北へ! 東北&ほっかいどう銀河新幹線
・路線の概要・
     2.線路規格・構造など  
       ★ 2-2. 大 宮 − 盛 岡

_−−−−−− 延長 計画
最高
速度
実質
最高
速度
標準
最急
勾配
標準
最急
曲線
縦曲線
半径
施工
基面
軌道
中心間
距離
320km/h
の場合の
所要時間
表定速度
300km/h
の場合の
所要時間
表定速度
東京-大宮 31.3km 110km/h 130km/h 25‰  600m 5,000m 11.3m 4.0m 約  19m
101.6km/h
約  19m
101.6km/h
大宮-盛岡 465.2km 260km/h 350km/h 15‰ 4,000m 15,000m 12.2m 4.3m 約1h38m
284.1km/h
約1h42m
273.6km/h
盛岡-新青森 178.4km 260km/h 350km/h 20‰ 4,000m 15,000m 11.7m 4.3m 約  37m
289.3km/h
約  38m
278.0km/h
新青森-札幌 360.2km 260km/h 350km/h 35‰ 4,000m
(6,500m)
25,000m 11.7m 4.3m 約1h14m
290.1km/h
約1h18m
276.2km/h
(参  考)
高崎−長野
117.4km 260km/h 300km/h 30‰ 4,000m 15,000m 11.2m 4.3m    − 約  36m
195.7km/h
(参 考)
東京-新大阪
515.3km 200km/h
(250km/h)
270km/h 25‰ 2,500m 10,000m 10.7m 4.2m   2h30m
206.1km/h


★ 2-2. 大 宮 − 盛 岡

 大宮−盛岡間は,山陽新幹線 岡山−博多間で確立された「全国整備新幹線網」の標準設計,すなわち260km/h運転を前提とした構造となっています。

 1-1.土木構造物 〜コンクリート構造物の多用〜

 山陽新幹線では,東海道新幹線で多用されながらもメンテナンスの厄介だった土盛構造をできる限り排し,全線のほとんどをコンクリート高架橋とトンネル,橋りょうのみで構成しました。東北新幹線もこれに準じています。この結果,構造物の比率は,大宮−盛岡間で,高架橋・橋りょう 72%,トンネル 23%,路盤(土盛・掘割)5%となっています(*1)。
 また雪の影響を考慮して,施工基面幅も12.2m(貯雪型高架橋の場合)と広く取られています。

(*1):大貫 富夫「北陸新幹線高崎〜長野間の建設をふりかえって」『運輸と経済』1999年2月号p.17

 駅についても,将来の東海道・山陽新幹線との直通や輸送力増強を考え,有効長は430m(16両+30m)を確保しています。開業時の列車本数はそれほど多くなかった割に,副本線(=待避線)やその準備工事が多いのも特徴とされました。たとえば写真の福島駅は将来の全国整備新幹線網計画を見越して,奥羽新幹線(フル規格)の分岐駅となることが予想されたため,上下の本線(=通過線)各1本及び副本線(=待避線)各2本の計6線を持っています。東北新幹線開業の10年後に実現した山形新幹線(ミニ新幹線)では,工事費節約のため,取付線を下り第2副本線のみに接続させ,新在直通の「つばさ」は上下列車とも同一線路(旅客案内上の14番線)に発着させています。


(上)東北新幹線 福島駅を発車する16両編成の「Maxやまびこ」。
16両編成の列車が登場したのは開業後9年を経た1991年のこと。
開業後20年を経たが,上り第2副本線を使う定期列車は今だにない。

2000/07/15 (48B=福島発15:49)

(下)取付線から福島駅に進入する山形新幹線の新在直通「つばさ」。
工事費を節約するため,取付線は下り第2副本線に向かう1本のみ。

2000/07/27 (132M=福島着14:14)
福島駅にさしかかる山形新幹線「つばさ132号」

 東海道新幹線に比べると,旅客設備も充実しています。全駅が高架3層式で,コンコースを2階,ホームを3階に置いた構造を標準的に用いられました。写真の仙台駅には吹き抜け構造が用いられ,開放感が演出されています。


東北新幹線仙台駅コンコース。
画面左下の1階が在来線,画面左上の2階が新幹線の改札。
七夕シーズン(旧暦)なので,七夕の飾り付けが施されている。

2000/08/09 14:25

 このように,過剰なまでに立派な設備に仕上がったため,建設費も莫大な額にのぼりました。国情が違うとはいえ,キロ当たりの建設費は同時期に開業したフランスTGVの実に10倍近くに達し,大宮以北で比較しても7〜8倍もの開きがあります(*2)。国鉄の財政事情が逼迫していたこともあり,開業当時は「無駄な投資」「過剰設備」との批判を強く受けていました。開業後約10年を経過して16連列車も設定され,1997年には仙台以北の副本線で待避を行う定期列車が設定されるに至りましたが,この設備投資が『新幹線の建設費は莫大で,国鉄の財政を圧迫した』との印象を人々に植え付けた面も否定できず,反省すべき点が多々あるように思います。

