むかし、ある街に姜鈴という歌うたいの娘がおりました
姜鈴はうつくしく、とても気立てのよい娘で誰からも好かれていました

あるとき姜鈴は裕福な農家のひとり息子に見初められ、嫁女にと望まれました
つきあいを重ね彼のりっぱな人柄を知るうち、姜鈴も若者を愛するようになっていきました

やがて二人は大勢の友人達に祝福されて婚礼の式を挙げました

ところが、お婿さんの母親はこれを快く思っていませんでした
家柄もない歌うたいの娘を娶ることなど、とても考えられなかったのです

息子が仕事で旅に出ることになり、機会を伺っていた姑はここぞとばかりに
喜びました

「姜鈴や、いままでつらく当たってすまなかったね。今日は一緒に都の市場へ
 行こうじゃないか。おまえによく似合う着物を買ってあげるよ」
「ありがとうございます、おかあさま」
珍しい姑の優し気な表情に、姜鈴は嬉しくなって頷きました

姑は姜鈴をだるま屋の男達に売り渡していたのでした

男達は姜鈴をさびしい場所に連れて行き、両手両足を切り落としてしまいました

姜鈴は傷が癒えるまでひどい匂いのする家畜の檻にとじこめられました

どうしてこんなことになったのだろう
夫のところに帰りたい

姜鈴はそう思って泣いてばかりいました

しばらくするうち、彼女のお腹はすこしづつふくらんできました
お婿さんの赤ちゃんをみごもっていたのです
それに気がついてから、姜鈴は泣かなくなりました

おかあさんが泣いていたら坊やが心配するでしょう

姜鈴は赤ちゃんのために毎晩子守唄をうたってあげました

様子を見に来た姑は姜鈴の子守唄を耳にして苛立ちました
きっともう気がふれてみっともない姿をさらしていることと思っていたのです
しかし姜鈴の歌声は相変わらず綺麗で、荒くれた人買いの男達も思わず聞き惚れて
しまうほどでした

「ええ、いまいましい。その声で息子をたぶらかしたのだね」

姑はお裁縫につかう裁ちばさみで、姜鈴の舌を切り落としてしまいました

腹の収まらない姑は、つぎに姜鈴の目だまを匙でくりぬいてしまいました

「ざまあごらん、これであんたは産まれる子供の顔を見ることもできないんだよ」

姑は姜鈴を豚小屋へほうりこみました
治りかけた傷口に、蛆がいっせいにたかります

「さあ、この売女!糞まみれになりながら大股おっ広げて赤ん坊ひり出すところ
 しっかり皆さんに見ておもらいよ!!」

「うわぁ、ガキがデカ過ぎるんだな。綺麗なマンコなのに裂けちまってらあ」
「見ろ見ろ、クソをぶりぶり漏らしてやがるぜ。恥知らずのメス豚がよ」

何人もの男達がまわりを囲んでげらげらと笑っているのが聞こえました
けれども姜鈴にはどうすることもできません
ただただ、赤ちゃんが無事に産まれてくれるよう祈るだけでした

やがて姜鈴は元気な赤ちゃんの産声を聞きました
赤ちゃんはお婿さんにそっくりのかしこそうな坊やでした
よごれた藁のなかを這い、みじかい上腕で赤ちゃんをしっかりと抱き寄せます
赤ちゃんは本能的に姜鈴のお乳を口にふくんでちゅうちゅうと吸いはじめました

---このこがいてくれれば、わたしはだいじょうぶ。

しかし、姑は産まれた男の子を姜鈴から奪いとってしまいました姜鈴はにくくても、やはり初めての孫はかわいかったのです

「家出をした姜鈴が見つかったが、病気で死んでしまった
 この子だけは助かった」

姑はそう言って赤ちゃんをつれ帰り、見せ物小屋のあるじに
姜鈴を売り飛ばしてしまいました

(坊や、わたしの坊や、どこへ行ってしまったの)

姜鈴は出ない声を振り絞り、わが子を求めて泣き叫びました

 

◆ ◆ ◆

それから五年ほどの月日が流れ
姑はちょっとした病がもとでひょっくりと亡くなってしまいました
死の床で姑は息子を呼び寄せて言いました

「実はね、姜鈴は生きているんだよ。だが、おまえの想像もつかないようにみにくい姿になっているだろうよ」

それはせめてもの罪滅ぼしだったのでしょうか、それとも自分にさからって歌うたいの娘を嫁にとった息子への面当てだったのでしょうか

それからお婿さんは手をつくして姜鈴を探しましたが、何しろ雲をつかむような話で
行方はようようとしてわかりませんでした

ある日お婿さんは成長したむすこをお祭りにつれていってやりました
ふと、いつもは気にもとめない見世物を見てみようかという気持ちになり
おどろおどろしい人魚の看板のある小屋に入りました

舞台にあがった人魚を見て、お婿さんは目をうたがいました
腕と脚のかわりにつくりもののひれ
青いガラスの入れ目をされたその顔は、しかし、いなくなった妻そのものでは
ありませんか

その時人魚が歌い出しました
喉の奥で、小鳥や猫の子のように幽かな声で
それはお婿さんのよく知っている、姜鈴が彼のためだけにつくった旋律でした

 

 

 

お婿さんは舞台にかけあがり、盲いた人魚をつよくつよく抱き締めました。

 

 

 

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