未来予想図

「――亜久津とちゃんって、いつもどこでデートしてるの?」



千石の唐突な質問に、亜久津とは互いに顔を見合わせた。先に亜久津がばつが悪そうに目を逸らす。

「どこで、って。たぶん千石と変わらないと思うよ。ゲーセンで遊んだり、喫茶店でお茶したり」
「他には?」

沈黙が落ちる。やがて、はぁー、と千石がわざとらしい溜め息をついた。

「あーくーつー。彼女連れて行く先が、ゲーセンと喫茶店だけじゃ可哀相過ぎるでしょ。こんど横浜の中華街でも案内してあげなよ」
「うるせ」
「あの、別にそんな遠出しなくてもいいよ。私もそんなにお小遣い多いわけじゃないし、……亜久津と一緒ならどこでもいいし」
ちゃんはまた、そうやって亜久津を甘やかす。駄目だよ? もう少し我がままにならなきゃ。ホントのホントに、他に行きたい所ないの?」
「あ……」

は口を開きかけ、すぐに閉じた。意外な反応に、亜久津がぴくりと肩を揺らす。
千石がすかさず目を輝かせた。

「あっ、やっぱり行きたい所あるんだ!? ね、どこ? 教えてよ」
「でも、」
「――――

言え、と亜久津が目で促す。しぶしぶ、真っ赤になりながらは答えた。

「……東京Dィズニーランド」
「チッ、またダサい所挙げやがって」
「亜久津! それは全国のファンを敵に回す発言だよ! ……という冗談は置いといて。ちゃんランド派なんだ? 普通カップルだったらシーの方がオススメって言うよね」
「うん。でも昔から、憧れてて」
「ああ、うんうんっ、そうだよね! ツンデレラ城のナイトパレード! 俺が前の前の前の彼女と見た時もすっごく感動的だったなぁ〜」
「えっと、そういうのじゃなくて」
「違うの? あ、もしかしてアトラクション好き?」
「それも違うの。あの、親子連れがね」

は手を持ち上げて、両肩の辺りで何かを握るような仕草をした。

「こう……小さい子が、お母さんとお父さんと手を繋いで、3人で歩いているのを、良く見かけるんだけど。子供が凄くはしゃいでて、楽しそうで。ああいうの見てると、何だか凄く幸せな気持ちになるの」
「…………」「…………」
「――ごめん、やっぱり変だよね」

千石と亜久津は、俯いて肩を震わせていた。やがて耐え切れなくなったように、千石が笑いながら叫んだ。

「あーもう、ちゃん! めっちゃくちゃ可愛いー!!」
「るせぇ! 千石黙れ!!」

びりびりと空気が震えるような音量で亜久津が怒鳴った。普通ならとっくに千石を睨みつけているところなのに、何故かまだ顔を上げない。その白い首筋には若干赤みが差しているようだった。
千石は笑いすぎて涙が出たようで、目尻を拭いながら言葉を続けた。

「あ、ぷぷっ、俺もまさかさ、そういう珍回答が来るとは思わなかったっ。ちゃん子供好きなんだねぇ」
「うん、そうかも。……ていうか、千石ほんと大丈夫? 笑いすぎじゃない?」
「平気平気。――そうかぁ、それがちゃんの夢なんだね。じゃあさっ、いつか亜久津と三人でやりなよ。手繋ぎ」
「は? 千石が真ん中に来るの?」
「違うって、だから――」
「黙れっつってんだよっ!!」

長い足が高速で弧を描いた。
亜久津の爪先は狙いあやまたずクリーンヒットする。脇腹を押さえながら千石はその場に崩れ落ち、それでもまだ笑い転げていた。

「千石!? 大丈夫?」
「へ、平気、平気。今のはちょっと効いたけどねっ。ははは……。そ、それにしても亜久津が照れるなんて事あるんだなー」
「え?」
ちゃんと亜久津の子供だったら絶対可愛いよね、うん。俺が全力で保証しちゃうよ」

だから、見ている側じゃなくて。いつか本当に手を繋いで、3人で歩けるといいね?

言外に含まれた意味に気付いて、は亜久津に負けず劣らず顔に血を上らせた。



それは淡く淡く、心に描いた、曖昧な未来の一枚絵。


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2007/09/08 up
某企画サイト様提出用にと書いていたSS。
ミドルキックが外せない為此方に残留決定です。…ごめんよ千石。
ドキサバ見る限り千石は煽り上手だと思います。