(*2):ブライアン=ペレン著 秋山芳弘・青木真美訳「TGVハンドブック」p.2によると,TGVパリ南東線(TGV-PSE=ParisSudEst)の建設費は,新線417.0km(Lieusaint Moissy−Sathonay間及び支線)で97.98億フラン(1990年価格,車両費含まず),当時のレートで約2,645.5億円(1フラン=27円)だから,大雑把に言えばキロ当たり6.34億円である。一方,新幹線運転研究会編『新版 新幹線』pp.454-455(年表)によると,東北新幹線上野〜盛岡間492.9kmの建設費は2兆8,010億円(昭和57年度価格,車両費含まず)だから,キロ当たり56.83億円となる。もちろん都心部の上野−大宮間に莫大な建設費を要したことは事実だが,それを差し引いてもゆうに7〜8倍の差がある。なおTGVパリ南東線と東北新幹線の車両費を比較すると,TGVが8両109編成で約82億フラン=2,214億円に対して,東北新幹線は12両30編成で1.244億円と,むしろ新幹線のほうが安いため,車両費を含めた総事業費で比較すると,価格差が若干ながら縮小する。

 1-2.軌道構造 〜スラブ軌道と60kgレールの全面採用〜

 山陽新幹線では,従来のバラストを敷いた上に枕木・レールを敷設する「バラスト軌道」を,コンクリート板(スラブ)上に金具でレールを締結した「スラブ軌道」主体に変更して,高速運転に伴う軌道メンテナンスを大幅に減らしました。東北新幹線では,メンテナンスフリーに加え,雪害対策の意味もあり「スラブ軌道」の使用比率が上がっています。バラスト軌道による雪害とは,低温で車体に凍りついた雪塊が解けてバラスト上に落ち,衝撃でバラストが跳ねて車体や窓ガラスを破損する現象のことです。この結果,東北新幹線で「スラブ軌道」の占める比率は上野−盛岡間全体の83.8%にも及んでいます(*3)。

 使用されるレールも,当時の東海道新幹線より太い60kgレールが採用されています。東海道新幹線のレールは1m当たりの重さが53.3kgの「50Tレール」でしたが,開業後の実績から,細いレールではレールの磨耗が著しいことがわかったためです。
 なお1970〜80年代の若返り工事により,現在は東海道新幹線も全線で60kgレールが使われており,交換された50Tレールは青函トンネルのアクセスを担う江差線(木古内−五稜郭間の一部)などに転用されています。

(*3)『鉄道 勾配縦断図の旅 東北線・奥羽線』(小学館,1986)p.32

 1-3.勾 配 〜高速化のために大幅緩和〜

 山陽新幹線の最急勾配は,東海道新幹線の20‰より緩め,新関門トンネル上り方の例外(18‰)を除いて全て15‰以内,10km以上の平均勾配は全て12‰以内に抑えました。東北新幹線もこれに準じた勾配条件です。
 この基準は,東海道新幹線の関ヶ原付近で採用した最急20‰勾配区間(10kmの平均勾配13‰)でモーターの温度上昇が限界に達してしまう教訓を生かしたもので,全線で無理のない連続260km/h運転を行うために設定されています(*4)。

(*4)新幹線運転研究会編「新版 新幹線」(1984)p.133

 1-4.曲線半径 〜最小R4,000に拡大〜

 山陽新幹線では曲線半径も拡大されました。東海道新幹線では250km/h運転が可能な半径としてR2,500を標準最急半径と定めました。しかし実際に250km/hで走ると乗り心地があまりよくないと判断されました。そこで,よりよい乗り心地で260km/h運転が可能なよう,R4,000を最急標準半径としたのでした。東北新幹線もこれに準じています(*5)。写真の山陽新幹線小郡駅構内の曲線が半径4,000m(=R4,000)ですが,緩く感じる方が多いのではないでしょうか?


