紅蒼1 〜始と由〜 「政宗殿ぉおぉぉぁあぁーーー!!!」 真田幸村は現在の伊達の居城に身を寄せている。理由は単純、群雄割拠するこの時代において、此度武田と伊達は同盟を結んだ。甲斐と奥州の橋渡し役として真田幸村が、お館様こと武田信玄に命じられてその盟約書を甲斐から奥州まで運んで来たのだ。だが奥州は遠い。さすがに馬使いの荒い幸村の早駆けでも奥州に着くまでには相当な時間がかかった。たった一本の書状のやり取りとて、奥州は甲斐からあまりに遠かった。尤も、忍を使ったり早駆けを交代して繋げたりすれば、もっと早く政宗の元に書状を届けられる事はできる。ただ、此度の同盟は両軍、両国の正式なものである。その為、軍でも名のある武将にその橋渡しをさせ、他国を牽制しようという目論見もあっての事であった。幸村は、武田のうるさ型に若過ぎるだとか短慮に過ぎるだとか何と言われようと、武田の中では奥州筆頭である政宗に一番近い人物である。また、その命を政宗は直々に幸村にするようにと信玄に申し出ていた。もちろん、そんな両国両頭の思惑など露ほども知らない幸村である。戦場以外でも己の好敵手、政宗と相見える事に何ら不満のあろうはずもない。ただ、政宗の事を考えるだけで由も分からず燃え滾る胸の裡をさらに熱くするのであった。 そのような一件が両国間で取り決められ、そして幸村はただひたすらに書状を届けるため、そして政宗に逢うため馬を飛ばして来たのであった。さて、伊達方で予想していたよりも相当に早く奥州、伊達政宗の居城に辿り着いた幸村は、手荒いがどこか洗練された政宗の歓迎にあっていた。遠路遥々やってきた盟約国の使者に対して、書状を受け取ってただ返すなど、あまりに礼を失する。それでなくとも政宗に覚えのめでたい幸村だ。しばらく留め置いて客人として丁重に扱われたとしても何らおかしくはなかった。武田から来ている者は、当の本人幸村と、馬が憐れになる程に突っ走らせて止める間もなく先に行ってしまった主人より遅れて上田より参った真田家の従者と、それから気配も姿もないが、どこかに必ずいるであろう猿飛佐助の総勢十名ほど。政宗は、従者には一泊させて返答の書簡を持たせ、早々に帰してしまった。しかし幸村だけは別であった。 つづく |