犬王女
−トンヌラ王子の冒険・第二話−
王子の剣さばきは、確かに素晴らしかった。
一点の隙もない動きにつれて翻るマント。しぶく魔物の毒血を紙一重で交わす身のこなしは、まるで流暢な舞でも
見ているかのようだ。
そんな彼だから、毛筋ほどの傷さえ負うはずもなくて―――
僕の回復魔法が物を言う場面など、まったくといっていいほどなかった。
ましてや、幻惑や炎撃魔法での援護など。
日を追うにつれ、僕の中で『お前が必要なのだ』という彼の言葉の真意は不可解さを増して行ったのだ。
「………言ったろう?三王家に復讐する為だ」
恐る恐るの問に、彼はぶっきらぼうにそう答えた。
「三王家―――貴方は、ご自分の父上に対しても………?」
「………………………………………………」
すると彼は黙り込み、僕をじっと見据えた。その視線にはどこか肺腑を凍りつかせるような冷たさが含まれている。
「ロトの勇者………そんな下らない称号を持つ野郎の愚行がそもそもの始まりだ。俺は、奴の血を引く者たちを許さない」
「それなら………ズィータ様は、みずからの存在をも否定なさるのですか」
僕はついそう反論した。王子の口元に皮肉めいた笑みが広がる。
「俺か、勿論俺の存在が一番の過ちだろうな。父王気に入りの第二王子―――アレフただひとりが父の子であったなら
もっと美しい物語が紡がれていたのだろうが」
僕には何も言い返すことが出来なかった。日向に出ることのできない存在といえばこの僕自身がそうであったからだ。
思えば僕は世界を救ったという名声と引き換えに片羽の身に対する免罪符を手に入れようとしていたのではないか。
「ま、そんな御託よりももっと簡潔な理由がある」
「………なんですか?」
「お前のマンコは、実に具合がいいからな」
「………………………………!!!」
しれっと言い放つ一言に、頬が燃えるように熱くなる。
「毎夜ハメ続けてもまるで感触が変わらない、いつまでも処女のようで………いや、使い込むほどに快楽を引き出す
ツボを覚えるのかさらに良くなる。惜しいな、遊び女であったら引く手あまただろうに」
「ふ、ふざけるなっ!!」
ああ―――僕は、いつまでこんな辱めに耐えなければいけないんだろう。
王子は、あれから毎晩のように僕の身体を求めてくる。それはセックスというより排泄のように、ただ
溜まった性欲を僕の中に吐き出すだけの行為だった。
何よりもいやなのは、僕の身体が次第に彼の行為を甘んじて受け入れるようになってきたということだ。
無論僕の意思は今も拒否を続けている。理不尽な暴力によって身体を開かされ、欲望のままに肉を弄ばれる屈辱……
しかし、彼の言葉通り―断じて認めたくはないが―僕の身体は、次第にそれを望むようになってきている。
下腹をえぐる肉棒の感触を。
膣内に放たれる迸りを。
(駄目だ!!!今度こそ……今度こそ、受け容れちゃ駄目なんだ!!)
強く己に言い聞かせるのに、彼の愛撫が開始されるとそんな決意は卑しい快楽に押し流されてしまうのだった。
この頃ではもう、彼の体臭を間近に嗅ぐだけでしっとりと股間が濡れるのを感じる。
死んでしまいたい。僕はなんていやらしい身体になってしまったのだろう。
そしてまた、僕を絶望の淵へ一歩おいやるような出来事が起きた。
荒々しい王子の抱擁から解放され、膣内に吐き出された精液を洗い流そうとひそかに川原へと向かったとき―――
ふと、何かしら生暖かいものが内股をつたう感触があった。王子の出したものが流れ出てきたのだろうかと手をやると、
それは血の赤色をしていたのだ。
僕はいっとき何が起きたのかとパニックに陥った。はじめて犯されたときの傷がふたたび開いてしまったのだろうか
とも思ったがそれにしては量が多すぎる。いつまでもどろどろと固まらないそれは普通の血よりも生臭く、それでいて
どことなく甘だるい匂いを発していた。
放心して空を見上げると満月に近い月が浮かんでいる。はっと思い当たった僕はひといきに蒼褪めた。
………これは、もしかしたら月経の血ではないのか。
このところ張りを増してきた乳房と、まとわりつくような腹部の鈍痛もそれで説明がつく。僕の体内にある子壷は熟し、
子供を孕めるほどになったのだ。
(嘘だ、嘘だそんなこと―――!!!!)