山陽新幹線 小郡駅にて。
山陽新幹線以降の標準最急曲線 R4,000=半径4,000mの曲線は,こんな感じの曲がり具合。
世界最速の駅間平均速度(広島−小倉,261.8km/h)を誇る「500系のぞみ」が一瞬で飛び去ってゆく。

2002/03/09  501A=小郡通過 8:44

 カントで打ち消せずに乗客が感じる遠心力のことを「超過遠心力」といい,これを打ち消すのに本来必要なカント量を「カント不足量」といいます。乗客が不快感をもよおさないカント不足量の上限は計算上105〜110mmとされ,東海道新幹線計画時は20%程度の余裕を見て90mmを「カント不足量」の最大値としていました。この値を前提に,カントを最大の200mmまで引き上げた場合のR2,500の通過速度が250km/hとなるわけです。ちなみに,R2,500は1940年に計画された「新幹線」(いわゆる弾丸列車)計画のスペックをそのまま引き継いだものです(*6)。
 ところが東海道新幹線開業後の実績では,乗客の乗り心地を保つため,カント不足量は最大でも60mm,乗り心地の点からは30mm以内に収めるのが望ましいということになりました。そこで岡山−博多間では標準最急曲線をR4,000とし,そのカント量を155mmに設定しました。この曲線を260km/hで走行した時,カント不足量は44mmとなります。

 現在は乗り心地をやや犠牲にしてでも高速化を図る観点から,カント不足量を110mm程度まで許容して曲線通過速度を高めるようにしており,R2,500は255km/h(カント量200mmの場合)で(*7),R4,000は300km/h(カント量155mmの場合)で,それぞれ通過することを認めています。
 しかし現在のカント量を前提にした場合,最急標準半径であるR4,000の曲線区間での300km/h以上への向上は困難で,今後のスピードアップの大きな課題となっています。


(*5)新幹線運転研究会編「新版 新幹線」(1984)p.132

(*6)角本良平「新幹線 軌跡と展望」(1994,交通新聞社)p.10より。

(*7)大朏 博善「新幹線のぞみ白書」(1992,新潮社)pp.125-128


1-5.縦曲線半径 〜高速化のため拡大〜

縦曲線の説明図
 縦曲線とは,「線路の勾配が変化する個所において,車両の浮き上がりによる脱線防止や旅客の乗心地などから(中略)縦方向に設けられる曲線」をいいます(*8)。
 これを上の図で説明しましょう。図のように,勾配の変更点では,図面上は「勾配変更点」と呼ばれる頂上まで登り詰めてから降り始めることになります。しかし実際には頂上付近で床が擦れてしまうことが考えられます。そこまで極端でないにしても,上り勾配を登っている列車内にいる乗客には上向きの慣性力がかかっているので,急に下り勾配に転じたとは,反対向きの力が乗客にかかって,ちょうどジェットコースターに乗っているときのような不快感を感じます。列車が高速であればあるほど,その影響は顕著です。そこで左図のように,勾配変更点付近に垂直方向の曲線を入れ,滑らかに上り勾配から下り勾配に転じるようにするわけです。この曲線を「縦曲線」といい,その半径Rを「縦曲線半径」と呼びます。

 縦曲線上の車両浮き上がりなど,安全面からは車両にかかる重力加速度=Gが0.1以下が基準ですが,乗り心地上は0.05G以下とするのが望ましいとされています。国鉄ではその2/3にあたる0.033Gを目安としていました。
 東海道新幹線では,200km/hで0.033G,250km/hで0.05Gとなる縦曲線半径としてR=10,000mを採用していました。この数値は,戦前1940年に計画された「新幹線」(いわゆる弾丸列車)計画のスペックをそのまま引き継いだものです。
 しかし山陽新幹線では,260km/hで0.033GとなるR=15,000mを採用,以後の新幹線も15,000mを基準としています。ちなみに同時期に建設され,設計最高速度300km/hを誇ったフランスのTGV−Paris Sud Est(パリ南東線)の縦曲線はR=16,000mであり,2001年6月に実施した同線のスピードアップ(270km/h→300km/h)の際も問題なく対応しています(*9)。

(*8)新幹線運転研究会編「新版 新幹線」(1984)p.134

(*9)佐藤芳彦「世界の高速鉄道」(1997)p.308

 1-6.電気系統の改良 〜ATき電化と重架線化〜
 
 ○1-6-1.き電方式の変更(BT→AT化)(*1)

 山陽新幹線では,き電方式を東海道新幹線のBT方式からAT方式に変更しました。
 ところで,解説の前に「き電」とは一体何でしょうか?
 交流を電源とする新幹線では,架線(トロリ線)から受けてモーターを回した後の電流,いわゆる帰線電流がレールから大地へ漏れることによって,周辺の通信線などに障害を与える電磁誘導が起きてしまいます。これを防ぐため,帰線電流をレールから吸い取って,架線とは別の電線を介して変電所に返してやる必要があります。これを「き電」といい,帰すための電線を「き電線」といいます。いわば「マイナスの架線」といったところでしょうか。

