この話では、筆頭が非常にお馬鹿さん☆になっております。筆頭はカッコイイと信じている方には読むのをお勧めできません。また、小十郎は基本的に野菜ラブです。そんなどうしようもない筆頭が一方的にしている猥談にお付き合い頂ける方のみ、お楽しみ下さいませ・・・本当に政宗様ファンの皆様ごめんなさい!

 

甘味と筆頭と右目の憂鬱 3

 

とりあえず握り締め過ぎて血が滲みそうな拳からくる痛みで正気を繋ぎとめた小十郎は、声の調子が普段と変わらないように必死になって俯いたまま口を開いた。とてもではないが、政宗を正面からは見られなかった。
「はっ・・・そ・・・そう言えば、以前伊達領内の甘味屋の前でみたらし団子が好きだと大声で叫んでおりましたが。」
Hum・・・」
小十郎が答えると、政宗は腕を組んで少し眉間に皺を寄せた。もちろん小十郎には、腕を組んだ衣擦れの音と唸り声が聞こえただけだ。
「みたらしか・・・まあ確かにあのドロっとした感じは悪かなさそうだがな。アッチの都合も良さそうだし。」
『・・・都合?』
何の事だか分からないが、小十郎は何となく胃の腑まで痛くなってきた。それは絶対に悪い予感などではないと、キリキリと痛みを訴える器官が告げていた。

「だがな、それじゃ工夫がねぇ。いかにもアリな
situationだろ。ずんだの餡なんてどうだ?この俺が自ら作ってやるんだ。」
「それを真田に差し上げるのですか?」
何がアリなのかはやはり良く分からないが、実はそこで少しだけホッとした小十郎であった。
『元々料理に拘る政宗様が、真田のために料理をする事くらいはまあ許せる範囲だ。それにしても一国の主として、他国の家臣をそのようにもてなすなどあまり歓迎できる事でもないが・・・。それにこう言っちゃ何だが、政宗様の作られる料理はそりゃもう美味いからな、真田に食わせるのは少々気にくわねぇが・・・。まあ、真田個人が手合わせに来るついでに食べさせてやるくらいはいいだろう。この小十郎の枝豆も政宗様の手にかかって美味しくなるなら本望だろうよ。』
だが、現実問題・・・と言うよりは政宗の頭の中の妄想問題はそう簡単に片付くものでもなかった。

 

「ああ、そうさ。俺の身体に盛ってやって、食わせてやるんだ。」

 

「・・・・・・・・・は?」
政宗の一言は、小十郎の視線を上げさせ、かつ表情の一切を凍らせるのに充分な破壊力を持っていた。
「いつまでも破廉恥破廉恥言ってるようなアイツでも、流石にこの独眼竜の色気には勝てねえだろ。ちょいと引っ掛けて誘ってやれば、ノッて来るに決まってる。ああそうだ、この際、ちゃんと感じるpointに甘いもんを乗っけてやれば、色気より食い気のアイツにあれこれ教え込めるってもんだ・・・Ha! アイツの初めてを貰った役得ってな! Ah〜俺の胸と言わず首と言わず、全身にむしゃぶりつく幸村が目に浮かぶぜ。あぁでも、ちょっとツブツブが残ってるから、もし入り込んだら痛ぇのか。でもま、それはそれでイイだろ? どう思う、小十郎。」
そうして政宗は顎に手をあててニヤッと笑った。
「・・・何をおっしゃっているのですか、政宗様・・・」
そんな政宗とは対照的に、また少し俯いた、と言うよりは重力に負けたようにも見える小十郎のオールバックにした前髪が、はらりと一筋額に落ちた。そして思わず地を這うような低い声がその下から漏れ出ていた。それがどんな感情から来るものかとは一向に考えもしない政宗は、ニヤリと笑って阿呆な話を更に続けた。
「何って、この独眼竜と甘味のTagの組み方に決まってんだろー、Ah? そりゃもう、ドロッドロになっちまうだろうなぁー。この前みてぇに燃え盛ってがっつくアイツも悪くねぇが、ちょっとは楽しまねえとな。この俺と、甘味と、両方味わえて、なんつー幸せモンなんだ真田幸村ァ! たまんねえぜ!」

 

「野菜を何だと思ってるんだこの×××××―――!!!」(*)

