注:このお話は、サナダテ大前提ですが、佐助→幸村風味を含みます。また、バサラ2の「蒼紅一騎討ち」のお話ですので、幸村が必ず負けます。苦手な方はご注意下さい。
現世 4
「そうだよ、大丈夫。だって、真田の旦那が大丈夫だって、約束してくれたじゃん。」 佐助は哀れむように水面に映る自分を見た。決戦の地から、ほんの少し離れたこの場所は小さな沢になっていた。夕暮れ時につけられた決着。それから随分時間が経っていた。そしてたった一人で、佐助はそこに居た。 「何度騙されても懲りないね。旦那は意外と嘘つきだって、知ってるくせに。」 そう言って嘲笑した佐助の表情は、水面に落ちる粒であっと言う間に消された。幸村は大丈夫だと言ったのに、勝者は独眼竜だった。勝者が存在するという事は、敗者は既に存在しないという事だ。そんな事、ずっと前から分かっていたはずだった。二度と立ち上がれなくなることは、幸村にも佐助にも分かっていたはずだ。それでも幸村は昨夜、嘘をついた。佐助の想いを守るために。水面に落ちる粒の速度が速くなる。気がつくと、ぼろぼろと涙を零して佐助は泣いていた。声も出さずに泣いていた。溢れて零れ落ちるほどの涙がまだ自分の中に存在していた事を、佐助は知らなかった。昨夜まで、枯れていたと信じていた涙だった。それ故、泣いているという事を、ずっと認識できていなかった。雨だと思っていた。水面に映る自分の顔を、歪めていた粒は、自分の涙だった。 「大丈夫だって、言ってくれたのに。」 立っていられなくなった佐助が膝を土に落とすと、チャリと音がした。佐助の手には、もう持ち主の体温を忘れ、佐助の温度になってしまった六文があった。ここにはいない主が、使ってしまった六文銭。佐助に残ったのはたったそれだけだった。槍は、墓標になった。独眼竜が手ずから立てた墓標に。 「軽いよね、軽いよ・・・真田の旦那。こんなもの、持ってなくて良かったのに。使わなくても、良かったのに。使う場所が今ここでなくても、良かったのに。これじゃ、俺が身代わりになる事もできないじゃないの。どうしてくれんの、真田の旦那・・・旦那ぁ・・・!」 搾り出した叫びが空に昇る。そこにはまだ、厭になる程に美しい下弦の月が煌々と輝いているばかりだった。 おわり |