 東海道新幹線では「BTき電」という方法を使っていました。これはBT(ブースタートランス=吸上変圧器)を3.0km(市街地では1.5km)ごとに設け,BTを介してレールに流れる帰線電流を「き電線」に吸い上げるものです。1つのBTが受け持つ範囲は1.5ないし3.0kmであり,異なるBTが受け持つ区間の境界にはブースターセクションが設けられました。
 このブースターセクションでは,架線(トロリ線)にも絶縁区間を設けなければなりません。しかし絶縁区間を力行状態で通過すると,パンタグラフとトロリ線の電位差によりアーク(電気火花)を生じ,双方共痛めてしまいます。といって3km毎に惰行していたのでは,安定した高速運転ができません。そこでブースターセクションの前後に抵抗器を挿入して,一旦電流を弱めてから絶縁区間に入るようにしました。これでアークは辛うじて許容範囲に収めることが可能になりました。この方法が開発されたのは開業10ヶ月前の1963年12月で,電気系統は工期を僅か8ヶ月しか確保できないほどの突貫作業となったのでした。

 しかしBTき電方式の根幹を成すブースターセクションは,この挿入抵抗の他にも,絶縁を確保するための空気遮断器をはじめ,構造が大変複雑なものでした。電気系統の故障の大半はブースターセクションが占めるほどだったのです。このためブースターセクションのない,新しいき電方式として登場したのがAT(オートトランス)方式です。
 AT方式では,き電線とトロリ線のあいだに単巻変圧器を並列接続させ,変圧器の中性点をレールに接続させています。帰線電流は車両の前後のレールに流れ,中性線を介して単巻変圧器の半分のコイル(中性点〜き電線)に流れます。このとき,この電流を打ち消すだけの電流がもう半分のコイル(トロリ線〜中性点)に流れるので,これがレールを流れる帰線電流を吸い上げる効果を持ちます。AT方式の単巻変圧器は,BT方式の吸上変圧器と異なり,トロリ線に並行に接続されるため,ブースターセクションは不要です。

 AT方式の採用で,ブースターセクション廃止に伴うメンテナンスフリー化が進み,変電所間隔を倍の40〜50kmにできることで経済性も高まりました。

 後にスピードアップと低騒音化の両立が求められるようになると,騒音源となる編成中のパンタグラフを減らす努力がなされるようになりました。パンタグラフを減らす以上,1つのパンタグラフに流れる電流は大きくなりますが,反面,BT方式の場合ブースターセクションで発生するアークも大きくなる問題点があります。そのためには挿入抵抗を大きくする必要がありますが,あまりに抵抗を大きくすると今度は電流を弱めるどころか,電流を流さない(絶縁)状態に近づいてしまうのでこれも困難です。結局,パンタグラフの削減はBT方式では無理で,東海道新幹線もAT化されることになりました。

 東北・上越新幹線は国鉄時代にパンタグラフを編成中6個から3個(後に2個)まで減らすことができたのですが,東海道・山陽新幹線については減らすことができませんでした。
 東海道新幹線のAT化は国鉄時代の1984年から開始され,分割民営化後の1991年に完成しました。これにより一部の変電所が廃止・集約された他,列車の編成中のパンタグラフもそれまでの6〜8個から一気に3個に減り,1994年にはとうとう2個となったのでした。

(*1)新幹線運転研究会編「新版 新幹線」(1984)pp.154-179

 ○1-6-2.異相き電方式の変更(上下線別→方面別)(*1)

 東海道新幹線では上下線の帰線電流の異相を90度ずらしてお互いを打ち消しあい,沿線への電磁誘導障害が小さくなることを狙っていました。これを「上下線別異相き電方式」と言います。

 山陽新幹線では夜行列車の運転が計画されていましたが,あわせて地上設備の保守も行う必要があります。このため深夜時間帯は,片方の線路を保守しながら,もう片方の線路に夜行列車を運転する単線運転を行うことになりました。単線運転で東海道新幹線の方式をそのまま採用すると,上下線で打ち消しあうという前提自体が崩れてしまうため,電磁誘導障害が生じます。また東海道新幹線の方式では,上下線の異相が異なるため,上下線の亘り線の部分に異相セクションを設ける必要があり,駅構内の架線構造が複雑になるほか,列車が上下線間の亘り線を惰行する必要があります。
 そこで上下線をまとめたペアを区間毎につくり,隣接する2つの区間どうしで電磁誘導障害を打ち消しあう「方面別異相き電方式」が採用されました。この方式だと,単線運転でも安定したき電が行えます。また上下線の異相が同じなので,亘り線に異相セクションを設ける必要がなくなり,単線運転で頻発するわたり線通過中も力行することが可能となりました。