ふたなりの身体をもつ僕は、それでも唯一みすぼらしいペニスをよすがに「自分は男なのだ」と信じながら生きて来た。
だが、これではまるで………女ではないか。
僕はわななく指で内股に線を引く液体をすくった。血の赤に、王子が射精した精液の白が混じっている。
僕は………僕は、これまでのように犯され続けたら、いずれ王子の精子で妊娠してしまうのか。そんなことは。そんなことは。
(僕は………どうすれば………………!!!)
僕は月明かりの下、嗚咽しながらいつまでもいつまでも股間から流れるものを洗い清め続けた。
僕はそのこと―自分が初潮を迎えたことを王子に話せなかった。
こんな事が知れたら、彼はまたどんな態度に出るか分からない。血が流れ出してこないよう膣の奥に薬草を詰めながら、
情けない気持ちで涙が止まらなかった。
旅を続けて、僕らはやがてムーンペタの町に辿りついた。この町の丘からは三日月湖とムーンブルグの城が見渡せる。
静まり返った水面に落ちる森の陰影は月にかかる群雲さながらに、まるで地上に月が降りてきたような幻想的な眺めだ。
「見えるか?ムーンブルグ城はすぐそこだな」
「…………………………………………」
「マリア王女に会うのも数年ぶりか……お前の成長ぶりを見れば、彼女もさぞかし喜ぶことだろうな」
にやにやと嘲笑を浮かべながら僕を横目で見る王子。僕はかたく唇を噛んで聞こえないふりをした。
ムーンブルグ第一王女、マリア様。僕の中の彼女はあくまで気高く美しく、それでいておっとりと優しげな……聖女のような
かただった。
柔らかな花弁とやすらかな芳香で人々を癒す、木蓮のような乙女。彼女は幼い僕をまるで本当の弟のように可愛がってくれた。
マリア様は僕の密かな憧れであったのだ。
その彼女に、僕は……どんな顔をして会えば良いのか?こんなにも汚れ辱められた醜い出来損ないの僕が。
しかし、宿に着き部屋に閉じこもっている僕に王子はこう言った。
「明日は南の毒沼へ行くぞ」
「えっ」
……おそらく、そのとき僕はほっとした表情を浮かべていたのに違いない。
「その足で王城へ向かうがな」
言葉を続けた王子はからかうように笑った。
「どうした?マリアに会いたくなかったのか?」
「………………毒沼へなんて、何をしに行くのですか」
心を見透かされた口惜しさに、彼の言葉を無視して訊ねる。それが僕にできる精一杯の反抗だった。
ムーンブルグのお城は、邪教の神官ハーゴン率いる魔物たちに襲撃されたといいます 町の人達の話では、王女さまは犬に変えられたということです
王子さまたちは沼地で真実の姿を映し出すというラーの鏡を見つけ出し
お城へと向かいました
栄華を誇った美しい城は、見る影もなく荒れ果てていた。
あちこちに残る魔物の爪あとに、放置された兵士たちの遺体。ある物は炭のように焦げた皮膚が弾ぜて赤い肉が覗き、
またある物は魔物の消化液でゼリーのように溶け爛れている。足首を這い登ってくる蛆虫の群れ。
あたり一帯には息がつまるほどの悪臭が満ち、呼吸とともに死者の呪詛が肺腑に浸透してくるかのようだ……
「うげっ……おえぇええぇ!!」
僕は耐え切れずに嘔吐してしまった。生まれてから唯一目にしたことのある死体は花に埋もれ、ヒャド系の魔法で
低温処理されたお祖母さまのものだけだったから。
『死』がこれほどまでに生々しく醜悪なものだったなんて……想像もできなかった。
しかし王子は何も感じていないように、平然と白骨を踏み砕きながら歩いていく。
「なんだ、悪阻か?」
吐瀉物をぬぐう僕を振り返り、王子はそう言ってからかった。
「……貴方の冗談は面白くない」
精一杯の強がりを言いながら、僕は必死に彼のあとを追う。このような状況で、マリア様は果たして無事なのだろうか。
「見ろ、知った顔だろう?」
「あ……」
ある骸の前に立った王子は、にやりと笑って靴先で散らばった骨を蹴った。蛆に食い荒らされた腐肉をまとわりつかせる遺体。
頭蓋骨は何故か見当たらなかったが、ちょうどその部分には見覚えのある王冠が転がっていた。
「…………シメオン、様」
生前の温厚な笑顔が脳裏をよぎる。マリア様の父上にしてムーンブルグの国王、シメオン様は民からの信望も篤い名君だった。
今や生前の面影は微塵も感じられない。
「死は―――美しいな」
「……なんだって?」
一瞬、僕は己の耳を疑った。
「国王にも一介の兵卒にも平等に訪れ、静謐とともに去っていく………あとに残るのは『個』を失った骨だけだ」
「そんなこと………………」
反論しようとして、僕は言葉に詰まった。彼の言っていることは間違いではない。朽ち果てた王の遺骸が纏う豪奢なローブは
何だか滑稽な印象を僕に与えた。
でも。……やっぱり僕にそれを長い間直視することはできなかった。死は不浄のもの、畏れ多いもの―――幼いころから
言い聞かされてきたことを簡単に拭い去るなんて、無理だ。
(でも……王子は、どうなんだ?)
