注:このお話は、「現世」と対になっています。「蒼紅一騎討ち」からのお話ですので、幸村が討たれています。苦手な方はご注意下さい。
来世4 〜未来〜 光が視界を横切り終わると、急速に世界が戻ってきた。景色が隻眼に映り、風が頬を撫でた。耳が木の葉の舞い落ちる音や衣擦れの音を捉え始めたその時に、幸村が何か言った。そう認識した瞬間、幸村が倒れる音がした。命が途切れる音がした。 今までずっと、幸村と共に在る瞬間は終わらないと信じていた。壊れる事は最初から分かっていたのに、ずっと続くと信じていた。永遠に消えない焔が、そこにあると信じていた。永久などという言葉に何の意味もない事も知っていたはずなのに、ただ盲目の恋のようにそれがあるのが当たり前だと思っていた。ずっと探していた存在が消えた。ずっと求めていた存在を消した。政宗にとって、幸村の存在は、幸村という名を持った奇跡だった。 政宗にとって命は、掌から零れ堕ちる砂のようなものだった。奥州筆頭たる政宗の掌には、今や抱えきれないほどの砂粒が盛られていた。次から次へと溢れんばかりに注ぎ込まれる戦国の世の命は、零れていくのを止めることなど出来はしない。それなのに、その一粒だけは、決して零れないと根拠も無く確信していた。しかしそんな儚い想いは、刃から放たれる光に目が眩み、その隻眼を閉じた瞬間に零れ落ちた。それは美しく堕ちていった。 政宗は、幸村の瞼をそっと閉じた後、自分もその隻眼を閉じた。瞳の奥に幸村が映っていた。幸村以外は映させない、そう政宗は何かに誓った。目を閉じた時だけは、そこに映るのは幸村だけなのだと。滲んだ涙でも霞まない、瞼の裏には色褪せない幸村の生が突き刺さっていた。果てない狂気、揺るがない歓喜、終わらない時を夢見た、この世でたった一つの命だった。熱い想いが込み上げ、政宗は唇を噛み締めた。 政宗は閉じた目の闇の中で、意識を遠く遠くへと解き放った。生まれ変わって鳥になり、そしてその翼で来世まで飛んでゆく。来世にて、幸村の咽喉笛に喰らい付く、その日まで。 そして待ち焦がれたそこで、また幸村を殺すのだ。 おわり |