聖なる夜に妄想を 戦国版 2
「ま・・・政宗殿・・・某・・・」
鼻唄でも歌いだしそうに上機嫌の政宗と真逆の情けない声が、政宗の下にいる幸村からあがった。
「何だ。」
さあてこれからどうやって楽しもうかと政宗が思った途端、幸村からこの状況ではありえない発言が飛び出した。
「その、けえきを食したく・・・」
「What’s?」
一瞬、政宗が耳を疑った。散々閨を共にしている相手が此処まで美味しく際どい状況を――酔いに任せているとは言え――作り出しているのだ。普通はどう考えてもそっち方面に転がるだろう。それなのに、今幸村は何と言った? 軽く頭痛のした政宗に追い討ちをかけるように、幸村が今度はきっぱりと言い切った。
「某、けえきを食しとうござる!」
「〜〜〜!」
声にならない叫びを上げて、政宗がガックリと幸村の上で脱力した。
「アンタなァ・・・ほんっと、Moodってもんの一欠けらも持ち合わせがねェんだな。」
辛うじてそう言った政宗が幸村の肩に手を置くと、両手が縛られているのも気にせず、幸村がきょとんとした雰囲気のまま首を傾げた。
「むぅ・・・? 某、何か致しましたでしょうか・・・お気を悪くなされましたらあいすみませぬ。しかし、政宗殿のお手ずからお作り頂いた甘味を、このままにしておくのは余りにもしのびなく、以前お作り頂いた際も大変美味にござった故・・・」
このまま幸村に続けさせておいても、延々とそんな話しか出てこないのだろう。
「Ah〜、何でもねェよ。分かった。」
諦めたように、政宗はしゅるりと音を立てて幸村の鉢巻を解いた。解いた下からはきらきらとした大きな瞳が覗いており、もうそれを見たら政宗には何も言えなくなってしまった。
期待した眼差しでいる幸村に、政宗は盛大に溜息をついてからちょっと手を挙げて降参の姿勢を取った。
「All
right、ここからはアンタの好きにして良いぜ。」
「ありがたき幸せに存知まする政宗殿!」
雰囲気と言うものの価値をぶち壊す幸村には慣れっこになっていたはずだったが、それでもちょっとだけ何か腑に落ちない政宗であった。そんな蒼竜の思惑など意に介さず、幸村はいそいそと籠から甘味を取り出し始めた。
「それでは早速、政宗殿も共に戴きましょうぞ!」
嬉しさの余りか甘味を握りつぶしそうになっている幸村は、甘味を取り出し終わると得意げにそこらの棚から細身の蝋燭を取り出した。
「それに! 某、鎮西にある南蛮城で聞き申した! このけえきなるものは蝋燭を燈してから食すのが正しい作法であると! さあ、やってみましょうぞ!」
鼻息荒くそんな事を言いながら、幸村がその目の前にある白い塊に蝋燭を勢い良く突き刺した。
「Oh!」
せっかくの政宗が飾った甘味上の造形も、幸村の一刺しで塵芥と帰した。
「さあ、某の火で燈してみせましょうぞ!」
「Stop! アンタのじゃ強すぎんだろどう考えても!」
このまま幸村に任せておいたら蝋燭どころか甘味まで炭になりかねない。思わずさっと幸村から竹の葉ごと甘味を取り上げた政宗が、早口で半ば叫んだ。
「分かったから慌てんな。オレが火もつけてやるし、アンタに食べさせてもやる!」
「真ですか政宗殿!」
「武士に二言はねェよ。ほら、とっとと口開けな。」
そんな訳で、何とも贅沢な贈物を貰う事になった幸村だった。さて、政宗から甘い甘い一口目を貰って、満面の笑みでそれを食べた幸村だが、次の瞬間はたと思い出したように小首を傾げた。
「そう言えば、目隠し遊びは終わりにござりまするか?」
『それを此処で言うか!』
言葉にならない怒りとも呆れともつかぬ感情を爆発させ、本日一番盛大に心の中でそう叫んだ政宗であった。
と言う訳で、そんなどこにでもあるようで色々とありえない、聖なる夜の出来事であった。
おしまい
あれ? 仕上がったらそれほど政宗様幸せになってない? 寧ろ真田得? 真田の酷さが更に際立ってます・・・? ・・・あの、すみませんちょっと何だか色々と悔しいので、皆さまのラブラブサナダテなクリスマスを覗きに旅立ちます。ほんとすみません; ツッコミ等々ございましたらお気軽に「兵糧」までどうぞ。お読み頂きありがとうございました! |