彼の『死』に対する思いは、いつ植えつけられたものなのだろうか。ローレシア王家でそのような教育がなされているとも
思えなかったが……なにか、彼の理念を変えてしまうようなことでもあったのだろうか。僕には尋ねる勇気がなかった。
「さて――月の都に月が昇るまで、王の間で休むとするか」
王子はそう言うと、骨組みばかりになった王の寝台にどっかりと腰を据えた。鼠に食われたのか、細かい骨のかけらがあたりに
散らばっている。
「ここで……夜まで待つのか」
僕は思わずそう聞き返してしまった。彼は正気だろうか。日の高い今でさえこの場に残る只ならぬ空気で胸がつまりそうだと
いうのに……
「ああ。魔物は夜に姿を現すのだろう?そしてマリアも」
「………………………………」
街の者たちに聞いた話を思い出し、僕は唇を噛んだ。謀反人ハーゴンの魔力によって犬に姿を変えられたというマリア様――
さぞかし恐ろしい思いをされていることだろう。
(マリア様を、救ってさしあげなければ)
そう決意する僕の肩を、王子がぐいと引き寄せる。
「あっ」
ふいをつかれてよろめいた僕は、朽ちかけた寝台にどさりと倒れこんだ。
「ヒ……!!」
ひからびた鼠の屍骸が顔に触れそうになって、思わず悲鳴を飲み込む。
「日暮れまで、ここで抱いてやる」
「なにを……!!」
この男はどうかしている――僕は改めてそう思わずにはいられなかった。魔物との戦いを控えているということも、ここが
王の寝室であったということも、そして死者に対する敬意さえ、王子にはお構い無しだというのか。
「いやだ……やめないか!!」
僕は必死に王子を拒んだ。
「何をしおらしい振りをしているんだ。こんなにマンコを濡れ濡れにして」
「うっ、ぃ、いやっ……さわる……なっ……!」
ばたつかせる脚の間に王子は身体を割り込ませ、僕の秘所を手荒にまさぐる。
ぐぷちゅ、といやらしくねばる音がして、膣から流れ出る愛液の感触が自分でも分かった。断じて認めたくない事実だが、
僕の女性は半ば反射的に反応を示すようになってしまっている。
「やだ……やだよっ……!!」
乳首を痛いほどに勃起させ、内腿に愛液を垂らしながら拒否したところでまるで説得力はない。情けなくて涙が溢れた。
「ん?これは何だ?」
濡れた指先をしげしげと見入る王子。僕ははっとして顔をあげた。彼の指にまといつく愛液には、うすく血の色が
混じっている。
「お前……」
「み、見るな!お願い、見ないでください!なんでもないんです!!」
脚を閉じて抵抗を試みるも、男の力はそれを許してくれない。無理無体に大股を開かされ、恥ずかしい部分をじっくりと
観察される。
やがて王子の顔にゆっくり愉しげな笑みが浮かんできた。
「ははあ……そういうことか」
そして彼はやにわに僕の膣へ手を突っ込んだ。
「ひぐっ」
柔らかな肢を持つ巨大蜘蛛のように、僕の胎でうごめく指。やがて王子の指は奥に詰められた薬草玉を探り当てた。
「う、あっ!」
きゅぷっ、と音を立てて粘液まみれのそれが僕の膣から取り出される。同時に、生温い液体がどっと流れ出す感触。
鮮やかな朱色をした月経の血液が僕の内股と寝台をたちまち染めていく。
「体外へ出すべき血を溜めておいては、身体に良くないな」
「うっ…………………………」
恥ずかしさと口惜しさに、僕はただ肩を震わせた。
「道理でこの頃乳房がでかくなってきたと思ったぜ。お前、今まで月経が来ていなかったんだな」
血を吸い込んで膨れた薬草玉を弄びながら王子が笑う。
「ま、これでいつでも孕ませてやれる訳だ」
「………………!!駄目……そんなこと、困ります!!」
ああ、恐れていた通りになってしまった。
「何故困る」
「何故、って……」
僕は絶句してしまった。そんなこと決まっているじゃないか。
