筆頭の優雅な一日 

 

汗を拭い終わると、政宗は身体に火照る熱が引くまで閑所で本を読んだ。それはほんの四半時にも満たない時間だ。しばらくすると小姓に命じて着替えを持って来させた。今度は表向きの装束だ。鍛錬を行っても行わなくても、政宗は必ず執務をする際には着替えをしていた。そのような必要はあまりないと言えばないのだが、洒落者の政宗は必ず此処で衣装を改めるのだった。政宗にしてはほんの少しばかり肩肘ばった着物は、

『オレはちゃんと仕事してんだろうが。』

と言う小十郎や老臣達へのあてつけもなきにしもあらず・・・と言ったところであった。

 

そんな訳で着替えて書院へ向かった政宗は、行政の指図をして未の刻から申の刻くらいまでを過ごした。片付けても片付けても片付かない仕事の山は、戦のない今時分、政宗を苛々させる事も多々あったが、本来政宗は内政に力を入れることを厭わない領主だ。たまに、

Ah〜、六爪抜きてぇ・・・」

と不穏な呟きをして小十郎に窘められる他は、いつもの言動や戦場での大胆不敵さからは想像出来ないほど細やかな施策を行うのだった。そして今日は幸村への手紙を書き終わっていたせいか、それとも鍛錬ですっきりしたせいか、やけに上機嫌で文机に向かっていた。今年は大きな水害もなく、米の出来も野菜の出来も上々だ。この分だと少しは農民も楽が出来る冬が来そうだと、政宗は満足そうに本日最後の書簡に目を通して判を押し、日付と花押を添えた。

 

「お疲れ様でございました。」

小十郎の一言で、本日の政務は終了した。ばらばらと、それぞれ重臣たちも散って行った。今日は他国からの客も使者もなかった。他国に散らばせてある黒脛巾組も、目新しい情報は持って来なかった。おかげでゆっくりとやるべき事がやれて、政宗は

「まあ、たまにはこんな日があっても良いか。」

と呟きながら伸びをした。

 

つづく