 なお東海道新幹線も前述のAT化にあわせ,構内の架線設備を簡素化するため「方面別異相き電方式」へ改修する工事を行っています。

(*1)新幹線運転研究会編「新版 新幹線」(1984)pp.154-179

 ○1-6-3.重架線化と高速化対応

 高速運転でパンタグラフの追随性を高めるために東海道新幹線の架線(トロリ線)用として導入した「合成コンパウンドカテナリ」は,1列車当たり連続6〜8個のパンタグラフが通過する場合にはかえって追随性を損ねることがわかったため,パンタグラフの押し上げに対して変位の少ない重架線「ヘビーシンプルカテナリ」「ヘビーコンパウンドカテナリ」を導入しています(*1)。この架線はトロリ線の断面積が170平方mmもあって,強風でも揺れにくく,断線等の心配もない構造です(*2)。

 しかしその後の研究で,さらなる高速化に対応するには,架線は軽い方が良いことがわかってきました。特にトロリ線の振動が横波となって伝わる「波動伝播速度」に列車が近づくと,パンタグラフが通過する際にトロリ線が強く曲げられ,離線が多発します。詳しくは「2−3.盛岡−新青森間」で解説しますので,ここでは離線率を実用的な範囲に抑えるにはパンタグラフの通過速度はトロリ線の波動伝播速度の7割程度までに抑える必要があることを記すにとどめます。
 山陽・東北・上越の各新幹線に使われてきたトロリ線=「ヘビーコンパウンドカテナリ」(断面積170平方mm)を張力1.5tで引っ張った場合,波動伝播速度は324km/hであり,許容速度は230km/h程度しかありません(*1)。波動伝播速度は,トロリ線を引っ張る張力と,断面積の平方根の比に比例するので,速度を上げるにはトロリ線を軽くし,強く引っ張ればよいことになります。そこでより軽くて強度のあるトロリ線に張り替えることが必要ですが,東北・上越新幹線では全線でトロリ線の張り替えを行うのは投資対効果に疑問があるとして,従来と同じ「ヘビーコンパウンドカテナリ」(断面積170平方mm)のままで張力を1.8tまで引き上げ,波動伝播速度を389km/hまで引き上げる方法をとりました。これによりパンタグラフ通過速度としては272km/hまで対応できることになり,275km/h運転が可能となっています。

 なお東海道新幹線では,250km/h以上で走行する区間について従来の「ヘビーコンパウンドカテナリ」に替えて鋼芯に銅を巻いたCSDトロリ線(断面積170平方mm)を2.0t(従来1.5t)で引っ張っています。この場合の波動伝播速度は416km/h,パンタグラフ通過速度としては291km/hまで対応できます(*2)。山陽新幹線ではこれに加えて,一部区間で鋼にアルミを巻いたTAトロリ線(断面積150平方mm)を2.0tの張力で張った区間もあり,この場合の波動伝播速度は500km/h以上,パンタグラフ通過速度350km/h以上の性能が確保されています(*3)。

(*1)新幹線運転研究会編「新版 新幹線」(1984)pp.154-179より。
(*2):松本雅行「電気鉄道」p.140より。
(*3):海老原浩一「新幹線」p.141より。


 1-7.騒音・振動防止対策
 東海道新幹線での教訓を生かし,開業時から全区間に高さ2mの防音壁を設置したほか,市街地については,より遮音効果の高い逆L字型防音壁(高さ5.5m)やデルタ型防音壁を開発,設置しています。鋼橋はすべてPCコンクリート橋に変更されました。

 …以上が山陽新幹線との共通点です。しかし東北・上越新幹線は,山陽新幹線での教訓を踏まえ,さらに改良が施されています。

 1-8.荷重設計 〜重量の増加に対応,貨物は考慮せず〜

 山陽新幹線(岡山−博多間)と東北新幹線で設計が異なる点としては,荷重計算時に貨物電車の大量運行を考慮していないことが挙げられます。
 山陽新幹線では貨物列車の運行が計画されていたため,旅客電車用のP標準活荷重と貨物電車用のN標準活荷重を想定(いずれも軸重は16t),大部分の構造物がより影響の大きいN標準活荷重で設計されていました。
 これに対し,東北新幹線では「ほとんど旅客電車であるのでN標準活荷重は考慮しないが,車両が260km/h運転のための出力向上,雪害対策,異周波対策等の重量増加の要素が多く最大軸重は17t程度になることが予想されたため,軸重17tに対するP標準活荷重を採用」しています(*3)。但し「これのみでは,スパンの長い橋りょうは強度が小さくなるので,軸重17tのP標準活荷重のほかに従来どおりの軸重16tのN標準活荷重をあわせて採用」しています(*1)。