「僕は、サマルトリア王家の第一王子なんだよ……許嫁もいるんだ。に、妊娠した姿を、彼女や父様や国民に晒せるわけが
ないでしょう!!わからないの!?」
「分かっていないのはお前のほうだ」
「……え?」
「まだ、城に戻れると思っているとはな」
哀れむように、また嘲るように、彼は僕の頬を撫でる。
「……そんな……僕は……僕は………………」
ち、と小さく舌を鳴らして王子は寝台に寝転んだ。
「馬鹿な奴だな。……まぁいい、よく考えてみな」
そのまますぐに寝息が聞こえ始める。どうやら僕を犯すことはやめたようだ。ほっとすると同時に、じりじりとする熱が
僕の奥を焦がす。
(……ばかな。どうかしてる)
僕は唇を噛んで自分の中の感情を閉じ込めようとした。けれど僕の股間は火照り、ペニスは充血して天を指している。
中途半端に火をつけられた欲望は、行き場を求めて僕の中で暴れていた。
(違う、僕はそんなこと望んでない)
必死に首を振る耳元に、内なる声が囁く。
―なにを体裁ぶっている。お前、本当は力ずくで犯されたかったんだろう?
―子宮があふれるほどに精子を注がれて、孕まされたいんだろう?
「ちがうよ……ちがう………………」
己の肩を抱き、ぽろぽろと涙をこぼす。肉の衝動はいっかな収まってはくれない。
(………………………………………………………………)
僕はためらいながら震える指を自分の乳房に伸ばした。
(んっ……)
ふくらんだ乳首をつまむと、びくりと全身が震える。
父様……母様。こんないけないことをしてしまう僕を、さぞ蔑まれるでしょうね。
(でも……僕、このままじゃ……おかしくなってしまう)
そのまま力をこめると指は簡単に乳房にめりこんだ。自分で触ることなど滅多にないが、驚くほどに柔らかい。
「ふ、うん……」
王子の手つきを思い出しながら、パン生地をこねるように揉みつつ乳首をころがしてみる。もどかしい快感は僕の全身を
支配し、愛液はさらに溢れ出す。
「はぁ……おま●こジンジンする……触りたいよぉ……」
けれど、手枷に遮られて同時に両所を刺激することはできない。朦朧とした視線をあげると、壁に立てかけられた王子の剣が
目にとまった。
(………………………………………………)
熱い息を吐いて寝台に目をやる。王子は背中を向けたまま寝入っている様子だった。僕はこくりと喉を鳴らしながら
そちらへ近づいた。
シースに納められた王子の剣はごつく、まるで彼のペニスそのものを象徴しているかのようだった。
「んん……」
くちゅ。
僕はそっと腰をおとし、陰唇をこすりつける。
「きゃはぁっ……!!」
途端に、雷に打たれたような刺激が背筋を走りぬけた。
「あんっ、はぁ、はうんんっ……!!うそっ……こんな、き、きもちい……」
自然に腰が動いてしまう。ぬるぬるぬちゃぬちゃと淫靡な音をたてて、月経血と愛液が飛び散った。
「はあ、はあ、お、おま●こ……きもちいい……」
淫らに腰を浮かせてペニスの裏側を刺激する。もはやそれは僕にとって巨大なクリトリスに他ならなかった。
「ごめんなさい、ルル、とうさまぁ……!!僕っ……僕ぅ、女の子の部分で
オナニーしちゃってるうっ……
おま●ことおっぱいで感じてゆのぉっ……!!!」
もはや王子の剣は僕の愛液と血でべとべとに濡れ、真赤に染まりあがっている。
(王子が起きたら、ぜったいにしかられる………)
でも、今はなんにも、考えられない。
「ああぁぁん!!王子ぃっ、僕、いっちゃう!!おま●こオナニーで
いっちゃうよおぉぉうぅぅ!!!」
押し殺せない叫びが口から漏れた。
次の瞬間、頬すれすれをかすめて一筋の光が走った。僕のすぐ背後で、腹の底が凍りつくような恐ろしい咆哮が轟いた。
「っ!!??」
じゅるぷっ!
