■はじめちゃんのあかちゃん■

 

 私の名前は四菱春(はじめ)。世間ではそれなりに名の知れた家柄に生まれました。

私の家には独特の慣しが伝わっていました。女子は成人するまで、家の外では男子として振舞わなければならないのです。

それは将来然るべき男性に嫁ぐまで、もしもの過ちを未然に防ぐためであったと言い聞かされていました。けれど………私の身に起こったことは、

まさにこの慣しがもとであったのです。ああ、私は何故四菱の家になど生まれて来たのでしょうか。

 

 高校に入学してふた月あまり経った頃からでしょうか、私はクラスの男子のひとり富田鎮と友達になりました。女であることが表れぬよう極力

人と交流を持たないようにしていたのですが、にも関わらず鎮は気さくな調子で私に接してきました。悩み事にも親身になってくれる優しさと

明るい笑顔に、他者と交流をもてない事がやはり寂しかった私はすぐ騙されてしまいました。すっかり彼のことを信用してしまったのです。

 ある放課後、鎮と二人で下校した際に私は公園の手洗いに連れ込まれ、処女を奪われてしまいました。彼はいつからか私の正体に気付いて

いたのです。

誰にも相談することのできない弱みに付け込んで、鎮はそれから毎日毎日私を性の捌け口にしました。登校する前マンションの玄関で

待ち構えていた彼にその場で犯され、中出しした精液が漏れないよう張り型とガムテープで膣穴を塞いで授業を受けさせられたこともありました。

人の来ない旧体育館の用具入れに縛られたまま閉じ込められ、休み時間のたびにくり返しセックスの相手をさせられたこともありました。

私はせめて避妊具を使ってくださいと何度もお願いしたのですが、彼は一度も聞いてくれませんでした。

 

 そして、懼れていたとおり生理がこなくなってしまいました。私は必死で日に日に大きくなっていくお腹を隠しました。クラスの人、先生、

お父様やおじい様、誰に知られても私は終わりです。絶望的な孤独の中、私はどうしていいか分からずただ毎日泣いてばかりいました。

やがて私はお腹の中でぴくぴくと蠢く奇妙な感触に気付きました。

それは胎動でした。

不思議なことに胎動を感じ始めたころから、お腹の赤ちゃんに対する憎しみは消えていました。いつしかそれは私を暴力で

支配する男が撒いた忌まわしい種ではなく、孤独な私を慰めるためにやってきてくれた唯一の存在となっていたのです。

(ここから逃げよう、赤ちゃん………ふたりで一緒に生きていこうね………)

私は身の回りのものと通帳を持ってひとり暮らしていたマンションを逃げ出しました。

 

 ………けれども、どうしてそれを知ったのか鎮は私が乗るべき列車のホームで待ち構えていたのです。

「いけないなあ、無断で欠席したりして。みんな心配しているよ」

彼は笑顔の仮面をかぶり、私の腕を恐ろしい力で捉えて離しません。私はそのまま連れ戻されてしまいました。

「どこへ行く気だったんだ!?あぁ!?」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「学ランにそんなみっともねぇボテ腹で、目立ちまくりだぜ。この馬鹿」

私はマンションのお風呂に連れ込まれ、お腹を何度も何度も蹴られました。必死に庇った腕はすぐに青痣だらけになり、ひどく痛みます。

鎮はそんな私を見てうす笑いを浮かべていました。

 

「なんだよ、オレのガキがそんなに大切か?やっぱりオレの子を

 産みてぇんだろ?オレのチンポ汁溜めてこしらえたガキを

 ガバガバに緩んだマンコからヒリ出してぇんだろ?」

「っ………お、おねがい………あかちゃんを、いじめないで………

 ………………っ」

「この変態マゾ女!毎日ハメてやったチンポがよっぽど気持ち

 良かったんだろ?でなきゃ孕むはずねーだろ」

「………………………………っ」

ちがいます。そう言いたかったけれど、胸が苦しくて唇が動き

ませんでした。私の身体そのものは反応していたかもしれません。

でも、あんなふうにされるのはとても嫌でした。私はいつも性器が

痛くて、つらくて、彼の獣のような吐息と精液の生臭さに

吐き気がして、そしてただただ哀しかったのです。

 

あのまま親友として過ごして、もっと彼のことを知って、そうしたら私は鎮を恋していたかもしれないのに。

――女の身体は、己の意志に関わらず妊娠するように出来ているのです。

どうして男達はそのことを都合のよい事実に捻じ曲げようとするのでしょうか?

