フリル誕生日記念SS


  はじめに

 フリル様、あんまり出番無くてゴメンナサイ・・・orz
 え? いい加減送りすぎですか?
 ・・・そうですか。



「・・・じゃあ、出かけてくる」
「はい。戻ってきた頃には準備も出来ていると思いますから」
 エナに外出の旨を告げ、フリルは道路を歩く。
 設定(とか言うとアレか・・・orz)では、前回のテレア誕生日同様、主役はゆっくり過ごすのがデフォルトになっている。
 だから、フリルは皆の働いている中、ジャマにならないようにその辺りを散歩に歩くことにしたのだ。
 今回は、今までとは違う。
 今までは悪戦苦闘・・・主に、調理方面に・・・だったのだが、今回は料理の出来るレリスが居る。
 そして、誕生日毎に呼ばれるいつものメンツは・・・まあ、その内に来るであろう。
 とにかく、今回はまた違った日を迎えるのだ。
 そんなことを考えつつ歩き出し・・・やがて、右へ曲がると遊歩道へと出る。
 そこを真っ直ぐ行けば、公園に着くのだが・・・、
「・・・?」
 ふと、その途中の道の間に、見慣れない道が出来ていた。
 それだけなら、さして気にしなかっただろう。
 しかし、その道路の入る所・・・
「・・・ナナ?」
 そう・・・かつてフリルを中心に騒がせたネコと、全く酷似したネコが居たのだ。
 ナナ。今では、家に『ポチ』が居るから、如何せん前のような思いとは別ではあった。
 ・・・しかし、でもそこに居るは、やはりナナ『かも』しれないのだ。
「・・・あっ・・・」
 そんなことを考えて、見つめていたら、向こうもフリルをじーっと見つめた後、ぱっと通路の中へ行ってしまった。
「・・っ!! 待って!!」
 それに弾かれたように、フリルはネコを追いかける。
 ただ、思わずだ。思わず、追いかけた。
 その刹那だった。
 グニャリ。と、フリルの視覚が歪んだのは。
 ・・・まるで、何かに飲み込まれるかのように・・・
「・・・あ」
 思い返し、揺れる意識の中で来た道を引き返す。
 ・・・ここは、マズイ所だ。
 しかし、その道路は引き返すフリルを、戻すどころか、別の所へと導いてしまう。
「助け・・・!!」
 誰でも良いから、一縷の可能性に賭け、その意識が完全に飲み込まれる前に、フリルは願い、呟いた。


 ・・・『刻の次元回廊』。
 それは、次元の狭間に起こる『普段は有るはずのない空間』。
 対象者には、過去の印象にある物品を次元に垣間見せ、事後へと高確立で誘発させる。
 刻の次元回廊へ入った者は、いずれかの『他世界』・・・言うなれば、次元管轄・・・へと、たどり着く。
 この際に引き起こそうとした事象は、時の狭間に残留されるため、表の事象に繋がりは弱く。
 飲み込まれ、他世界に吐き出されるだけに留まるケースが多い。


