コンビニ店長は見た

某月某日(日) 夜

 店周り掃除してたら、中学生か高校生くらいの女の子が半泣きで駆け込んできた。近くで喧嘩があって巻き込まれたらしい。まだ逃げ遅れている友達がいるらしいので付いていくことに。けど俺ヘタレで喧嘩なんててんで駄目なんだぜ。でも可愛い女の子に頼られて断れなかったんだぜ……。
 道路の真ん中に5人くらい若い男が倒れてた。そのど真ん中に真っ白いツンツン頭の不良が立ってる。亜久津だった。

※亜久津はうちのコンビニの近くに住んでる不良。メチャクチャ喧嘩強くて有名。ついでにお母さんが若くて美人、たまに店に来てくれると胸がときめく。亜久津が来ると別の意味で不整脈発生。

 亜久津がコッチ気付いた。眼ぇメッチャ怖ぇ。
 やべぇ殺される((((゚A゚;))))←こんなになってたけど、女の子に怪我させちゃヤバイと思って前に出た。明らかに殺意ギラギラの亜久津。
「おい、テメェ何もんだよ」
 ただのコンビニ店長だよ悪かったな。
 そう思っても口に出せない俺ヘタレ。と、ここで女の子が間に割って入る。

「駄目、この人を殴るなら私を殴って!」なんて事は全然無い。いきなり亜久津に抱きつく。
ってエエエェェ(゚A゚)ェェエエエ

 状況把握。
 あの女の子、なんと『あの』亜久津の彼女だったらしい。
 どうやら女連れでいるのを他校の不良に見られてちょっかい掛けられた模様。で、彼女だけ安全な所に逃がして独りで返り討ちにしたと…そういう事らしかった。俺は彼女が上手いこと取り成してくれたんでボコられるのは回避したけど。
「まだ片付いてなかったらどうする気だったんだ、アァ!? テメェみたいなモヤシはすっこんでろ!!」
 怒鳴られた。ちょ、俺なんで年下相手に涙目になってんのww
 そのまま亜久津は去っていった。彼女の方は俺に何度も「付いてきてくれて有難うございました」って頭下げてた。俺全然役に立ってないのにな…。良い子だ。亜久津に殴られたりしてないよな?


某月某日(日) 夕

 さっき先週の女の子が店に来た。迷惑をかけたお詫びだと言って、焼き菓子の詰め合わせを持って来てくれた。ちょうど休憩中だったんで、裏で少し話をすることに。
 女の子の名前はちゃんと言って、亜久津とは同級生で、付き合い始めたばかりらしい。しょっちゅうこの前みたいな事があるんだ、って教えたらかなりションボリしてた。でも、彼女が辞めてって言ったら不良辞めるような奴じゃないしな…。無駄に心配あおっただけのような気がする。もっと面白い話すれば良かったとちょっと後悔した。
 休憩上がったら、バイトの女の子達に「さっきの子、店長の彼女ですか?」ってワクワク顔で訊かれた。俺が女子中学生に手ぇ出したら犯罪だろ…。亜久津の彼女だよって教えてやったら無駄にキャーキャーしてた。
「えー、信じられない! あんな不良と付き合うなんて度胸あるよねー」
「でもさぁ、亜久津って意外と格好良くね? 顔キレイだよねー恐いんだけどーキャハハハ」
 ああ結局顔ですかそうですか。
 いいんだ、彼女なんていなくても俺は堅実に働いてやるぜ。今月も売り上げ伸ばして優良社員賞もらってやるぜ。悲しくなんかないからな!


