筆頭の優雅な一日 10

 

夕餉が済むと政宗は、明日の朝餉のご相伴衆の発表をし、きっかり卯の刻に起こせと本日の宿居の近習に言い渡した。時計が動いているのをちらと確認した政宗は、寝間着に着替えて煙草を吸った。そしてふぅと白い煙を空気に乗せ、立てた膝に煙管を持った肘をついてニヤリと笑った。

『戦場で、アイツとやり合った日は昂って眠れねぇが、今日は良く眠れそうだぜ。だが、嫌な感じもしねぇ。こんな日が続きゃいいんだろうけどよ、それじゃあつまんねぇ。』

「なぁ、真田幸村・・・」

思わず呟いてしまったその名の持つ焔に呷られたように、ぶるりと背を震わせた政宗は、少し笑って首を振った。

『やれやれ。名前だけでコレかよ。オレも大概だぜ。』

 

ふっと行燈の灯が消えると、月の光で政宗の上に障子の影が落ちた。外ではリーリーと秋の虫が静けさを際立たせるように鳴いていた。寝転がって目を閉じると、政宗の意識は急速に闇と同化し、徐々に深くなってゆく呼吸に大気が同調した。

 

こうして、珍しくも平和な奥州の夜は更けてゆくのであった。

 

 

おわり