注:このお話は、「現世」と対になっています。「蒼紅一騎討ち」からのお話ですので、幸村が討たれています。苦手な方はご注意下さい。
来世1 〜現在〜 「我が・・・生涯・・・」 最期の声が、どうしても聴こえなかった。耳鳴りが―――酷い。 ―――真田幸村は何と言った? ずっとずっと覚めない熱であるはずと半ば確信していたのに、突如悪夢に変化し魘された朝のように、プツリと何かが途切れた。幸村の命と共に。自ら絶ったその時間と共に。幸村の色である赤が、彼の身体から溢れ流れ出してゆく音がしていた。何故か、そんな音ばかりがはっきりと耳に残った。 どれくらい、幸村に背を向けていたのだろう。どれくらい、その場に立ち尽くしていたのだろう。金縛りにあったような身体が、頭よりも先に耐え切れなくなって振り返った。そこに幸村が立っている事を、立ち上がろうとしている事を希な望みとして。本当は分かっていた。幸村がもう二度と立ち上がらない事も、この手で幸村の全てを奪った事も。そして、幸村に全てを与えた事も。それでも、幸村の口元に翳した掌が震えた。 何度も触れたその唇に、もう一度そっと指で触れた。まだ暖かい。しかし急速に冷えて、熱を、魂を、燃え滾る想いを消してゆく。泣きはしない。涙など相応しくない。これが、幸村と自分の望みだったのだから。身も焦がれるほど望んだ末路なのだから。自分以外の者、誰にも殺させないと誓った結果なのだから。それなのに何故これほどまでに荒れ狂う感情を持て余さねばならないのか。自らに反問すればするほど、初めて逢った瞬間の、あの滾る想いを思い出した。そう、幸村がよく叫んでいたように。 つづく |