ひざをつく僕の脚の間から、王子が素早く剣を引き抜く。
「ヒッ!!」
……その刺激で、僕はあっけなく達してしまった。
「数が多い、援護しろ」
「っは……はい」
必死に息を整えながら向き直る。低い唸り声と共に、薄闇に光る禍々しい紅がふたつ、四つとみるみるうちに数を増していく。
そのうちの一体には、肩口に王子の投げつけたナイフが突き立っていた。
己の死を受け容れぬ魔狼―アニマルゾンビ。彼らは身構える間もなく僕に向かって飛び掛ってきた。
「うあっ……!!」
身をかがめた僕の頭上すれすれを王子の剣が薙ぐ。切り裂かれた魔狼の前脚から腐汁が雨滴のように降り注いだ。
「ぼやぼやするな!!」
「ご……ごめんなさい」
僕は必死に呪文の詠唱を始める。
『天駆ける龍の嘆き大気を濯ぎ,命育める地の清らな種水とならん―巡れ!!』
緑色の光が魔狼たちを包み込む。次の瞬間、彼等の穴という穴から蛆虫の群れが爆発的な勢いで溢れ出した。
内なる圧力に耐え切れず、彼等の脆い肉体は次々と弾け飛ぶ。
生命力を活性化する『ベホイミ』の呪文は、彼らアンデッドに対してこのような結果をもたらすのだ。まるまると
肥え太った蛆虫達は狼の死体を真っ白に覆いつくし、みちみちと音を立てながら腐肉を貪っている。
「ううっ……」
僕は頭を振って髪の間にもぐりこむ蛆を振り落とした。
「よくやった」
王子はそう言っていきなり僕を抱き上げた。
「あっ……」
そのまま隣室へ運ばれる。そこは王の寝室よりもまだ痛んでおらず、ベッドの天蓋もそのまま残っていた。
王子はシーツの一端を破ると、僕の内腿と下腹部を拭き清めはじめた。
「あ、あの、ズィータ様……」
「あんな盛大に血の匂いを撒き散らせば、魔物を呼んでるようなもんだ」
「っ………………」
頬が燃えるように熱くなった。
「お、起きていたのか…………?」
「邪魔をしては悪いと思ったものでな」
「………………………………!!!」
僕はきゅっと唇を噛み締めた。何も言い訳は出来ない。僕は出来損ないなだけでなく、淫らな肉欲にすぐ負けてしまう
意志薄弱な人間なのだ。
「ひとり遊びをするなら、もっと周りに気を配れ。お前には、子を孕むまで死んでもらっては困るからな」
「ぼ、僕……僕は………うっ……ひぐっ……」
「おいおい、勘弁してくれ。すぐ泣く女は嫌いだぜ」
「僕は女じゃないっ!!!それに、あなたになんて好かれたくないよ!!」
「ああ、はいはいはい」
あくまでも馬鹿にするような口調で、王子は僕の頭をぽんぽんと叩いた。
「ほら、そっちの脚上げな」
シーツの切れ端を器用に僕の腰へあてがう。
「これで少しは外に漏れる匂いを防げる」
「あっ……や、やだよ、こんな格好……」
自分の姿に気付いて、僕は赤面した。まるでおむつをつけられているようだ。
「そのまま用を足してもいいぞ、そうしたら俺が換えてやる」
「誰がそんなことっ………………!!!!」
これじゃ、ますます逃げ出すこともできない。こんな姿、王子だといってどこの誰が信じてくれるだろうか。
「いいからトンヌラ、それより結界を張れ。そろそろ魔物の気配が濃くなってきた。いちいち戦うのも馬鹿らしい」
「…………………………」
僕は黙って聖水を地面に撒き、魔物を退ける結界を張った。王子の言う通り、風に乗って得体の知れぬ唸り声が
そこかしこから聞こえ始める。
日が落ち、魔物たちの目覚める時間となったのだ。
(マリア様は、ほんとうに現れるのだろうか)
僕はまた少し不安に陥った。この城には生きるものの気配がまるで感じられない。全体、いかにすぐれた魔法力を持つ
あの方といえ数知れぬ魔物達の中に放り込まれてひとりきりでどうして無事で居られようものか。
……いや、そんなことは考えちゃいけない。信じるのだ。あの方はマスタードラゴン様のご加護を受けた聖女なのだから。
やがて日はとっぷりと暮れ、廃城を闇の帳が包み込んだ。
「……来た」
それまで黙って風の音に耳を傾けていた王子がふと顔をあげる。僕ははっとしてその視線を追った。
崩れた窓から大広間が見下ろせる。……そこに、悪夢のような光景が広がっていた。
過日大勢の高貴な方々が訪れていた広間は禍々しい魔物たちで埋め尽くされ、優雅な楽の音の代わりに彼らの啼き声が
不協和音を奏でている。
そして、彼等の中央に祀り上げられた主賓は―――
「マリア様っ………………!!!」
僕は思わずそう声をあげた。それは確かに月の都の聖処女、マリア王女に他ならなかった。しかし―――僕の見ているものは
本当に現実なのだろうか?