(*1)新幹線運転研究会編「新版 新幹線」(1984,日本鉄道運転協会)pp.136-137。本文の通り,P標準活荷重は旅客電車用の活荷重で,車体長20m,軸距2.2mの列車を想定している。これに対しN標準活荷重は動力分散タイプの貨物電車を想定した活荷重であり,車体長13.5m,軸距2.2mの列車を前提としている。

 1-9. ATCの改良 〜2周波化,軌道回路の短縮,逆線260km/h化〜

 新幹線の安全の根幹を成すATCについても大改良が加えられました。

 ○1-9-1.信号波の2周波化(信号段の追加)

 まず信号波の「2周波」化が挙げられます。すなわち今まで1種類の周波数を送って識別していたATC信号(1周波式)を,2種類の周波数を用い,その組み合わせで識別する「2周波式ATC」に変更しました。

 このことで,ATC信号の信頼性が高まりました。特に3種類ある停止信号のうち,無電流状態を信号として認識させるためノイズ(雑音電波)の影響が問題視されていた「O2信号」と,ループコイル上を通過することで信号を受信するため読み取りエラーの危険が指摘された「O3信号」について,専用の周波数の組み合わせが割り振られたことは,新幹線の安全性を高める取り組みとして注目されます(それぞれの停止信号の意味については,表2の(※3)参照のこと)。

 同時に信号の種類を従来の8種類(うち2種類は地上子発信と無電流状態)から最大30種類まで増やすことも可能になりました。この成果を活かし,東北・上越新幹線は設計時から設計最高速度に対応する信号段(主10.0Hz&副16.5Hz)が用意されていました。計画段階ではこの信号段は「260km/h信号」となる予定でしたが,昭和58年8月23日から約1週間の現示試験を経て同9月1日より「240km/h信号」として使用され,現在に至っています(*1)。
 表2と表3は,1周波時代の東海道・山陽新幹線の信号現示と,2周波になった現在の各新幹線の信号現示を比較したものです。

 なお東海道新幹線のATCは1990年度に,山陽新幹線の1992年度に,それぞれ2周波方式のATCに更新されています。

(*13)新幹線運転研究会編「新版 新幹線」(1984)p.226及びp.455

(表2)1周波方式の頃の東海道・山陽新幹線のATC信号
                   〜「新版 新幹線」p.226より〜      
信号種別 信号波
210km/h(220km/h) 10Hz
160km/h(170km/h) 15Hz
110km/h(120km/h) 22Hz
70km/h 29Hz
30km/h 36Hz


O1 36Hz+P点
O2 無電流
O3 無変調
(※1)1986年11月ダイヤ改正以降は括弧内の速度現示となった。

(※2)各信号波は,そのまま流すと小さすぎて列車側で読み取れない恐れがあるため,実際には架線から取り入れモーターに流れ,レールを経て大地に帰っていく「帰線電流」の高調波(整数倍の周波数を持つ)にのせてレール上へ流される。この特定の高調波のことを,信号波を運ぶことから「搬送波」という。
 東海道・山陽新幹線の場合,電源周波数は60Hzなので,下り線では840Hz及び1,020Hz,上り線では720Hz及び900Hz(いずれも60Hzの整数倍)が「搬送波」とされている。たとえば下り線で840Hzの搬送波を使って210km/h信号を送る場合,レールに流される周波数は(信号波)+(搬送波)=10Hz+840Hz=850Hzとなる。列車側では850Hzの電波を受け取ったのち,840Hzの搬送波を差し引いて,10Hzの信号波=210km/h信号を取り出す。搬送波が2種類あるのは,隣接する閉塞区間では異なる搬送波を用いて,周波数の読み取りを容易にするため。

(※3)停止信号には3種類あり,受信方法も意味も異なる。
〜O1信号〜
 列車がいる閉塞区間の手前で現示される「O1」信号は,一般の鉄道でいう閉塞信号の停止現示にあたる。36Hzの信号(=30km/h信号)で進行中,P点と呼ばれる地上子の上を通過すると作動する。
〜O2信号〜
 列車がいる閉塞区間内に入ったとき,又は停電のときに現示される「O2」信号は,一般の鉄道でいうと閉塞信号の停止現示を超えて進んでいるような状態である。無電流状態を検知すると「O2信号」として認識するが,ノイズが混ざって別の信号と誤認される事故が1974年に東京・品川で起きた(柳田 邦男「新幹線事故」(1977)pp.120-157)。
〜O3信号〜
 駅構内や線路の終端など絶対に停止すべき地点を超えたとき現示される「O3」信号は,一般鉄道で言う出発信号機や場内信号機の停止現示にあたり,いわば「絶対停止」信号である。専用のループコイル上(写真4)を通過したときに作動するが,読み取りエラーではないかと疑われる事故が1973年に大阪・鳥飼で起きた(柳田 邦男「新幹線事故」(1977)pp.2-119)。

