北へ! 東北&ほっかいどう銀河新幹線
・路線の概要・
     2.線路規格・構造など  
       ★ 2-4. 新青森 − 札 幌

_−−−−−− 延長 計画
最高
速度
実質
最高
速度
標準
最急
勾配
標準
最急
曲線
縦曲線
半径
施工
基面
軌道
中心間
距離
320km/h
の場合の
所要時間
表定速度
300km/h
の場合の
所要時間
表定速度
東京-大宮 31.3km 110km/h 130km/h 25‰  600m 5,000m 11.3m 4.0m 約  19m
101.6km/h
約  19m
101.6km/h
大宮-盛岡 465.2km 260km/h 350km/h 15‰ 4,000m 15,000m 12.2m 4.3m 約1h38m
284.1km/h
約1h42m
273.6km/h
盛岡-新青森 178.4km 260km/h 350km/h 20‰ 4,000m 15,000m 11.7m 4.3m 約  37m
289.3km/h
約  38m
278.0km/h
新青森-札幌 360.2km 260km/h 350km/h 35‰ 4,000m
(6,500m)
25,000m 11.7m 4.3m 約1h14m
290.1km/h
約1h18m
276.2km/h
(参  考)
高崎−長野
117.4km 260km/h 300km/h 30‰ 4,000m 15,000m 11.2m 4.3m    − 約  36m
195.7km/h
(参 考)
東京-新大阪
515.3km 200km/h
(250km/h)
270km/h 25‰ 2,500m 10,000m 10.7m 4.2m   2h30m
206.1km/h


★ 2-4. 新青森 − 札 幌

 1972年に着工が指示されたまま凍結状態の新青森−札幌間ですが,2002年1月8日に工事実施認可申請が鉄道建設公団から国土交通大臣に出されました。しかし財源面での裏づけがない中での申請であり,着工はなお不透明な情勢です。
 この区間も盛岡−新青森間同様,経済性を重視した線路規格となっており,基本的には盛岡−新青森間に準じた内容になっています。
 認可申請上の最高速度は260km/h,環境影響評価上の試算はE2系車両の使用が前提です。しかし線路規格を見ると,縦曲線半径や曲線半径が従来の規格より大幅に向上しており,実際には設計段階から330km/h以上の営業を考慮している点が注目されます。また,倶知安以北での豪雪・酷寒や,環境面から大沼国定公園への影響に配慮した線路選定を行っているのも大きな特徴でしょう。

 3-1.海峡線を編入 3線軌で在来線併用に


 
JR海峡線のスラブ軌道
画面右のボルト穴跡にレール締結金具を留めれば,容易に3線化できる。
 1999/07,線路管理者の許可を得て敷地内にて撮影

 新青森−札幌間の新幹線360.2kmのうち,青森県大平−北海道木古内付近の82.0kmは1988年に開業しているJR海峡線の施設をそのまま転用します。実はこの区間は新幹線が通ることを前提に建設され,構造物も東北新幹線大宮−盛岡間に準拠した強度で設計されているのが特徴です。線路規格も最急12‰,最急曲線R6,500と,まさに新幹線です。
 レールも当初,新幹線規格の軌間(レールの幅)である1,435mmで敷かれていたのですが,暫定的に在来線で開業することが決定。1985年からレール1本を移設して軌間を在来線の1,067mmに「改軌」する工事に着手,1987年に完成しています。この「改軌」工事の痕跡は現在も海峡線のスラブ軌道に残っています。写真の通り,スラブ軌道の右側に見えるレールを止めた金具の跡が,かつての1,435mm時代のレールが通っていたところの名残です。スラブ軌道の中心はあくまで1,435mm軌間でレールを通した場合の中心線に合わせてあり,現在の1,067mmが暫定状態であることが一目瞭然です。
 新幹線を通す際には,貨物輸送を在来線で残すことを前提に,かつて1,435mmのレールが敷かれていた部分にもう1本レールを敷いて計3本のレールとする,いわゆる「3線軌」として使用する計画とされています。本線上の「3線軌」はわが国でも箱根登山鉄道や山形新幹線蔵王−山形(現在は撤去),秋田新幹線神宮寺−刈和野にその例がありますが,超高速運転を行う新幹線に採用されるのは初めてのケースです。

