筆頭の優雅な一日 3 毎朝の習慣で、手水(*2)を済ませた政宗は煙草を数服吸った。お気に入りの長い煙管の金属部分には、竜の彫刻が入っている。一度、閨で寝転んで吸っているところを幸村に 「危のうござる。」 と言って取り上げられた事があるが、逆にからかって吸わせてみたら盛大に噎せ返ったと言う小話がくっついてくる品だ。 「アイツには似合わねぇよな。」 そう声に出して呟いてみると、余計にその時の幸村の表情がありありと思いだされ、政宗はクスリと笑いを零した。
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そう言えばその時、噎せている幸村から煙管を取り戻し、ぷかっと煙を丸い輪のような形にして見せたのだった。すると、噎せたせいで両目に涙が浮かんでいる幸村が、今度はきらきらとした目でそれを見てこう言ってきたのだった。 「おお、佐助が持っておる戦輪(*3)によう似ておりますなぁ。」 その時は、少し前に南蛮揚げ(*4)を作って食わせてやった直後だったので、それを幸村が言うかと密かに期待して政宗は煙の輪を作ったのだった。しかし他の男、よりにもよってあの忍の話をした幸村に苛ついたものだった。ここで機嫌が悪くなった政宗に、追い討ちをかけるように 「いや、毛利殿の得物のようでもありますな!」 と言ったからもう大変だった。存外怒りの沸点が低い政宗は、床に飾ってある大小を無造作に掴んだかと思ったら、 「HELL DRAGON!」 と、ためにためた雷でもって、幸村をその背後の襖ごと吹き飛ばしたのだった。 「うぐわぁああーーー! 何をなさるか政宗殿ぉおーーー!」 昨晩の甘い雰囲気はどこへやら。景気の良い飛びっぷりで空に吸い込まれた幸村の叫び声が遠ざかっていくのを聞きながら、政宗はもう一度すっきりした顔で寝転がりなおしたのであった。 *
「Ha! あの時はおとなげない事をしちまったもんだぜ。」 そう言いつつも、今度この煙の輪を見せる時は、丸いが平たい武器を想像させないよう、厚みもつけられるようにしようと、小十郎がいるのであれば確実に 「その根気と創意工夫、政務にお向け下さい。」 と言われそうな、妙な訓練に励む政宗であった。 つづく |