(表3)2周波方式となった現在の新幹線のATC信号
       〜松本 雅行「電気鉄道」p.254及び「新版 新幹線」p.226より〜      
12.0Hz 16.5Hz 21.0Hz 27.0Hz 32.0Hz 38.5Hz
10.0Hz 220km/h
  
275km/h(※1)
240km/h(※2)
切替信号
260km/h
(※4)

230km/h
210km/h
255km/h
(※5)
  
O3信号
O3信号
15.0Hz   
  
  −
  
170km/h
160km/h
  −
  
  −
  
22.0Hz 120km/h
110km/h
  −
  
  −
  
  −
  
  −
  
29.0Hz  70km/h
 70km/h
  −
  
  −
  
  −
  
  −
  
36.0Hz   −
  
300km/h(※3)
  
  −
  
30km/h
30km/h
  −
  
41.0Hz   −
  
  −
  
  −
  
O2E信号(※6)
O2E信号
  −
  
青字は東海道・山陽新幹線,赤字は東北・上越新幹線

(※0):2つある「信号波」のうち,タテの列を「主信号波」,ヨコの列を「副信号波」と呼ぶ。
(※1):東海道新幹線では270km/h信号(=最高速度)である。
(※2):E2系ないしE3系,200系の特定の編成(F90〜93編成)で組成された列車については,トランスポンダを使って車両側と地上で「高速許可」情報をやりとりして,宇都宮−盛岡間及び上毛高原−浦佐間(下り線)で240km/h信号を受信した場合,275km/h信号に読み替える。また200系の特定の編成(H編成など)では同様に245km/h信号に読み替える。
(※3):山陽新幹線西明石−博多間でのみ現示される。
(※4):北陸(長野)新幹線(高崎−長野間)では260km/h信号として認識する。
(※5):255km/h信号は東海道新幹線におけるR2,500の曲線制限用信号。
(※6):O2E信号は従来のO2信号と同じ現示内容。但し停電時はATC信号電流が流れないので,無電流=従来のO2信号となる。
(※7):下位の最高速度の列車では,ATC信号も下位側に読み替えられる。たとえば最高速度が270km/hの300系車両の場合,300km/h信号を受信しても,運転台には「270km/h信号」が表示されることになる。
(※8):搬送波の周波数は,下記の通り。
【主信号波・60Hz区間】下り線:840Hzないし1,020Hz 上り線:720Hzないし900Hz
【主信号波・50Hz区間】下り線:850Hzないし1,000Hz 上り線:750Hzないし900Hz
【副信号波】電源周波数や上下線を問わず1,200Hz
(※9):空欄は現在信号が設定されていないことを示している。このことから,現示を多様化させる可能性が十分あることがわかる。
(写真4)
絶対停止信号である03信号の専用ループコイル
「絶対停止」であるO3信号を発信するための専用ループコイル。
1973年に起きたオーバーラン事故(鳥飼事故)の教訓から,コイルを2重化して信頼性を向上。

2002/04/28 9:30 東北新幹線 盛岡駅上り本線(12番線) 新青森方にて


 ○1-9-2.閉塞区間の短縮

 高速運転でありながら運転時隔を縮めるため,1つの閉塞区間を従来の2.4〜3.0kmから1.2kmに変更,少しでも列車と列車の間隔を縮めることができるようにしました。

 ○1-9-3.逆線運転可能な設備(双方向260km/h運転の実現)

山陽新幹線では順方向260km/h,逆方向210km/hだった運転速度も,東北新幹線では両方向とも260km/h運転が可能なように改められました。電気設備(架線セクション)も双方向260km/h運転が可能なよう設計されています。これにより,夜行列車運転時も特に減速することなく単線運転が可能となりました(*2)。

(*2):新幹線運転研究会編「新版 新幹線」(1984)p.175

 2−10. 耐寒耐雪設備の充実

 北日本に新幹線を走らせるために,避けては通れない課題が雪の問題でした。特に東海道新幹線では関ヶ原地区での積雪により,毎年列車遅延の被害が相次いでおり,鉄道の特徴である定時性を守る点からも万全の体制がとられています。

 大宮−盛岡間の場合,もっとも多く雪が降る北上地区でも,10年確率での最大積雪深は75cm程度であり,線路上の雪を列車のスノウプラウ(雪かき器)で線路の外側に跳ね飛ばし,線路脇の高架橋内に貯める対策で十分と判断されました。
 このため,写真のように東北新幹線を走る列車の先頭にはスノウプラウが設けられています。