 海峡線は電力設備も充実しており,既に新幹線と在来線が同じ線路上を走るのに対応可能な「ATC−L」を採用していることから,新幹線を通すことに問題はありません。高速(コンテナ)貨物列車と新幹線がすれ違った場合の風圧による影響についての研究も進められています。
 唯一のネックは,在来線の2軸貨車が転覆する限界にあわせるため,R6,500でのカント量を69mm(在来線=1,067mmの場合43mm)に設定していることです。実際には乗り心地を多少犠牲にしてカント不足許容量を多めに見積もる前提で曲線通過速度を引き上げることが可能ですが,それでも300km/h程度が限界であり,せっかく騒音・振動等の問題がない恵まれた条件にも関わらず,スピードアップを阻害しています。
 なお大平・西木古内いずれも,在来線は両側から新幹線を抱き込むような線形となっています。将来新幹線ができ,新幹線・在来線を分岐する信号所を設けた場合でも,新幹線が直線ルートを取って在来線の取付区間と立体交差しやすいよう配慮された構造です。

 3-3.土木構造物 〜トンネル区間は70%に〜

 土木構造物の低コスト化のための軸重16tに加え,積極的にトンネル区間をとっているのが特徴です。この結果,世界最長の青函トンネル(53.850km)も含め,トンネル区間は全体の70%程度となっています。北東北〜北海道にかけて走ることから,冬季の雪対策が非常に重要であり,雪の降らないトンネル構造は本質的な対策として有効です。さらに現在では,高架橋よりトンネルの方が建設費が安いといわれていることもあり,トンネルを積極的に採用して建設費を低減する狙いもあるものと思われます。青函トンネル以外にも長大トンネルが多く,桧山トンネル(20km035,新函館−新八雲間)や内浦トンネル(15km555,長万部−倶知安間),後志トンネル(17km975,倶知安−新小樽間),手稲トンネル(18km840,新小樽−札幌間)などが代表的です。

 明かり区間については一部を除いて散水消雪が前提となるため,特に散水量の多い倶知安以北で
コストの安い路盤構造を採用することができず,基本的には高架区間となります。しかしこのような区間でも,橋脚の設計を単純化する,高さを下げるなどして,可能な限りのコストダウンが図られます。施工基面幅については,散水消雪を前提に11.7mまで縮小(東北・上越新幹線は12.2m)して建設費を低減しています。

今後の新幹線の低コスト高架橋の例
橋脚・梁は細く,東北(盛岡以南)・上越に比べ高架橋幅も狭い。
その高さも低く抑えられている。
断面が左右非対称なのは,保守用通路を片側のみとしスリム化するため。

2003/02/09 9:12
東北新幹線(八戸・新青森間) 船岡高架橋(青森市内)
(※)同高架橋では2002年冬より青森以北における散水消雪試験を実施中である。

 さらに一部区間で「開床式高架橋」というタイプが採用される予定です。
 この「開床式高架橋」は,既に本州と北海道を結ぶ海峡線で実用化されています。その構造は,写真の通り,スラブ軌道の両側が完全に開いており,金網が張ってあるだけです。この構造だと,北海道のパウダースノーは降っても網から下に落ちるだけなので,積もる心配がありません。線路上に積もった雪は,凍らないうちに除雪車で両側の開口部から下へ落とす仕組みです。但し車輪周辺から出る騒音が外部に発散される欠点があり,将来にわたって騒音対策をとる必要のない山間部のみ採用されます。

北海道新幹線(現 海峡線)の開床式高架橋
線路脇の金網の部分は床板がない構造。
低コスト化に加え,雪が自然に落下するという雪対策上のメリットも。
 

1999/07
線路管理者の許可を得て敷地内より撮影

 
3-3.駅の構造 〜ほとんどが「地平駅」「橋上駅」に,札幌駅は在来線転用〜

 沿線に予定される駅のうち,新津軽は現在のJR海峡線津軽今別に,木古内はJR江差線木古内に,新函館はJR函館線渡島大野に,長万部はJR函館線長万部に,倶知安はJR函館線倶知安に,札幌はJR函館線札幌に,それぞれ併設されます。

 盛岡−新青森間同様,駅の地平化が進められ,新函館は「橋上駅」です。「橋上駅」とは,レールが地平で駅舎を2階に設けた構造で,北陸(長野)新幹線軽井沢駅に用いられています。


「新函館」は主要駅だが,高架ではなく,線路が地平の「橋上駅」。
「パーク・アンド・ライド」のための駐車場を完備することが考えられる。

(出典:日本鉄道建設公団「北海道新幹線 環境影響評価準備書」(2000)


