薄戦風
事の始まりは魔家四将であった。
長かった戦いの末、魔家四将が原型を現し、楊戩一人が向かっていった。
「楊戩はわかっておったのだ。魔家四将が『人間の形』である時に弱らせておく必要があったことに・・・。」
向かって行く楊戩に、次々と魔家四将それぞれの技が繰り出され、魔礼海の琵琶が鳴り響いた。と、突然武吉が頭を抱えてしゃがみこんだ。
「うわーっ!」
「武吉!」
太公望は頭が痛いと訴える武吉に駆け寄り、武吉の頭を抱えた。
『こやつは人間なのだ。これ以上は・・・!楊戩・・・・、頼んだぞ。おぬしに全てをまかせる・・・・。』
「楊戩はやくせいっ!」
だが、太公望の口から出た言葉はこれだけであり、気持ちを楊戩の心に届かせるのには不十分であった。無表情で一気に敵を倒し、一旦は笑いを浮かべたものの、楊戩はすぐに又、険しい表情に戻った。
『師叔は・・・、師叔は今何を考えているのだろう・・・。武吉くんはこれで助かる。師叔はもう僕のことを忘れて、武吉君の無事だけを思って喜んでいるのだろうか・・・・・・。』
こんな考えが、いくら振り落とそうと思っても頭から離れない。せっかく敵を倒したというのに、取り残されたような寂しさだけが残った。ところが、魔家四将はまだ生きていた。そしてその体液が大地を腐らせ始めた。不意をつかれ、後ずさりした楊戩に声を掛けるものがいた。
「楊戩!早くとどめをさすのだ!」
それは、まだ傷も癒えず、危ない足取りのまま急いでやってきた太公望であった。
『師叔・・・・・・。』
その傷ついた身体を無理に動かして自分のところへ来てくれた。それだけで、楊戩はいつもの冷静さを取り戻した。そして、魔家四将をもう一度見て真顔になった太公望に、楊戩は話し掛けた。
「太公望師叔!最後はあなたが決めてください。」
楊戩は、自分でこの戦いを終わらせてはいけないような気がした。
「この戦いで、僕たち崑崙の道士は初めて力を合わせて戦いました。これは大変な進歩です。」
そして楊戩は三尖刀を下ろした。
「だからこそ、この戦いに幕を引くのはあなたがふさわしいのです。」
「・・・・・・・・わかった・・・。」
戦いは静かに終わりを迎えた。
この出来事によって、戦気の高まる周の民とは逆に、これから迎えざるを得ない多くの人間の犠牲を思う太公望の気持ちは沈んでいた。だが、太公望はもはや一人ではなかった。太公望には楊戩を含め、仲間がいる。本当に良い仲間が。
そして楊戩は、殷と週の境に作る要塞の監督に命ぜられ、一旦西岐を離れるのであった。
おわり
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