東北新幹線を走るE2系とE4系のスノウプラウ
「貯雪方式」はスノウプラウからの排雪が前提となる。
200系の経験からスノウプラウは小型化され,低騒音化のため突起もほとんどない。

2000/08/09 16:00頃 仙台総合車両所にて(見学中に許可を得て撮影)


 通常のスラブ軌道のレール面(R.L.=Rail Level,以下同じ)は,高架橋の床面から40cmほどのところにありますが,積雪深30cm以上が予想される区間では,スラブ軌道を22cmかさ上げした床面高62cm(R.L)とし,スラブ軌道の外側を約50cm広くとった「貯雪式高架橋」としました(*1)。

 但し,北上市街地の約3kmについては,積雪深50cm程度が予想される上,雪の舞い上がりにより沿線民家等に影響を及ぼすことが懸念されるため,水を撒いて軌道上の雪を消すようにしています。これを「消雪方式」と呼びます。「消雪方式」は写真のように上越新幹線の明かり区間の雪対策の方法として知られています。
 撒いている水は水温12〜16℃に保たれ,水量は1u当たり1リットル/分程度,雨量換算60〜70mmでほぼ集中豪雨に匹敵します。上越新幹線では比較的温かいトンネル内の湧水を利用できる区間もありますが,北上地区の場合はボイラーにより川の水を沸かして使用しています(*2)。

(*1):『鉄道 勾配縦断図の旅 東北線・奥羽線』(小学館,1986)p.38

(*2):新幹線運転研究会編「新版 新幹線」(1984,日本鉄道運転協会)pp.149-150
    消雪には12〜16℃の温水を用い,撒水量は1u当たり1リットル/分,降水量換算で60〜70mmと集中豪雨並みである。


上越新幹線の「消雪方式」…散水で完全に雪を消しているのがわかる。   
上越新幹線 越後湯沢駅構内 Maxあさひ317号 2階席より)

1999/12/19 (317C=越後湯沢着12:59 E1系M6編成)

 一方,駅部については夜間留置の可能性や乗客サービスも考え,積雪が予想される一ノ関・北上・盛岡の3駅について駅部全体を覆う屋根が設けられました。仙台駅も中央部は屋根ですっぽり覆われた構造です。駅全体を覆う屋根は,上越新幹線上毛高原以北と共に,その後新設された水沢江刺・新花巻の両駅にも踏襲されています。


雪と北風を防ぐため,駅全体を屋根で覆った東北新幹線盛岡駅。
この他,一ノ関・水沢江刺・北上・新花巻も駅全体を屋根で覆っている。

2002/04/28  9:35 E4系P4編成(31B到着後)


 2−11. まとめ〜連続した300km/h運転が可能〜

 これらをトータルした結果,大宮−盛岡間については,仙台・盛岡付近の一部を除いて,現在でも連続した300km/h運転を夏冬問わず行うことが可能です。勾配についても緩い規格で設定されているため,14〜15‰のトンネル区間を含む郡山−福島間などを除いて300km/hの定速運転ができますし,前述の区間でも勾配の距離は長くないので,295km/h程度まで落ちたところで再加速できるような線形となっています。
 それ以上のスピードアップ,たとえば320km/h化については,現在のカント量を前提とすると,標準最小曲線であるR4,000とR5,000で制限を受けることになります。すなわち大宮−盛岡間で25ヶ所のR4,000(大宮・仙台・盛岡周辺の制限とならない個所を除く)と3ヶ所のR5,000(同上)では,制限速度がそれぞれ300km/h,315km/hとなります。さらに高速の330km/h化では,R6,000も325km/hの制限個所となります。但しカント量の引き上げを前提とすれば,R4,000が320km/h,R5,000は370km/h以上となり,問題はかなり小さくなります(*1)。


(*1)東北新幹線建設時の各曲線のカント量は,R4,000=155mm,R5,000=120mm,R6,000=100mm,であった。このカント量で,たとえばR4,000を260km/hの列車が通過したときの乗客が感じるカント不足量は44mmとなる。当時の国鉄は乗り心地の点から,カント不足量は60mm以内,できれば30mm以内に収めるのが望ましいとしていた。
 現在のJRは多少乗り心地を犠牲にしても曲線通過速度の向上を進める観点から,カント不足量は110mmまで許容しており,この時の制限速度は,R4,000=300km/h,R5,000=315km/h,R6,000=325km/hである。しかしカント量自体を限界の190〜200mmまで引き上げる前提であれば,R4,000=325km/h,R5,000=370km/h以上となり,320km/h運転では事実上,制限ではなくなる。但しスラブ軌道のカント量引き上げは,過去にほとんど例がないため,技術的・経済的検討が必要である。

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