 一方,新津軽(現 津軽今別)/新八雲(*1)/長万部/倶知安は「地平駅」となっています。「地平駅」とはレールも駅舎も地平に設けられ,両者を跨線橋で結ぶ構造で,北陸(長野)新幹線安中榛名駅に用いられています。


「新八雲」はホームも駅舎も地平にある「地平駅」。
ここも「パーク・アンド・ライド」による利用の喚起を計画している。

(出典:日本鉄道建設公団「北海道新幹線 環境影響評価準備書」(2000)

 木古内,新小樽については高架駅ですが,駅舎部分を地平とする2層構造を採用して低コスト化を図っています。これは北陸(長野)新幹線上田駅と同じです。
 北陸(長野)新幹線の安中榛名〜上田間の実績では,駅舎自体にかかる建設費は地平駅が約10億円,高架駅が20億円,橋上駅が30〜50億円程度となっています(*2)。但し高架駅では,この他にも本線を高架で建設する費用があり,本線を地平で建設する場合との差額が余計にかかるため,3つの方式の中では最も割高です。

 なお沿線地域でマイカーの普及が進んでいることから,自家用車によるアクセスを前提とした「パーク・アンド・ライド」用駐車場を沿線各駅に完備させることが考えられています。
イメージ図でも各駅に相当な面積の駐車場を予定していることがわかります。

 新幹線駅は,地域への玄関口となるばかりでなく,ランドマークとしても認識されることから,その外観を地域の風土に応じた個性的なものにすることが最近の流れになっています。しかし外装のグレードアップは,新幹線の運行に必ずしも必要な投資ではないことから,地域が負担する必要があります。北陸(長野)新幹線の上田駅はその代表例で,グレードアップに要した費用(1億4,926万円)は,市民や市職員,地元企業からの募金を中心に,全額を上田商工会議所が拠出しました(*3)。
 今後は駅=地域の利便性に資する施設と位置付け,駅の設置費用そのものを地域が負担する考え方を定着させる必要がありそうです。事実,既に開業している新幹線に設けられた新駅は,1969年の三島の例を除き,いずれも建設費の全額を地域が負担しています。

北陸(長野)新幹線上田駅お城口の外観
北陸(長野)新幹線上田駅 お城口の外観
 壁面は白色のCFRC板で土蔵の白壁をイメージ。四角い模様パネルは
信州上田を象徴する真田家の家紋「六紋銭」を表し,夜間は張り出し庇から
ライトアップされる。
2002/06/30  6:05

 札幌駅については,現在の在来線 第1ホーム(1番線,2番線)の線路を改軌の上,転用する計画です。この場合,コンコースについては,現在の札幌駅の1階コンコースの一部を区切って使用します。第1ホームの転用で不足する在来線ホームは,札幌駅北口に面した11番線(現在は側線でホームなし)に第6ホームを新設して補います(*4)。


(上)札幌駅第1ホーム(中央)と当時建設中だった札幌駅ビル「ステラ」(奥)
従来、画面奥の札幌駅ビル敷地が北海道新幹線のターミナルとして用意されていた。
駅ビル計画が具体化した1999年11月、JR北海道は第1ホームを新幹線に転用すると発表した。

2001/09/23 15:30
(下)現在の札幌駅 コンコース。
突き当たりのロッカー付近が1/2番線。
この付近に中間改札が設けられることになろうか?


   2000/07/10 6:30

 3-4. ◎軌道構造 〜スラブ軌道で安全性も確保!〜

 軌道構造については決定していませんが,この区間でも全線スラブ軌道とスーパーロングレールの採用が必須となると思われます。

 特に北海道ではバラスト飛散防止の観点からもスラブ軌道の採用が必須です。
 というのも,北海道内では,最近列車の高速化に伴い,冬季に窓ガラスにヒビが入るトラブルが多発しています。車両への着雪が氷点下で雪塊となり,これが振動等で落下して高速で軌道に落下,反動で跳ねあがったバラストが窓ガラスを割る現象です。現在北海道内の特急・快速車両ではこの種の事故を防ぐため,写真のように窓にガラスの損傷を防ぐ対策を施しています。しかし在来線よりはるかに高速で走る新幹線ではバラストをなくす以外に抜本的な対策はなく,スラブ軌道によるほかありません。