そこに居るのは、一匹の牝犬だった。
獣の如く地に這い、しなやかな首には皮のベルトが巻かれている。尻から生えた……正確にはアナルに差し込まれた犬の尻尾。
だらりと舌を垂らし
欲情に瞳を潤ませる表情は、既に人間のものではなかった。
魔物たちをかきわけ、ひとりの男が歩み出る。冒涜的なことに、僧侶のような装束の胸には神鳥ラーミアの文様が
描かれていた。
「殿下、ご機嫌は如何に?」
「くぅ……くうん、きゅん、くうん」
王女が豊満な尻を前後左右に振る。アナルに挿入された作り物の尻尾がわさわさと揺れた。彼女の性器は蜜で潤い、
篝火に映えていやらしく光っていた。
「そうですか、肉棒が欲しいのですね?」
「わふんっ!わうわうっ!」
王女は男の言葉にしきりと頷き、涎を流しながらますます激しく尻を振る。
「聞いたな、お前達―――今宵も、この淫らな牝犬を存分に苛んでやるが良い」
魔物達が一斉にざわめく。王女を取り巻く獣の群れはぎらぎらと目を輝かせあさましいほどの怒張を振りたてて
待ちきれぬ唸りをあげていた。
「……、駄目だ……!!!」
結界を飛び出しかける僕の腕を、王子は強く掴んで引きとめた。
「なにをする!?このままじゃマリア様が魔物達の餌食に……」
「もうとっくになっているさ」
「で、でも………………」
だからといって、ただ見ていることなんて出来ない。
「あの数の魔物に突っ込んでいったところで、お前もあいつらの饗宴にあげられるのがオチというものだ」
「それじゃ……どうすればいいんだ!?」
王子はふっと笑って懐からラーの鏡の破片を取り出した。
「……ぁ」
そのとき、僕にはやっと彼の本意が分かった。王子はマリア様を救うためにここへ来たのじゃなかった。むしろ……
「やめて!!そんなことっ………………!!!」
「どけ」
腕にすがる僕を王子は乱暴に押しのけ、頭上に鏡を高く掲げた。冴え渡る銀の月光を反射して、一筋の光が王女の瞳を射る。
『lunatic』を正に帰すもの―――満月の鏡。
狂気に彩られていた彼女の瞳が、すっと清らかな輝きを取り戻す。
「な……いやああああぁぁぁぁぁーーーー!!!???」
痛々しい悲鳴が響き渡った。僕はいたたまれずマリア様から目を逸らす。
「おや、正気に戻られましたか。これは面白い」
「ハーゴン……何故なの?どうしてこんな?」
「お忘れですか?この下等な魔物たちは貴女様の夫ではありませんか。貴女様は毎夜獣のようにこ奴らの肉棒をせがみ、
睦みあい、卑しき子種を受け容れているのではありませんか」
僧服の男は冷たく笑う。
(奴が、ハーゴン……!?)
