注:このお話は、「現世」と対になっています。「蒼紅一騎討ち」からのお話ですので、幸村が討たれています。苦手な方はご注意下さい。

 

来世3 〜瞬間〜

 

運命とか定めとか、そんな名前を持った何かに操られるように、政宗は六爪を振るった。剣を繰り出しても繰り出してもなかなか前に進めていないような気がしていた。充足と焦燥が一気に押し寄せた。身体ばかりが勝手に動き、魂と心が動きについて行けなくなっていた。
『焦るな。』
政宗は自分に言い聞かせた。
『焦る事なんて何もない。』
今こそがその瞬間なのだから。
『俺は大丈夫だ。もっと幸村と共に・・・』
全身の細胞が熱かった。筋肉が引きちぎれそうになって悲鳴をあげた。分かっているのに、それが感覚として追いついてこなかった。頭の片隅で認識しているのに、痛みや疲労が感じられなかった。戦え、戦えと鼓動が胸を打った。まるで身体を重ねている時のように、幸村の想いが融けて流れ込んできているようだった。幸村と同じように、叫んでいた。幸村と同じように、限界を超えたその先を求めていた。

 

 ふと、周りの風景が消えた。幸村と自分しか見えなくなった。風も、木の葉の舞い落ちる音も、小鳥の囀りも、遠くに流れる水の音も一気に遠のいていった。先ほどまであれほどの焦燥を紡ぎ出していた脳髄が冴え渡っていた。身体と心と魂が一つになって、全てが想うがままに動いていた。まるで戦う自分と幸村の姿を、どこか遠いところから見ているようだった。急に何もかもが浮遊したような感覚に襲われた。身体の底で、何かが弾けたようだった。破裂した自分の深い場所の何かに突き動かされるように、身体の隅々まで力が行き渡っていった。魂が、極度に集中しているのがまるで手に取るように感じられた。力の流れがあまりにも轟々と渦巻いて、動く度に触れる鎧や着物が煩わしいほどだった。

『ここは何処だ。』

 政宗はついそう思ってしまっていた。今まで感じたことのない、この感覚が何なのか分からなかった。熱狂の渦の中に存在しているにも関わらず、とても静かだった。静寂がたった二つの魂だけを包み込んでいるようだった。行くべき時空だけが仄かに白く輝いて見えていた。何ものからも解き放たれ、このまま現世には帰ってこられなくなりそうなほど気持ちが良かった。怖いくらいの快感だった。たった二人で何処かへ流されて行っているようだった。一瞬、恐ろしさが先に立ち、誰か止めてくれと声を出しそうになった。しかし、次の瞬間に快悦に流された魂が邪魔をするなと大声で叫んだ。このままで良かった。このまま遠くへ、幸村と二人だけで、もっとずっと彼方へ。

『あと少し、あともう少しで望んでいた何処かに辿り着ける。』

そう思った瞬間、自分の繰り出した煌めく光の一筋が、酷く鮮明に視界を横切った。

 

つづく