 

(*:あまりに下品な怒号のため、小十郎・・・と言うよりは政宗の名誉に傷が付くため、あえて伏せさせて頂きます。)

 

 伊達の城からバサバサっと大型の鳥が一斉に飛び立つのが城下からも見えた。そしてそれとほぼ同時に放たれた、青白く光る稲妻も。城内では家臣たちがびくっと身体を震わせ、城下では領民誰しもが動きを止めた。そして、まあざっと、こんな会話があちこちで繰り広げられたのであった。

 

「あの色の電光は筆頭のじゃねえよな。」
「ああ、そうだな。」
「筆頭じゃないなら・・・きっと片倉様だ。」
「おう、違いねぇ。」
「あちゃー・・・また何かやっちまったのかよ、筆頭・・・」
「筆頭が何かやらかすとしたら、何が原因だ?」
「決まってるだろ、真田の兄さん関係。」
「でもよ、真田の兄さんが原因で片倉様があそこまでキレるか?」
「まあそういやそうだよな。この前のアレだって許したんだぜ?」
「ああ! もう俺、真田の兄さんがいる時に、筆頭の寝所の周りは怖くて行けねぇよ。」
「俺もだ・・・筆頭はともかく、片倉様が怖くて行けねぇ。」
「だよなー。じゃあ真田の兄さんじゃないとして、何だ?」
「いやー、片倉様をあそこまで怒らせるなんて、きっと野菜関係だぜ?」
「そうか、そうだ! 違いねぇ。」
「片倉様、野菜命だからなぁ・・・」
「筆頭も凝りねえよなぁ・・・」
「きっと野菜を粗末にしたんだぜ・・・」
「筆頭・・・生き延びて下せぇよ・・・」

 

あまりの怒りで大技を発動させた小十郎は、丸腰で技を受け、完全にノびている奥州筆頭が、まだ幸せそうな顔で倒れている様子を仁王立ちで見下ろしながら雑念と戦っていた。
『政宗様のずんだ盛りなんて言語道断・・・! あんなに何を悩んでいたかと思えば、そんな事ばかり考えていらっしゃったのか・・・! しかもその悩んだ末が何と言う御粗末な! しかもそんな阿呆な事の大元も、単に真田が甘いものが好きだと言うだけの理由でだと! しかし政宗様、真田はみたらし団子とかあんことか甘酒とか、分かりやすい甘さが好きなんですよ! そんな事も分からないんですかアンタ! そりゃ、確かに政宗様の作るずんだは考案者だけあって美味いが、当の真田ははっきりしない甘さは苦手なんだよ! ずんだ餅を最初に食べた時の真田の顔を見なかったんですか。絶妙に微妙な表情だったんだ。それにすあまはなんでもっと甘くないんだとか呟いてるヤロウなんだよ・・・そこんとこ政宗様は分かってない! いやいや何で俺があえて政宗様に真田の嗜好を伝えなきゃなんねえんだ。必要ねえだろ? でもこのままじゃあ、あまりに真田も可哀相だ。いや、決して真田に味方してる訳じゃあねぇ。政宗様にそんな風に使われちまう枝豆の事を思ってだ! いやいや、違う違う、それもこれも、政宗様の事を思って・・・』
そこまでぐるぐる考えた挙句、小十郎は一つ溜息を付いた。
『・・・と言うかですね・・・そんな事までしなくても、真田はとっくに貴方のものですよ、政宗様。』
結局頭が痛くなるほど余計な雑念と戦った末に、しみじみとひり出した感想は、どこか癇に障ってあえて口には出さなかった小十郎であった。

 

 

結局、小十郎の怒りのために政宗のずんだ盛りの野望は露と消えた。しかし政宗の泣き脅しに遭った小十郎は、結局そんな突拍子もない事をしなければ逢うのくらいは許そうと言ってしまった。そう小十郎が言うが早いか、政宗は幸村を呼び寄せるのに信玄公にちょっとした相談を持ちかけ、その返事を持たせるのに幸村を指定するという常套手段を実力行使した。そして、書簡の返事よりも先に幸村本人が政宗の居城に押し掛けることになるのは、あと数日後のお話・・・。

 

おわり

(次作「薬(仮)」サナダテ三連作第三弾につづく)