マスタードラゴン様にお仕えする神官でありながらムーンブルグ王家に弓をひき、邪神復活を目論む大罪人―――
「あああっ……」
王女も己の身に起きている変化を悟ったのだろうか。彼女は男の言葉に反論することなく泣き崩れた。
「さあ、今宵も妻として彼等の欲望を宥めてやってください。皆、もう待ちきれぬようですよ」
ハーゴンの言うとおり、魔物たちはいきり立ったペニスを振るわせてあるものは蹄を踏み鳴らし、あるものは
目をぎらつかせて今にも飛び掛らんばかりの姿勢をとっていた。
「わ、わたくしに罪があるなら償います!!!ですから、それだけは!!」
悲痛な叫びに喉を嗄らす王女。ハーゴンは哀れむような微笑をたたえて彼女の顎をつかんだ。
「滅相もない、殿下……気高き貴女様には何も罪など御座いません。ですからこうしてただひとり命をお救いした上、
至上の快楽を与えてさしあげたのではありませんか」
そして彼は、うやうやしくさえある仕草でマリア様の繊手にくちづけた。そのままの表情で一歩退き、たった一言口を開く。
「やれ」
――ざわ。
広間を埋め尽くす魔物達の群れに、漣のような衝動が走る。
「ひいいぃっ!!!いやああぁぁぁ!!!」
次の瞬間、怒涛の如く押し寄せる発情した雄の群に王女の身体はたちまちのうちに飲み込まれていく。
煌々と照る月光の元、おぞましき宴が始まった。
「いひぃっ!!やめてっ、触らないでェエ!!」
にゅるにゅると幾本もの触手がマリア様の白い肌を這いまわり、粘液にまみれさせる。
「ふごっ!!」
嫌悪に悲鳴をあげた口腔に、別の魔物の怒張が捻じ込まれた。
「むぐぉおおっ!おごぉぉ」
白目を剥き後頭部を仰け反らせて逃れようとする王女。そうこうするうちに触手は彼女の膣へ潜り込み始めている。
「んぉおおぉぉあああぁぁ゛あ゛あ゛あ!!!!」
獣のような叫びをあげながら全身をわななかせるマリア様。美しい顔は鼻水と涙、そして魔物の体液でベトベトに濡れていた。
ボゴォッ!!
潜り込み、膣内で暴れる触手に柔らかな下腹がまるで妊婦のように膨れ上がる。毛むくじゃらの魔獣が身を震わせて
マリア様の口腔内に激しく白濁液をぶちまけた。
「ごぶぉっ!!う、ぐえぇえ!おげえぇっ」
口内を溢れさせてなお精汁は吹き出し続け、清らかな肌を次々と犯し穢していく。
「おやおや、吐いてしまってはいけませんよ。いとしき夫の子種ではありませんか」
冷たい微笑をたたえながら、ハーゴンはゆうゆうとその狂宴を見守る。
また別の魔物が芋虫のように節をもつぶよぶよとした脚をマリア様の性器にねじり込んだ。
「うぎゃあああぁっ!!!やめでえーーーッ!!こ、壊れるゥ!!あそこが壊れてしまいますわ!!!!」
痛々しく押し広げられ、触手の動きにつれて赤い牝肉が裏返る。王女のそこは今にも引きちぎれそうなほどに伸びきっていた。
「あそこ、ではありませんよ。正しくまんこと言いなさい」
あくまで穏やかな口調で囁く邪教の神官。
「そ、そんな……言え……ませ……んおぉぉっ!!!」
ぐぶちゅっ!!にぢゅっ!!
触手はますます王女の産道を広げ、かき回し、汚らしい粘液を垂れ流す。そのうちの一本が膨れ上がったクリトリスに
巻き付き、小さな棘を突き刺した。
「ンオォォオオオオアアァぁああ!!!!!」
ぶうっ!!!ぶびぃいいっ!!
下品で耳障りな音と共に、マリア様のアナルに差し込まれていた犬の尻尾が宙を舞った。
水様の糞便が勢いよく流れ出し、彼女の太腿と割れたタイルにびちゃびちゃと滴り落ちていく。
「なんとまあ、躾の行き届かないクソ犬でしょう」
くっくっと笑いをかみ殺しながら、ハーゴンはこれ見よがしに鼻をつまむ。
王女は全身を激しく痙攣させ、舌を垂らして喘いでいる。
「殿下、おっと間違えた。麗しき満月の都の姫君が下痢グソなどお漏らしになられる筈がありませんね。
……改めて、糞漏らしのエロ犬」
ハーゴンは王女の便を踏んだ靴を横たわった彼女の頬になすりつけた。ぶつぶつの混じった薄茶の粘液が白い頬に筋を引く。
「さあ、お願いしなさい。『自分の性器に子種を注いでください』と、あなた自身の言葉を使って」
「う…ああああぁ………………」
うめくマリア様を急かすように、子宮にまで潜り込んだ触手が大きくうねる。
「ぐぉふっっっ!!やめでぇ!!言いますわ!!!」
叫びすぎてかすれた声でマリア様は懇願した。
「わ……わたくしのッ……わたくしのきたならしい
汚マンコにぃッ、おちんぽ汁をたっぷり注いで、
世にもけがらわしい魔物の赤ん坊を孕ませて
くださいましいぃぃッッ!!!」
「よく言いました」
ハーゴンの言葉と同時に――
ぶぼおおぉぉっ!!!!