最高速度130km/hで札幌−釧路間を結ぶ「スーパーおおぞら」。
バラスト跳ね上げによるガラス損傷
の対策として窓の外面にフィルム板を貼付した。
しかし本来は、バラスト自体をなくすことがガラス損傷を防ぐ最も有効な方策である。

2000/10/28 12:10
 千歳線 西の里信号場 4004D「スーパーおおぞら4号」


 3-5. 勾 配 〜最急勾配は35‰! しかし短距離なので,350km/h運転もOK!〜

 新青森−札幌間の最急勾配は公称35‰です。しかし35‰が連続しては,安定した高速運転はできません。そのため全体的には急勾配を短距離に抑えており,高速運転にできるだけ支障が出ないように配慮しています。ごく一部の区間では,地形上,急勾配が数kmにわたって存在するため,特に降坂速度をどこまで制限するかをよく検討する必要があります。

 最急35‰といっても,ほとんどの勾配は15‰以内に収めています。18〜25‰の勾配は12ヶ所あるものの,うち6ヶ所は短距離なので高速運転への影響はほとんどありません。こうした短区間の急勾配は,構造物の高さを下げて建設費を低減するためのものです。
 最急の35‰は手稲トンネルが札幌市内(手稲区富丘二条二丁目付近)で上富丘川の地下をくぐるため,そのアップダウンに使われています。川の地下をくぐった直後,手稲区西宮の沢二条二丁目付近で高架へ上がる予定で,この勾配を許容しない限り,手稲区内を地下線で通すことができず,市街地の土地買収や環境への影響など,多大な問題が生じます。

 高速運転の支障となる急勾配は,次の5区間です。
 1つめは青函トンネル内で,海抜マイナス256.1mまで潜るため,本州側に約22km,北海道側に約26kmの連続12‰勾配が続きます。12‰という数値自体はそう問題ではないのですが,走行抵抗の大きいトンネル内の連続勾配のため,最高速度を維持することは困難です。
 2つめは,新函館(渡島大野)から中山峠にかけての区間で,わずか約12.5kmで標高約260m(約37m→約295m)も登りきるため,30‰(約0.5km),22‰(約3.2km),25‰(約5.9km)が断続的に続きます。
 3つめは桧山トンネルの下り区間で,約6.1kmの18‰連続勾配があり,上り列車に対しては連続上り勾配となります。
 4つめは静狩から蘭越町へ抜ける内浦トンネル内で,地質の関係で最初5‰で上り,次に30‰が約4.0kmあり,再び5‰,下りに転じて−7‰で抜けています。
 5つめは赤井川村から小樽市天神(新小樽駅)へ抜ける後志トンネル内で,やはり地質の関係で新小樽方に19‰の下り勾配が約3.7kmあり,上り列車に対して連続上り勾配となります。

 北陸(長野)新幹線では,安中榛名−軽井沢間で連続22kmの30‰勾配を採用,高崎−安中榛名間や軽井沢−佐久平間でも一部30‰勾配を用いています。高崎−佐久平間の運転速度は,登坂(下り)側の場合,30‰入口を260km/hで通過,30‰勾配で徐々に速度が落ち,180km/hとなったところで軽井沢にさしかかり,構内制限110km/hまで減速して通過,その後210km/hで下ります。降坂(上り)側は,佐久平からの上り勾配で徐々に速度を落としながら軽井沢へさしかかり,構内を110km/hで通過後,再び速度を上げますが,最高速度を210km/hに制限,そのまま回生ブレーキを効かせて勾配を下っていきます。
 30‰の降坂速度を210km/hに制限する理由は,主回路の故障などで回生ブレーキが効かなくなった場合,非常用のディスクブレーキで停止できる限界が,30‰の場合210km/hまでであることに因ります。

 北海道新幹線の場合,急勾配区間が最大でも6km程度と短いこともあり,制限速度を設ける必要があるかどうか検討の余地があります。特に20‰を多用している東海道新幹線でも降坂時の速度制限を行っていないことから,20‰以下の2区間については速度制限の必要はないものと思われます。
 仮に降坂時の速度制限を設けないにしても,その付近の閉塞区間を長くしたりするなどして,この区間内での信号による停止を排除するなどのバックアップが必要になります。
 登坂については,運転シミュレーションの結果,新函館を約295km/hで通過した場合,25‰の頂上付近で270km/h程度まで減速,その後4.5kmで300km/hまで再び加速できることがわかっています。

