは渋っていた兄さんも、ボクの説得にどうやら納得してくれたようだった。
 

「おい、やっぱりヘンだろー。」
兄さんの、ちょっと困ったような声が聞こえた。どうやらお風呂から出たみたいだった。
「えー、どれどれー?」
からかうような気持ちで、軽く兄さんに声をかけると、兄さんがなんだか困惑したような表情でボクの前に姿をあらわした。
「・・・!!」
思わずボクは、息をのんで固まってしまった。ただ東洋の服を着ている兄さんであるはずなのに、それはなんだか見てはいけない領域のような気がした。
 

普段ぴったりと体に沿うような服を着ている兄さんからは、想像もつかないほどゆったりした生地は緩やかに兄さんの筋肉質の身体を覆っていた。直線的なものはどこにもなく、どこもかしこも流れるような曲線だ。少し兄さんが動くだけで、布の表面が光を反射して小さな輝きを放っていた。その紅い光よりさらに強く目を射るのは、襟元と腰にある純白の帯だ。白の襟からわずかに覗く肌は少しだけ日に焼け、健康的な色をしているにも関わらず、ぞくっとするような色気を漂わせていた。真紅の絹に、三つ編みを解いた綺麗な金髪がはらりとかかっていた。煌く細い金髪は光を受けてさらさらと項にかかり、その先の一部は襦袢の中に入り、そこから零れ落ちたものが紅の布地にまるで金の刺繍のように散らばっていた。その目にも痛い美しすぎる色の対比は、どこか妖艶な雰囲気が醸し出されていた。そしてその髪を、兄さんはけだるげに片手でかき上げた。

 冗談じゃなかった。これは、もう冗談にするには度を超えている風景だった。得体の知れない背筋を駆け上がる衝動に、ボクはもうどこか、おかしくなってしまうのではないかと思った。そしてこの艶めかしすぎて綺麗な兄さんを、絶対に他の人に見せてはいけないと、本能的にそう感じた。

・・・なんだかボク、兄さんの気持ちが分かったような気がしたよ・・・どうしよう!っていうか兄さんはそんな目でボクのことを見てたのか・・・。は!ボクも同じこと思っちゃったってことは、兄さんと同類?そ、そんなぁ・・・

そうしてボクは、なぜだか嬉しそうに床に就く兄さんを目だけで見送りつつ、床にへたりこむことしかできなかった。そしてそんなボクたち二人は、結局似たもの兄弟なのかもしれなかった。

おわり