筆頭の優雅な一日 

 

仕事が終わってやれやれと、再び閑所に入った政宗は、夕餉の指示を出した。今日は何もなかったが故に色々と仕事が捗ってしまったので、何かそれが小十郎の思う壺の様で悔しくて、政宗は少しだけ贅を凝らそうと思った。さらさらと紙の上に筆を走らせ、献立を朝と同じく小窓から落とした。

 

 閑所での書き物が終わると、今度は楽な着物に着替え、政宗は奥の間に向かった。本来此処は伊達家の者しか入らない私的な空間だ。だが今日の夕餉には珍しい物も用意させたので、一部の家臣たちもそのご相伴に与れる事になっていた。

 

膳は、節のない杉製の足附の折敷(*12)。本膳には鯛と鮑の酒浸(*13)、みる貝の煮和えにより鰹(*14)と柚子を添えたもの、筍と椎茸入り鶴(*15)の御汁、焼き烏賊とからすみ、そしてご飯。二の膳には蒲鉾、香の物、塩山椒、小十郎特製の旬の野菜。味付けにはたまり醤油を使用した。小十郎曰く、

「本当の野菜の味を知りたきゃ、何もなしか塩で食え。野菜そのものの味が、じっくり身体に染み渡るぜ。」

だそうだが、小さい頃から存分にその味を叩き込まれている政宗は、ちょっと苦い顔をして、苦肉の策でたまり醤油を付ける事にした。そんな畑と野菜に多大なる愛を注いでいる小十郎の話はさておき、御引菜(*16)に焼き鮎、鯛の子煎り(*17)たこのいりもの(*18)を用意させた。そして今回一番家臣(の一部)を色めき立たせたのは、御菓子としてつけられる、南蛮渡来の高価な白砂糖を使ったよりみつ(*19)だ。豪華な夕餉を、騒いだり感激したりうめえうめえと叫びながら食する家臣達を、何となく眺めながら、腹と一緒にくちくなる心に満足した政宗だった。

 

つづく