 3-9.曲線半径 〜最小は公称R4,000 実際はR6,500がほとんど〜

 新青森−札幌間の最急曲線は,山陽以降の新幹線同様,R4,000とされています。しかし実際には52ヶ所ある曲線のうち,R6,500が21ヶ所,R8,000が16ヶ所,R10,000以上が9ヶ所であり,事実上の最急曲線はR6,500です。この曲線でカント量を新幹線最大の200mmとすると,カント不足量を「のぞみ」並の115mmまで許容したとき曲線通過速度は417km/hとなり,350km/hでの連続走行には十分な余裕があります。
 なお残る6ヶ所の曲線は主要駅前後にある規格外曲線です。まず新青森下りにあるR2,500,次に新函館の手前で大きなカーブを描くR3,200,そして札幌市手稲区内で函館本線発寒駅に接近する際にあるR1,500,琴似駅付近で在来線に沿ってカーブするR2,000とR1,040,最後に桑園−札幌間のR600です。

 3-8.縦曲線半径 〜350km/h運転対応 世界最大クラス〜

  縦曲線半径は盛岡以北の既開業区間と同じ25,000mで計画されています。この数値は世界最大の縦曲線半径を誇っていたイタリア・ディレティシマ(高速新線)の20,000mを抜いて世界一です。350km/h運転でも安定した乗り心地が提供できるスペックです。

↑ ローマとフィレンツェを結ぶイタリアの高速新線”Diretisima”(ディレティシマ)
 機関車列車や300km/h以上の走行も想定しているため、優れた線路規格を採用。
現在の営業速度はETR500系による300km/hが最高だが、乗り心地は大変優れている。
 北海道新幹線は曲線半径と縦曲線半径において、Diretisimaを抜き世界一の規格を誇る。

2002/09/09 18:45
ローマ17:36発トリノ行ES9310列車(ETR480系8連)先頭車より前方を望む。
すれ違うのは、ミラノ15:00発ローマ行ES9443列車(ETR500系12連)。

 
 3-6.「DS−ATC」の活用 〜速度制限の多様化〜
 
 「盛岡−新青森間」の項で解説した「DS−ATC」は今後の新幹線用ATCとして広く定着していくと考えられます。地上設備に要するコストが低減できることもあり,新青森−札幌間でも「DS−ATC」か,さらに発展したタイプの「CARAT」(GPS=人工衛星を活用した閉塞システム)を採用することになると考えられます。
 この区間には「曲線」の項で述べた通り,6ヶ所の規格外曲線がありますが,これらについても半径・カント量から考え得る最大の速度を制限速度として設定することで,できる限りスピードアップすることが考えられます。たとえば新青森付近の曲線(R2,500)はカント量を最大(200mm)に設定して255km/hで,新函館付近の曲線(R3,200)は同じくカント量を最大(200mm)に設定して290km/hで,それぞれ通過することができます。同様に発寒付近のR1,500は190km/hで,琴似付近のR1,040は160km/hで,桑園付近のR600は105km/h(但し曲線通過中に停車のための減速に移る)で,それぞれ通過することができます。

 2-9.耐寒耐雪設備のさらなる充実

 新青森−札幌間では,多量の降雪はもちろん,冬季の厳寒から凍結等の心配もあり,入念な対策が必要です。特に内浦トンネル(昆布町)以北は,−30℃近い極低温と一晩に1m以上降り積もる多雪を兼ね備えた地域です。このような区間で気候を問わず300km/h以上の運転を安定的に行うためには,設備・車両の両面に細心の配慮が求められます。

 しかし新幹線にとって雪と極低温は決して未知の領域ではありません。
 豪雪・極低音地帯での新幹線の雪対策の基本は,地上設備側は「線路面に雪をまったく積もらせない」こと,車両側は「雪の侵入を最小限に食い止める」ことです。地上設備に関して言えば,長万部−札幌間の沿線よりはるかに降雪量が多く,かつ水分をたっぷり含んだ重い雪の降る上越新幹線新潟地区において既に20年の散水消雪実績があります。一方,車両側についても,200系車両の前身となった925形試験電車(のち電気軌道検測車に改造)の製作に際し,新しく設計された主回路冷却風の雪切装置は札幌の苗穂工場と金沢の松任工場で冬の間野ざらしのまま運転させて機能に支障がないことを確認しています。万が一の際に威力を発揮するスノウプラウ(雪かき)も,北海道よりはるかに積雪量の多い新潟県の塩沢雪害試験所で数年間にわたる実験を経た後,盛岡工事局管内で排雪用モーターカーでの実用試験を経て採用されたものです(*5)。