「オラッ!!産みたきゃ今すぐにでも産めよ!!!」

「ぎゃああぁぁぁぁっ!!!!!いやああぁぁぁーーーー!!!!!」

鎮が力まかせに私の腹部を踏みにじりました。今までこらえていた痛みが堰を切ったように襲い掛かってきます。子宮が収縮する痛み。

私はとっさに悟りました。

「あ、ああぁああ!!!産まれる!!!あ、赤ちゃんが、産まれちゃうッ………!!!!」

彼は一瞬驚いた顔をしましたが、すぐにげらげらと笑い出しました。

「面白ぇ、本当かよ!?マンコから赤ん坊が出てくるとこなんて見たことねーぜ。デジカメで撮ってやっからよく見せろよ」

「い、いやぁ!!撮らないで……!病院へ………病院へ、連れて、いってっ………!!!」

私のお腹の子はまだ三十二週ほど、生まれるには少し早い状態でした。

「何言ってんだ、バレるとまずいんだろ?ここで産めよ」

「そんな………っ!!い、痛い!!痛い痛いいぃぃッッ!!!!」

鎮は私をお風呂場に閉じ込めてどこかに行ってしまいました。陣痛に朦朧としながら、私は無意識にお腹をまさぐっていました。先ほどから

ほとんど動きも感じられません。

(赤ちゃん………死なないで、おねがい、おねがい)

私は祈るような気持ちで、おばあ様に聞かされた子守唄の一節を小声で歌いました。

 どれほどの時間、痛みと戦っていたのでしょう?波のように寄せては引く陣痛をこらえ蛇口に直接口をつけて水を飲んでいるとき、突然私の

膣からおしっこのように生暖かい液体が吹き出てきました。産道をぐいぐいと巨大なものが降りてくる感覚。

「うあぁぁぁああっ!!!!!まんこ裂けるぅーーーーー!!!!」

混乱した頭で、破水したのだと理解もできなかった私はそのまま陣痛に苦しみ続け、やがて赤ちゃんの頭が降りてきたときにようやくショーツを

つけたままだったことに気付きました。フラッシュの光に見上げるといつの間にか戻ってきた鎮がニヤニヤ笑いながらシャッターを何度も

切っています。でも、今はもうそんなことはどうでもかまいません。私は無我夢中で下半身裸になり、大股開きのポーズで息みました。

「くっ………んうぅぅぅぅううっっ………!!!!!」

ブリリィッ!!ビィッ!!!

恥ずかしい音がお風呂場じゅうに響き渡りました。つよく息んだ拍子に、私は思わずうんちを漏らしてしまったのです。

「げぇ、汚ねっ!クソ垂れてやがんの!!」

鎮はこれ見よがしに眉をひそめ、鼻をつまんで見せます。恥ずかしくて恥ずかしくて、でも、今息みを止めるわけにもいきません。

私はなおもお尻から漏れだす生暖かい感触を無視しようとしながら、産まれてくる赤ちゃんのことだけを考えていました。

「すっげぇ、伸びきったマンコから赤ん坊の頭がハミ出てやがる。エロいっつーかグロい眺めだぜ。みっともねえなあ…ケツがクソまみれだ」

「うっ………見ない………で…………………………」

再び強い収縮があり、ずるりと胎児が滑り出すのがわかりました。灼けつくような感覚に、膣が裂けてしまうのではないかと思うほど広がって---

「あーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!産まれるよおぉぉぉぉ!!!!!!」

びしゃっ!!!!ぶじゅじゅぷっ!!!!!!

粘液と血とをしぶかせて、巨大な肉の塊がすっかり産道を通り抜けました。

………同時に、猫の子のように甲高く奇妙にしわがれた鳴き声が私の股間からあがりました。

「はぁ………はぁ………はぁ………」

息を整えながら身体を起こすと、そこに私のあかちゃんがいました。

小さくて、真赤で、しわしわで、冷たいタイルをいやがるように大きな声で泣き叫んでいます。

「ああ………生きてるんだ………良かった、あかちゃん………」

私は赤ちゃんをそっと抱き上げました。たよりない軽さと濡れたにおいが強くします。鎮は私のおまんこから垂れたへその緒や、赤ちゃんを

抱いた私、出産の痕跡を何枚も写真に撮っていました。

「これだけありゃ充分だ。ヘヘ………会長の孫娘が高校生でガキを出産した、なんてな。さぞかしオヤジも喜んでくれるだろうよ」

「………………………え………………………?」

私は薄笑いを浮かべる鎮の顔を見上げました。

「お前、本っ当に気がつかなかったのか?心底馬鹿なんだな。四菱のお嬢様」

その表情は――ライバル会社である富田工業の社長に、瓜二つだったのです………。

 

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