「・・・!!」
 エナが一つ息を呑み、硬直する。
「あっ・・・(汗」
 と同時に、ガシャン!! と、手に持っていた皿が落下し、粉々に砕け散った。
「え、エナさん!!? ・・・大丈夫ですか?」
 レリスは駆け寄り、皿が炸裂した現場から、ボーっと割れた皿を見つめるエナを遠ざけた。
 ・・・落として割れたのは、フリルが使っていたシリアル皿である。
「大きい破片は拾いますから・・・あ、テレアちゃん。直に持つと危ないわ。箒で掃いて下さいな」
「あ・・うん」
 テレアは箒を取りに、台所から出る。
 比較的大きめの破片をレリスは拾いつつ・・・あいかわらずぼーっと立つエナの挙動を不思議に思った。
「エナ・・さん? どうしたの? 顔色が悪いわ」
「・・・ぁ・・・。あの・・・今、思念が・・・」
「思念・・・?」
 レリスが不思議そうな・・・決してバカにしているワケではない・・・顔で、エナを見つめる。
(・・・『助け』? 助けてという事でしょうか・・・でも、誰が?)
 思念が送られてきたと言うことは、少なくとも相手は自分のことを知っているということだ。
 だが、中途半端に弱々しい・・・まるで、他意的に切断されたかの様な思念では、誰のものであるか判断することは難しい。
 指を顎に当て、考えるように地面を向く・・・
「あっ!!」
 そこで、気付いた。
 今、判らない事象を考える前に、まずは割れた皿を片づけなければいけない事に。
「? エナさん。どうしました?」
「あ、いえ・・。ごめんなさい。気のせいです」
 心配するレリスにそう告げて、エナも皿を拾う。
「あ・・痛っ・・・!!」
 破片の一つに触れた時、不注意のためか、破片が刺さる。
 幸い、傷の出来る程ではなかったが・・・顔色の優れないエナの安否を伺うようにレリスはエナに提案をした。
「・・・エナさん。少し気晴らししてきては如何ですか?」
「・・・そうですね。では、そろそろエナさん(茶)達が来る頃ですから、迎えに行ってきます」
「ええ。行ってらっしゃいな」
 箒を取りに行ったテレアが戻ると、その入れ違いにエナは外へ向かった。
「あれ・・エナお姉ちゃん。出かけるの?」
「ええ。エナさん(茶)達を迎えに行ってきます」
「うん。気を付けてね」


「・・・・ん」
 柔らかな日射しが入り、フリルはゆっくりと目を覚ます。
「・・・?」
 長い時間は寝ていない。それは確かである。
 そこは、広場・・・公園にも、似たような場所があった気がする。
 知らないウチに、公園に着いたのだろうか・・・とも考えた。
 だが、その考えはすぐにフリル自身が否定する。
 広場の一角に、『あるはずのない』ものを見て、ここは違う場所だとフリルは確信したのだ。
「んじゃ、じーちゃん。確かに納品したからな」
「いつも悪いのぉー。しっかし今年のは良作じゃて」
「おう。リンゴはいつもより熟れてるからな。フィースじゃバカ売れだろうさ」
「お主も早く身を固めんかい」
「じーちゃん・・・よけーなおせわって言葉も知るべきだな・・・んじゃ、行ってくるぜ」
 話していた青年は馬車に乗り、馬を走らせる。
 相手の居なくなった老人は、そのまま家へと入っていった。
 この二人だけではない。疎らにだが、確かに人が過ごしている。
 此処にいる人の会話。
 馬車に、舗装されていない道路。
 ・・・そしてなにより、物語の中でしか知らなかった『剣』や『弓』を、皆が下げていると言うこと。
 明らかに、自分の居た世界とは、別の世界。
「・・・どこ、ここ・・・」
 思わず、ぽつりとフリルは呟いた。
 頬を摘んでみるが・・・残念なことに、感覚がある。
「どうしよう・・・」
 ここで、一人。
 誰に頼ればいいのかも、誰が助けてくれるかも判らない。
 不安は不安な心を呼び、フリルの心に暗い影を落としていく。
 途方に暮れ、力無く広場のベンチに背を預けた・・・その背後から、
「どうしたの? それに・・・あなた、異界の空気がする」
「!!」
 いきなり声を掛けられ、バッと距離を取る。
 その際、相手を見るために対面したが、その姿は別段警戒する必要も無かった。
「あ、警戒しなくても良いよ。わたし、そう言うことが判る人だから」
 そう言う『少女』は、鮮やかなピンク色の髪を後ろでポニーテールにして結っている娘だった。
 話し方も明るく和やかだが・・・その真っ直ぐな瞳に、
(悪い人じゃ・・・無い)
 と、判断した。
「・・・何?」
 警戒を解いて、ゆっくりと近づき、言葉を返す。
「えーっと・・・まあ、とりあえずわたしは、キミの様な人たちの仲間だから。・・・あ、わたしの名前はミロリーナ・ルグラン。ミリーって呼んで」
「・・・ロリ?」
「わたし、そんなにロリっぽく見える?」
「・・・(ふるふる)」
 会話と共に、徐々に警戒心を解いていき・・・どっちにしろ、事情を判りそうなのは、ミリーしか居ないのだ・・・話しをする。
「・・・フリル。フリル・フルリル」
「うん。よろしくね、フリルちゃん」


