注:このお話は、サナダテ大前提ですが、佐助→幸村風味を含みます。また、バサラ2の「蒼紅一騎討ち」のお話ですので、幸村が必ず負けます。苦手な方はご注意下さい。
現世 2
「佐助。」 しばらく月を見ていたかと思ったら、幸村が佐助を呼んだ。低く、囁くような声だった。全身を貫くような痺れが、佐助を襲った。ああ、これが最後かもしれない。そう思った途端、佐助は泣きそうになった。目の奥がズキリと痛んだ。忍となってからずっと忘れるよう定められた感情だった。それでも佐助はそんな自分をぐっと堪え、音もなく幸村の足元に舞い降りた。 きっと、今の自分は完全な無表情になっているのではないかと佐助は思った。まるで忍の仕事中のような。もちろん、幸村のお使いのような仕事の最中ではない。甲斐の虎に極秘裏に頼まれる暗殺の仕事中のような顔だ。感情を押し込めた、顔。しかしいつもと違うのは、目に要らぬ光が入ってしまう事だった。真田幸村という大き過ぎる光が。ぐわんぐわんと、頭を感情という名の鼓動が殴りつける。そんな事を今言うなんて、酷過ぎる。今さらどうしてそんな事を言うのか。どうしてそんなこれが最後みたいな事を幸村が言うのか。きっとこれが最後だと、半ば確信している佐助に追い討ちをかけるような事を言うのか。そんな事を言われたら、どうしても明日行かせたくなくなるではないか。佐助にはそんな事、絶対にできるわけないと知っているのに。佐助に、本当の幸村の望みを妨げる事などできないと知っているのに。それでも言うのか。懐かしむような事を。これが最期と。 ぎゅっと一度目を瞑って、佐助は武器を握り締め過ぎて血の気が遠ざかり、白くなってしまった手を少しだけ緩めて振り向いた。
つづく |