某月某日(月) 朝

 月曜…それはWJの発売日…
 亜久津は毎週9時過ぎに店に来て約15分WJを立ち読みし、気に入れば買っていくという習慣がある。
 この間は他の客がビビって雑誌コーナーに寄り付かないので、実に迷惑、厄介、お客様立ち読みはご遠慮下さい(←言えない)の時間だ。だいたいお前一限はどうした、また彼女に心配かけてんじゃねぇよバーカ(←言えない)と心の中で突っ込みつつレジ打ちに専念する。
 すると今朝は女子高生(亜久津以外で堂々サボる中坊はいない)が来店。何とそのまま亜久津の隣りの棚へ。
また亜久津が威嚇するんじゃないかとヒヤヒヤしてたら、そのまま話し始めた。レジ打ちの合間に様子を伺っていると、どうやら知り合い同士らしい。
 よくよく見れば女子高生も山吹の制服。ちょっと派手めで、可愛いというより美人系だ。何か亜久津と距離近いし、肩叩いてふざけ合ったり、何気にいい雰囲気。
 え…もしかして俺、浮 気 の 証 拠 現 場 目 撃 し て る…?
 それから女子高生はJJとWJをまとめてレジに出して、会計が済んだWJを亜久津に渡してた。
 …いま冷静に考えてもこれは友達同士のやり取りじゃないよ…な?
 あのちゃんはどうした? 亜久津、お、お前まさかあんな良い子を差し置いて浮気か!? ふざけんなーっ!!

 という話をアユミちゃん(うちでバイトしてる女子高生)にしたら、
「いやー、そういう事もあるんじゃないですか? ていうか、店長って浮気とか許せないタイプぅ? 一途なんですね〜アハハハハ」
 だって。
 俺もう駄目。最近の若い子には付いていけない。


某月某日(日) 昼

 急展開。
 つうか本気で修羅場だった。被害者は主に俺だけど…!

 順を追って話そう。
 初めに店に来たのは例の、丁寧で可愛い亜久津彼女、ちゃん。家で逢う約束してたんだけど、亜久津が出てこないから暇潰しに来たという。邪魔してゴメンなさいとか律儀にことわっててマジ良い子。
 しかし家にいる筈なのに出てこないってもしや…と思ってたら、あの女子高生が襲来。こ、こ、これは偶然じゃないよな? もしやさっきまで亜久津と逢ってたんじゃないか!? と俺は思ったね。
 ちゃんと女子高生が話し始める。最初は楽しそうな雰囲気だったのに、段々ちゃんの方が泣きそうな感じに。
(アタシさっき亜久津の家行ってたんだ〜。ごめんね彼氏奪っちゃって)
(あはは、でもまさか、亜久津が本気でアンタのこと好きだとか信じちゃってたの?)
 きっとそんな台詞を突き付けられてるに違いない…! そう確信した俺は思わず止めに入った。
「お客様、すみません、ちょっと宜しいですか」
「誰あんた」
「いやあのこのコンビニの店長なんですが…(小声)」
 …美人は怖い…今時の女子高生って何であんな迫力あるんだろう…
 しかし今度こそ俺もイイ所見せるぜ、と頑張った。頑張ったよ。「とりあえず店内でのトラブルは困りますので」「何があったか教えて頂かないと」「裏で一旦話しましょう」とか、一生懸命話して、とりあえずちゃんだけ裏(休憩室)に引っ張っていく。女子高生の方は怖いからアユミちゃんにお任せ。
ちゃん、泣いてたみたいだけど…。あの女の人に何か言われた? 苛められたりしてないよね?」
 ちゃんはクスンクスン鼻鳴らしながらも首を横に振る。何とかなだめつつ話を聞いてみることに。やっぱりと言うか、原因は亜久津のことだった。

 何でも、ちゃんは女子寮に入っていて、さっきの女子高生はルームメイトなんだって。最近亜久津に避けられているような気がして不安で、ずっと相談に乗って貰っていたんだと。
 んで、女子高生が亜久津に探りを入れたのが、この前の月曜のアレだったらしい。WJはゴマ擦りというか袖の下みたいなモンだったのかな?
 とにかく、それで聞いてみたら。亜久津は例の、初めにちゃんが店に来た時の喧嘩騒ぎをずっと気にしてたんだと。
 自分と付き合っていたらまた他の不良に目を付けられるかも知れない。自分が側にいない時にもし襲われたりしたら…そう考えて、距離を置いてたんだってさ。
 そうでなくてもちゃんは学校の先生達から不良と付き合うなってこっぴどく叱られていて、亜久津の方は色々と迷っていたらしい。弱気な亜久津…意外だ…想定の範囲外だ。

 聞いてみれば「なーんだ、そうだったのか」って話だよな。俺もしんみりしちゃってたんだけど、急に表が騒がしくなったんで「あれ?」と思ったら、亜久津が! 亜久津が休憩室に!!



