聖なる夜に妄想を 現代版 2
さて、空きっ腹に意外とアルコール度数の高い酒を胃に入れた二人は、流石にいつもより酔いが早く回ってきていた。特に政宗は、見た目はさほど変わらないのだが、瓶が空になる頃には多少背の低い幸村の肩に肘を乗せて顔も寄せ、はわはわと真っ赤になる幸村の表情を愉しむくらいには酔っていた。
「ま、政宗殿・・・某・・・」
幸村が何か言おうとしたのを政宗が遮った。
「黙ってな。」
そう言ったかと思うと、いつも何故か幸村が額に巻いている紅い鉢巻を政宗がしゅるりと解いた。これは政宗の、幸村を床に誘う常套手段だ。
「今夜はこれで、アンタの好きにしな。」
「好きに・・・と申されましても・・・」
酒のせいでは絶対にないような耳まで赤くした幸村の腿に半ば乗っかりながら政宗はニヤリと笑って言葉を続けた。
「例えば・・・」
ほとんど無抵抗な、そしていつまで経っても初な恋人に笑いを零しながら政宗は、幸村から解いた鉢巻を己の隻眼を塞ぐように当てた。
「こうやって、目隠ししても、良いんだぜ?」
「ま・・・」
更に何か口にしかけた幸村の手を取り、政宗はその鉢巻を、自ら目隠しをするように巻き付けさせた。紅い布で視界が塞がれると、急に聴覚が研ぎ澄まされたようになった。ごくりと小さく幸村の咽喉が鳴ったのを、政宗は聞き逃さなかった。
「なんだ、足りねェのか? じゃあ、こうしちゃァどうだ。まだ余ってんだろ。」
目隠しをしても、幸村の鉢巻はまだ長く残っていた。肌触りの良いそれは、肌を直接縛ってもそれほど痛くもないだろう。それでも最後の何か――もしかしたら脳内で再生された世話役の小十郎の小言かもしれない――が政宗を止め、服の上から器用にも自分の手首を縛るようにと幸村の手を誘導した。
「あっちの箱にかかってるribbonでも良かったんだけどな。」
そう政宗が言うと、幸村の手が鉢巻を掴んですっと降ろした。途端、政宗の手首に巻き付いていた鉢巻がキュッと締まった。
『おっ、やっとその気になったか? ちょっと面倒くさいがそこも真田幸村だぜ!』
そんな事を思った政宗の手首は頭の後ろで交差して、目隠し兼拘束具と成り果てた紅い鉢巻にきっちりと縛られていた。
そんな状態で二人の間に沈黙が落ちた。
『さて、どうする気だ? とりあえずKissか? いや、せっかく縛ってるんだ。荒っぽく扱われるのも楽しいじゃねェか。』
政宗の胸は、妙な方向にときめいていた。余りに奥手で初な幸村との毎回の逢瀬もたまらないが、たまには刺激が欲しかった政宗は、今夜の上出来な具合に内心ほくそ笑んでいた。すると、政宗が乗っかった幸村の体が少しだけ横にずれた。
『何だ・・・?』
そう思うと、何やらガサガサと言う音が聞こえた。
『何準備してやがんだ? いつものアレか? せっかくこんなsituationなのに必要ねェだろうが。まあ、でもこの優しさも真田じゃァ仕方ない・・・か。』
政宗が脳内でそう惚気た途端、身体の下から伺うような幸村の声が聞こえた。
「あの・・・やっぱり蝋燭には火を灯さねばなりませぬか、政宗殿。」
「あ・・・ああ、そりゃそうだろ。」
政宗は正直吃驚していた。
『オイオイ、まさかここでcandleかよ! 一気に大人の階段駆け上がりすぎだろ真田幸村ァ! どこぞの猿にでも教え込まれたか? Ha! 面白れェ。受けて立ってやるぜ!』
そう思った瞬間、政宗の肩が幸村にがしっと掴まれた。
「政宗殿っ・・・! 某、もう我慢出来申さぬぅぁああ!」
「それでこそオレのもんだ! 真田幸村ァ!」
身動きを封じられ隻眼も塞がれた政宗が、とうとう幸村がこっちの方向にも目覚めてくれたかと、昂る身体をぶるりと震わせて歓喜した瞬間、熱いほどの幸村の体温が政宗から離れた。
「What?」
一瞬何が起きたのか分からない政宗が頓狂な声を出すと、横でバリッとケーキの入った箱を破る音が聞こえた。
「某、空腹の限界にござるぁ! 政宗殿! この甘味、有難く頂戴仕る! 蝋燭も灯しまする故!」
「Wait! Wait幸村っ! さっきまでノッてただろ真田幸村ァ!」
もはや幸村に、政宗の叫びは届かなかった。幸村の胃袋の限界に、政宗の悲鳴が響く、聖なる夜の出来事であった。
おしまい
本当に真田酷い(笑)。書くのは大変楽しかったです。ツッコミその他諸々ございましたら、ぜひともお気軽に「兵糧」の方へ。いつもとノリの違うお話でしたが、お読み頂きありがとうございました! |