わたしはお兄ちゃんが大好きでした

お兄ちゃんと二人なら

どんなことだってつらくありませんでした

 

 

おかあさんがどうしてわたし達をぶつのか

わたし達をきらうのか

わたしにはわかりません

「赤ん坊なんか欲しくなかったのに」

おかあさんはお酒をのむときまってそう言います

わたしとお兄ちゃんは、いらない命だったのでしょうか

 

 

わたしのご飯ののこりだけではたりなくて

お兄ちゃんはだんだんやせて

ふとんから起き上がれなくなりました

わたしはしかたなくコンビニにでかけて

たべものをぬすみました

 

 

でも、それはすぐにみつかってしまいました

お店の人はやさしくしてくれましたが

おうちに帰っておかあさんになんどもなんどもおなかをけられました

わたしはそのあととてもおなかがいたくなって

おてあらいに立ったら

あそこからたくさん血がでてきて

…そうして、わたしは

おなかにお兄ちゃんのあかちゃんがいたことと

あかちゃんが死んでしまったことを知りました

うそでしょう?

うそだよね?

おなかのなかに戻せばきっとまだ助かるよ

死なないで

死なないで

わたしのあかちゃん

あかちゃんがでてこないように

わたしはおさいほうの道具であそこを縫いました

もう、だいじょうぶだよね

お兄ちゃん

わたしたちのあかちゃんが生まれるの

そうしたらこのおうちを出て

さんにんで暮らそうね?

わたし 

あかちゃんをたくさんかわいがって

だいじにだいじに育てるよ

だって わたし おかあさんになるんだもの

 

 

 

もう一週間も お兄ちゃんは目をさましません

なまえをよんでも

からだをゆすっても

けさ、からだをふいてあげようとしたら

ずるりとお肉がはがれて

しろい骨が見えました

 

 

 

「…おにいちゃん…?」

 

 

お兄ちゃんは、きっと、びょうきなんだ

 

 

あかちゃんを見せてあげる

だから元気になって

ずっと縫い付けていたので

わたしのあそこはお肉がくっついてかたまっていました

わたしはカッターをつかってきれめをいれて

おなかにちからをいれました

 

ぶしゅっ

 

はいいろでぐしゃぐしゃしたものと

たくさんのうじ虫が

わたしのあそこからながれでてきました

 

あかちゃん?

どこへいっちゃったの?

お兄ちゃんはねたきりで ずっとお外に出られなかったから

けしきを見せてあげる

やくそくしたよね

さんにんで暮らそうって

 

 

わたしはからのペットボトルをひろってきて

とろけたあかちゃんのからだと

お兄ちゃんのめだまをなかにいれました

これがわたしの たいせつなもの

たいせつな

たいせつな家族です

 

わたしたちさんにんはおうちを出て

それから、二度とおかあさんのところへはかえりませんでした

 

 

 

 

そのころ僕たちは専門学校を出たばかりで、将来のこともまだ漠然としか考えていなかった。

妊娠したらしいと彼女に聞かされた時、正直言って僕は少しばかり困惑していた。

彼女への想いに偽りはなかったが、手放しに喜べるほど現実は易くなかったのだ。

僕は彼女の両親に同棲しているということさえ未だ報告できずにいたし、彼女は彼女で

自分の肉体にある先天的な問題をひどく気にしていた。

ある陰鬱な選択肢の可能性を嫌でも考えずにはいられなかった頃−−−僕らはあの少女に出会った。

 

その子はブランコに座っていた彼女に人なつこい顔で笑いかけ、ひどく慎重に

腹部に手をのばしてきた。

「おねえちゃん、おめでとう」

一瞬何を言われたのか分からず僕らは首を傾げた 。彼女の腹にまだ目立った膨らみはなく

子供のいることなど傍目には分からなかったからだ。

しかしその少女は確かに言った。

「元気なあかちゃんが生まれるといいね」

そうして、彼女はにっこり笑うと呆気にとられている僕たちに手を振りながら駆けて行った。

トレーナーのお腹に、なにか瓶のようなものを大切に抱えたまま。

 

 

彼女の妊娠していることが何故知れたのかはわからない。

…だが、僕らはとにもかくにも様々な問題を乗り越えて結婚することができた。

今では彼女と生まれた子供とともに、ささやかながらもそれなりに幸せな家庭で暮らしている。

あの少女のひとことがなければ、今の僕らはなかったかもしれない。

今でも僕は時折少女の屈託ない笑顔を思い出しては不思議な気持ちになる。

彼女は僕たちに道を示すために現れた天使だったのかもしれない。

 

それから僕たちがあの少女に会うことは、二度となかった。

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