「アヒィーーーーーッッ!!!!」
マリア様の膣から、口から、鼻から、胎内を満たして余りある魔物の精汁が凄まじい勢いで溢れ出した。
次いで広間に蠢く魔物たちが一斉に彼女へと欲望の迸りを浴びせかける。王女の肢体はあっという間にクリームの壷にでも
身を浸したかのように白く彩られた。
「美しいお化粧ですな、殿下」
冷たい微笑を湛えて、ハーゴンは王女の上に屈みこむ。だらしなく大股を広げ、下半身をびくびくと震わせながらも―――
マリア様は涙を流していた。
「こ……殺して………………殺して、くださいませ………………」
苦しげな呻きは、やっと聞こえるか聞こえないかの微かなものだった。
「何を仰いますか……貴女の胎内には、数知れぬ夫たちの卵が宿っておられましょう。母としてそれらを世に生み出さず、
死ぬことなど許されませんぞ」
「う……あぁ……あああああああぁぁぁぁああぁぁあ!!!!!!!!!!!!!」
マリア様の嗚咽の声は、ただ闇に響くばかりだった。
僕は―――僕は、初めから終わりまでただ見ていることしかできなかった。
いや、違う。見ているだけじゃない。僕は……あまりに浅ましくも、勃起していたのだ。なんてことなんだ。僕は、
犯されるマリア様を性的興奮とともにただ見ていたなんて。それじゃあの魔物たちのように……いや、魔物たちよりも
卑しいじゃないか!
幸いにも、腰に巻かれた布と僕の小さなペニスのおかげで王子には悟られずに済んだ。僕は卑怯にも、彼を糾弾することで
己の後ろめたさを隠蔽しようとしていた。
「ひ……ひどいよ!!僕たちが鏡なんか持ってこなければ、マリア様は……」
「……何も分からないまま、犬としてバケモノ共の赤ン坊を産まされ続けて来た」
「そ……そう、だけど……でも!!むごすぎるよ!!」
言い終わる前に、王子は僕を抱き寄せて乳房を握った。
「んッ……」
「王家の尊厳を守ってきたあいつに、失われた自我を返してやっただけだ。知らぬままバケモノの玩具として生きる道と――
あの女は、どちらを選ぶかな」
「は………………んん、や、だ……」
敏感になっている乳首に触れられて、僕は小さく喘いだ。
「なんにしても、ムーンブルグ王家は終いだな。あの女の産む『もの』が王位を継げるわけもない」
「………………………………………………………………………………」
わからない。僕には、どちらが彼女にとって良いのかなんて分からない。いや……そもそも『良い』選択肢など、
この場合存在しないのだろう。
「……だが、お前は違う……お前の孕む児は、畏怖とともにこの世を制する」
王子は僕の耳元でかすかにささやいた。それが正しく予言であることなど、その時の僕には分からなかった。
月が西の空へ消えたころ、王女と魔物たちも何処かへと消え去って行った。
おそらくは彼女の命が果てるまで――あの饗宴は続けられることなのだろう。
「ハーゴン……奴は、どこへ………………?」
討つべきは邪教の使徒。あの男がマリア様に加えた所業は、僕の中で奴への嫌悪をいや増しに募らせた。
「邪教の神を祀る……厭わしき蛮族の住む北の大地…………」
王子は謎のような微笑を浮かべて、そう呟いた。
「ロンダルキア大神殿だ」
ラーの鏡で犬にされていた王女を人間に戻した王子様たちは
邪教の神官を追ってさらに旅を続けます
北の果て、ロンダルキアで
一体何が彼らを待ちうけているのでしょうか?