「エナさん!!!」
「あ・・エナさん」
 玄関を出て、駅に向かう途中・・・思ったよりも早い時間なのに、慌てて走るエナ(茶)を発見した。
 エナの前で一度立ち止まり、肩で息をしながら呼吸を整える。
「あれ・・・? ユナちゃんはどうしたんですか?」
「あ、後から来ます・・・ところで、エナさん。フリルちゃんは!!」
「え・・? 散歩に出かけましたけど」
 エナ(茶)は、エナからその答えを聞いた後、一度しまったという顔をして、走り出した。
 そして、エナが来た道を戻る彼女と共に走りつつ、事を告げる。
「と、とにかく、まずはコレを聞いて下さい!!」
 ・・・そして渡されたのは、一つのデジタル録音機だった。
 ・・・
 ・・
 ・
 数十分前。
「いやぁ〜。お姉ちゃん。やっと着いたね」
「そうね。プレゼントも用意しましたし、フリルちゃんも喜んでくれるはずね」
 駅を出て、ユナと話しながら歩いていると、前から男の子がやってきた。
 何気ない男の子だったが、エナ(茶)の姿を見つけると、
「あ!! 居た居た!! おーい!! そこの茶ポニテのねーちゃん!!」
「え?」
 そう声を上げ、駆け寄ってきた。
 もちろん、エナ(茶)もユナも初めて見る顔である。
 不思議そうに顔を見合わせる二人を意に介さず、男の子は
「なんか、さっきハネッ毛のにーちゃんから茶ポニテのねーちゃんにコレ渡すように頼まれてさ。んじゃね」
 と、用件だけを告げて、物を渡し、去ってしまった。
 それは、『ハッピーバースディ』と書かれた文字と、5800円ほどで買える、デジタル録音機。
 不思議に思いつつも、イヤフォンを付け、何気なく再生した刹那、エナ(茶)の顔色がサァっと変わった。

『助け・・・!!』

 ボヤンボヤンとエコーが掛かったように言葉が響く。
 しかし、紛れもなく、その声はフリルの物であった。
「そんな・・・!!」
「? なに、お姉ちゃん。どうしたの?」
 疑問を投げかけるユナに、エナ(茶)は、荷物を渡す。
 と言っても、フリルへのプレゼントや、他は小物ばかりだ。大した重さではないが。
 それでも、ユナへ荷物を渡し、
「先に行くわね!!」
「え、ちょ・・おねーちゃん!!? ていうか、あたしの出番これだけ!?」
 ・・・
 ・・
 ・
「フリルちゃん・・・」
「とりあえず、コイサンさんに相談してみましょう・・・だから、エナさん。急ぎましょう」
「あ、は、はい!!」
 エナは今来た道を走り戻り、ただ願う。
 ・・・願う事で、救われるワケではないが、それでも、願っていた。


「そっか・・・自分で来た訳じゃなくて、こっちの世界に流されちゃったのね」
「・・・うん」
 よく言えば純朴な・・・悪く言えば、簡素な彼女の家で、事のあらましを話す。
 散歩に出かけ、変な道に入った事。
 中で意識が揺れ、戻ろうとした事。
 そしたら、ここに着いた事を。
 その後、目を閉じて反芻し、ミリーはフリルにこう告げた。
「ごめんなさい。ちょっと、用事があるから待っててね」
 そして、外へ出ていく。
 窓から覗いて、外での彼女の挙動は、誰かを捜すものであったが・・・それが誰かなどは、フリルに検討付くワケがない。
 言われたとおり、窓から視線を逸らし、お茶でも飲みながら休む。
 一度に色々起こり、頭がこんがらがっているのだ。
 息を付いて、机に突っ伏す・・・その時
「・・・・っ!!」
 ガバッと起きあがり、感覚を研ぎ澄ます。
 突然。フリルは感じたのだ。
「・・・エナっち・・・?」
 それは、魔力の波動である。
 魔力の波動は、言うなれば指紋のようなモノで、個々人によって使い方も違えば発し方も違う。
 感じたそれは、エナに酷似したモノである・・・否。『天使』の『魔力』という特殊な波動は、それだけ似る物は少ない。
 もはや偶然の産物でない限り、確定と言えなくはない。
「・・・場所は」
 南側。森の方である。
 ミリーには「待っていて」と言われたが、これはいわゆる一つの帰るチャンスなのだ。
 心の中で、一つお礼を言って、フリルは森の方へと向かっていった。