…そこからの展開は思い出したくもない…

 いや俺もさ、知り合いとは言えお客さんを休憩室に入れるのはマズイって分かってたんだよ。けどあの状況だぜ? どう見たってちゃんが浮気相手に言い負かされてる!と思うじゃん。庇うしかなかったんだって。
 でも休憩室には俺と女の子(ちゃん)二人っきり、しかもちゃんが明らかに泣きはらした後の顔と来てる。彼氏から見てどういう勘違いを起こすかは、ご想像の通り。

 はいはい選択肢間違ったよ、死亡フラグ踏んだよ、ゲームオーバーだよ悪かったな!

 亜久津は速攻でキレた。何発殴られたっけ? 忘れたけど。ちゃんと、女子高生と、あとアユミちゃんと…他にも男のお客さんが止めに入ってくれたので何とか命だけは取り留めた。頑丈に産んでくれた母さんに感謝だ。
 とりあえず警察沙汰だけは勘弁してくれって俺もちゃんも頼んだので、その場は丸く収まった。亜久津は誤解だって分かっても謝らなかったけど、まぁそんな奴のことはどうでもいい。本気でどうでもいい。ちゃんが、ボロボロ泣きながら謝ってたのが可哀相だっただけで。

 そんなこんなで今日は仕事が長引いた。顔が腫れて病院行かなきゃいけなかったんで、申し訳ないけど残業してくれってアユミちゃんとコウジ君に頭下げたら快く引き受けてくれた。有難う。うちのバイトはみんないい子だよ。


某月某日(月) 夕

 昨日の騒動がバレて、本社から電話とFAXが来た。とりあえず今月の優良社員賞はおじゃん。ガックリ…。でも減給にならなかっただけマシと見るべきか。

 で、今さっき亜久津とちゃんが来た。びっくりして一瞬頭が真っ白になったよ。頼むから近づくなー! と思ったけど、隣りにちゃんがいる手前、逃げるわけにもいかない。
俺「ななな何でしょうか(←声震えてる)」
亜「………昨日は悪かったな」
 今度は驚きで頭が白くなったね。亜久津が、謝った! …空から槍が降ってくるんじゃないか?
 とりあえず病院で診察受けたから大丈夫だと答えたら、「知ってる」と言って茶封筒を押し付けられた。治療代ってことか。断ると怖いので素直に受け取っておく。…案外筋は通すヤツなのか???

 とりあえず、ちゃんとはヨリを戻したらしい。ちゃんはやっぱり今日も申し訳なさそうにしてたけど、よくよく見てると前より表情が明るかった。やっぱり女の子は笑顔が一番だよな、うん。







 夜。アユミちゃんがシフト入ってないのに店に来た。救急箱持参で。
「店長のことだからまだ一人でウンウン痛がってるのかと思ってー。偉いでしょ、私」
 ちょっ、その台詞はないっしょ。
 でも丁度バンソウコウ貼り替えようと思ってたところだったので、大人しく治療を受けることにする。
「店長もう無理しちゃ駄目だよ」
 はいはい身に沁みて分かってます。
「あと私以外の女の子にデレデレしちゃ駄目だよ。店長が好きになってもいいのはアユミだけだからね」
 …………え?
 ちゅーされました。本日3回目の頭真っ白。


 いや、いい事すればいい事があるんだって言うけど、まさかこう来るとは思わなかった。まだ実感沸かないけど、アユミちゃん本気…なんだよな? うわあああ思い出したらまたドキドキして来た!

 ちょっ、アユミちゃんからメール来た!
 俺女の子と何話していいかわからないし…! やばい、手震えてる。で、でも返信するしかない。
 アユミちゃんの気持ちに応えるんだ。
 ガンバレ俺、ガンバレ自分!


←back

2007/08/07 up
顔文字その他、色々と掟破りして遊んでみました。
仮タイトルは『コンビニ男』。言うまでもなく電車男をイメージして書いてます。
終盤のは亜久津夢じゃないと無理な展開でしたね。
ハイペースで書けて楽しかった話です。