甘味と筆頭と右目の憂鬱 1 珍しく、奥州筆頭伊達政宗は真剣に悩んでいた。 ここ最近、政宗の悩みの原因は専ら真田幸村にあった。此度も、勿論幸村絡みであった。と言うのも、紆余曲折の末に幸村と身体を繋げて以来、幸村がなかなか手を出して来ないからである。手を出すどころか、会いにすら来ない。今までは、一月と待たずに奥州へ押し掛けてきていたのに、もう三月も幸村に逢っていない。真田は何を勘違いしたか、一回目の房事を色々変な方向に反省しているようだ。せっかく想いが通じ合ったと言うのに、たった一回きりでどうしろというのかと、政宗は業を煮やしているのだった。ただ、贈物やら書簡やらは以前の三割増と言ったところ。その内容も幸村らしく率直で豪快で飾り気はないものの実に暑苦しい事この上ない。文面から、嫌と言うほど政宗への気持ちが溢れ出ていた。その上、幸村の気持ちが益々政宗に寄り添っているような気までする。つまり幸村の気持ちが変わっていない事だけは理解出来ているので本人を責める訳にもいかない。それならば何か適当な理由を作って上田か甲斐にでも赴けば良いのではないかとは最初に思いついた。しかし、自分から幸村に逢いに行くなぞ、執政の忙しさと生来のへそ曲がり具合が邪魔をして、どうしても政宗には出来ない相談なのだった。書簡ではどうしても伝えたい事が曖昧になってしまう。幸村の性格そのままの文字やら文章やらと違って、政宗の書く美しい文字と無駄に洗練された文体は、どこか余所行きの感を与えてしまう事も、政宗には良く分かっていた。 しかし、とうとう政宗には我慢の限界がやってきた。あの熱さをもう一度と言わず何度でも感じ取りたくてたまらない。暑苦しい魂、鍛えられた身体、逞しい四肢、子供なのか大人なのか判別のつかない瞳、自分の名を呼ぶその声。全てが愛おしくてたまらなかった。政宗の身体と魂全体が、幸村に飢えていた。刃を交えるだけであった関係の時以上に、魂ごと疼いて仕方がなかった。幸村を想うだけで、身体と頭が沸騰してしまいそうだった。しかし素直にそんな事を言うのも癪に触る。幸村が来ざるを得ない事情を作り、そうならざるを得ない状況を作れば、必ず幸村はこれだけ自分に懸想しているのだ。身体が反応しない訳が無い。もうこうなったら誘うしかない。政宗の思考は完全にそんな方向に暴走していた。ではどうしたらいいのか。考えた末に、政宗はとんでもない事を思いついてしまった。 『幸村は甘味が好きだ。多分幸村の頭の中は、戦と甘味と俺くらいしか入っていない。その中の甘味と俺がtagを組めば最強じゃねえのか?』 その中にちゃっかり自分の存在を入れて信玄公の存在を無視している辺りがいかにも政宗なのであった。そこまで考えて、政宗はニヤリと笑っていつも通り小十郎を呼んだ。 「Hey! 小十郎! 小十郎はいねえのか!」
つづく |