北海道や北陸での試験結果を踏まえて設計された200系車両。
スノウプロウ(雪かき)も頑丈だが,後の車両は200系の経験をもとに小型化した。

1999/12/19 ガーラ湯沢にて
4441C「たにがわ441号」〜4444C「たにがわ444号」
(※)写真は200系のトップナンバー「221-1」。
開業の2年前から北上実験線で雪対策の実験を重ねた車両だが,既に廃車となっている。


 もちろん,これらの取り組みだけで新青森−札幌間の雪対策が万全というわけではありません。雪を積もらせない軌道上で,雪を侵入させない車両を設計したとしても,特に300km/h以上の速度で走るために起こる列車風による冷却は,車体に付着した消雪用の水を氷に変えるでしょうし,軌道側は散水消雪でいいとしても,トロリ線や吊架線に付着した雪塊が凍結・落下してパンタグラフを壊す恐れもあります。これらの影響がどの程度のものか,また防ぐにはどういう手段があるかを検討する必要があります。また既存の新幹線でとられている対策,たとえば散水消雪用の温水散布の水温や水量,トンネル内の湧水が凍結してツララとなって落下することを防ぐためのツララ切りの設置なども,雪質の変化や極低温となることを踏まえ,再検討が求められます。
 さらに採算性の確保という点から,これらの対策は低コストで実施可能であることが求められます。この点で,土木構造物の項でご紹介した「開床式高架橋」,あるいは全線の70%を占めるトンネルは,低コストの雪対策を行う上で大変効果的です。

 これらの検討を行えば,北海道における冬季の安定的な300km/h以上の営業運転は,雪を積もらせない軌道上で雪を侵入させない車両を走らせるという基本方針に従えば,実現可能な技術であると考えられます。

越後湯沢の町を貫く新幹線の重層高架橋。
散水消雪の場合,高架橋が前提だが,高さを下げるなどコスト低減を図る必要がある。

2001/08/11  あさひ310号(310C=越後湯沢着11:02)


雪国の新幹線では,トンネルを多用することが除雪コストの節約につながる
できるだけトンネルを避けた在来線とは正反対のルート選定に

2002/04/29   東北新幹線 二戸−八戸
(第3馬淵川橋りょう=在来線 金田一温泉付近)
(※)金田一の集落を縫って走る特急「はつかり」(画面中央)を尻目に新幹線はトンネルで通過

(*1)新八雲駅については,地盤自体が傾斜地であり,構内の一部については高架ないし盛土構造を採用する必要がある。

(*2)
大貫 富夫「北陸新幹線高崎〜長野間の建設をふりかえって」『運輸と経済』1999年2月号pp.14-24には,各駅の駅舎建設費とその負担割合(鉄道公団対沿線自治体)が紹介されている。ここでいう沿線自治体の負担とは,新幹線の整備に要する自治体の負担とは別である。その考え方は,旅客の乗降に必要最低限な設備で積算された駅舎建設費を新幹線整備に要する基本費用と認識し,地域計画のなかで構造を変更したことにより費用が増加した場合,その差額を自治体が負担するものである。構造変更の内容を具体例として,佐久平駅と長野駅の例を下に記す。
【佐久平】 計画当初は「地平駅」。しかし地域主導の区画整理事業とあわせ,新幹線の両側地域を一体的に整備する必要性から,「橋上駅」に変更(14.0億円→39.7億円)。
【長野】計画当初は,「橋上駅」の通路は新幹線改札口から西口までは幅10m,東口までは幅6mで,すべて改札内の旅客通路であった。しかし長野市の要望により,全区間を幅15mとし,増加分は市負担の自由通路とした(41.7億円→74.8億円)。

(*3)日本鉄道建設公団「北陸新幹線工事誌(高崎・長野間)」p.533

(*4)北海道新聞1999年11月3日付朝刊より。札幌駅の11番線=第6ホームは,札幌駅が高架仮駅で第1ホームが完成していなかった1988年11月から1990年7月まで存在しており,その際に使用された構造物が現在も一部残されている。

(*5)「雪と戦う新幹線 925形デビュー」『鉄道ファン』1980年2月号 pp.65-70

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