筆頭の優雅な一日 1 小鳥の囀りで政宗が目を覚ましたのは、寅の刻を半ば過ぎた頃であったろうか。最近富に寒さが厳しくなってきており、温い床が流石に手放しにくいのか少しだけ遅めの目覚めだ。しかしいつもならばもっと早くに起きている。夜明けと同時と言うような事はざらにある。どうして今日に限って・・・とそこまで考えて、 『Ah〜、そういや昨日は真田幸村からLetterが来たんだったな。』 と思い当たった。手紙が来ただけならばそれほど夜更かしはするまいが、返書に付ける贈物をああでもないこうでもないと悩んでいる間にあっと言う間に時が過ぎ、寝るのが遅くなったのであった。 『寝る間際までアイツの事、起きてすぐアイツの事を考えるとは、オレも随分と変わらされたもんだ。』 と、政宗は一人床の中で忍び笑いを漏らした。そして今日はまず何よりも先にその返事を書いてしまおうと思った。返事を書いて出してしまえば、仕事も捗って小十郎に文句を言われる事もなく、夜更かしもしないだろうと言うのが政宗の言い分だ。だがどうせ出したからと言って、またその返事が来るのをそわそわして待っているのだからあまり意味はない。だが政宗は、とりあえず今朝の目覚めの遅さを幸村のせいにしたかった。そうは言っても、宿居の近習(*1)が起こしに来る時間にはまだ早い。昨晩も、きっかり卯の刻に起こせと言ってあったので、それまでは誰もこの部屋には入ってこない。一つ小部屋を挟んだ向こうの室には家臣が二人、南蛮渡来の時計と一緒に控えさせてあった。小十郎他の重臣たちは城内外の自分の屋敷におり、よほどの緊急事態でない限り、まだこの時間には登城しないはずだ。基本的に政宗の寝所には他人を入れる事はない。幸村を城に招く時も客間を用意させるし、女も小姓も別室にしか置かない。まあ、幸村が堪らなくなって夜這に来るならば寧ろ歓迎してやるのだが、それ以外、此処は政宗たった一人のための私的な空間で、この朝の時間は政宗の少ない自由時間だった。
つづく |