雨花
これは雨に散る花 鮮紅の花弁
紅く染まる大地 赤く染みてゆく甲冑の色
日輪に黒く光る鮮血 落ちる首と太刀
何かに憑かれたような狂気と歓喜
生きるものを斬る感触 否 生きていたものを斬る感触
この身に血を浴び 生臭さはとうに自分の香だった
これは雨の如く散る花 舞い降りる花
紅く広がる海 赤く広がってゆく小さな波紋
闇夜に浮かぶ己の姿 堕ちて行く身と心
何かに駆られるような衝動と焦燥
死んだものに涙する感情 否 殺したものに涙する感情
それはもう何処にもなかった あってはならなかった
命を賭して得られたもの その意味を問うてはならなかった
刃に賭けて貫こうとしたもの その存在を認めてはならなかった
鬼であると 人はそう呼んだ
竜であると 己にそう言い聞かせた
心の中に確かに存在する闇 その深淵を垣間見る
紅蓮に染まった手は 清めようのないほど汚れ
寒々と冷えた隻眼は 暖めようのないほど穢れ
刃に映るその景色だけを 見つめられたのならば良かったのかもしれない
暗闇からまた暗闇へ 陽射しなど見えなければ良かったのかもしれない
それでも 出逢ってしまった あの燃え盛る美しい炎に
血が滾る 魂が燻る 得体の知れない何かが迸る
溢れ出す激情ばかりが 肺を焼き
押さえ切れない狂気だけが 胸を切る
血を凍らせた竜に このような熱さがある訳がない
そう信じようとしていたのに かの焔の大きさと熱さに焙られていた
烈火の如く舞う花弁に誘われて 酔った様に降らせる鮮血の雨
熱き魂の美しさにまた誘われて 狂った様に散らせる鮮血の花
これは雨に散る花 鮮紅の花弁
儚く美しい 戦場の雨
これは雨の如く散る花 舞い降りる花
淡く醜い 戦場の花
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