「コレはどう言うことですか!! あなたって人は誕生日誕生日に事件を誘発させてぇぇぇぇ!!」
 コイサンの元に駆け寄ったエナが放った第一声は、上のモノである。
 と言うのも、エナの考えでは、『原点』を作り出したコイサンが今回の事件を起こしていると想定したからだ。
 しかし、その言葉にコイサンは素で返す。
「知るか。第一、今回の件にはオレは関与していない」
「どう言うことか、聞かせて貰えますか?」
 エナ(茶)の真剣な言葉に、コイサンは頷いて答えた。
「お前達は・・・まあ、言い方が悪いが、オレによって作られた・・・それは判っているな?」
「それがどうしたんですか?」
「まあ聞け。でだ・・・だからと言って、イコールその後の事件や事柄全てにオレは関与しているかと言えばそうじゃない。むしろ、オレの知らない間に起こった事件とかもあったろ? テレアが二人になっちまったときとか」
「あ・・・た、確かにそうです」
「ええ・・・確かに、その同時期をコイサンさんが作ったなら、『知らない』ことは矛盾になります・・・」
 エナ(茶)の言葉に、コイサンは一つ頷いて、再び言葉を紡いだ。
「加えて言えば、オリジナルからは個々人の世界が二次創作という形で繰り広げられる・・・それが、創作次元管轄の中の物語となる。これも、『一つの起こり得る可能性』であると同時に、『確かに起こっている事』なんだ」
「う・・・なんだか、コイサンの発言が私の理解の範疇を超えて居るんですけど・・・」
「つまり、簡略的に言えば、今回の件についてコイサンさんは全く関与していないと言うわけですね?」
「そうだ。だから、コレについてオレに言われても困る。むしろ、この現状のオレ自身も操られているって感じで違和感があるんだから」
「その辺りは・・・・わかったようで、判らないような・・・ですね」
「じゃあ・・フリルちゃんはどうなるんですか!?」
 焦るエナに、コイサンは一つ息をつき、
「フリルは公園に散歩に行ったんだろ? だったら、その途中のハズだろうが。生憎とオレの出る幕じゃないみたいだから、ここで吉報を待たせて貰うわ」
「あ・・・い、急ぎましょう!! エナさん!!」
「は、はい!!」
 急いで部屋を出て、外へ飛び出し、公園への道のりを散策する。
 何かが起こった。そこへ向かって。


 キンッ・・・
 と、森の少し奥で金属音が響いた。
「・・・?」
 エナの魔力波動もその辺りから来ている。
 もしかしたらと思い、駆け寄った。
 ・・・が。
「あ・・」
 そこは、ある種トラウマになり兼ねない空間が広がっていた。
 多量の魔物・・・と呼ばれるであろう、見たことのない、思わず目を逸らしたくなるような醜態の生物と、
 そして、その真ん中には、この夏のような温度には似つかわしくない、黒コートを着た剣士の青年。
「え・・?」
 それが、襲い来る魔物を斬っては倒し、斬っては倒している。
 いや・・・正確には、斬っては倒した『かもしれない』。
 襲い来る魔物を効率よく仕留めている・・・それも、剣が見えないほどの速さで・・・為に、攻撃を本当にしかけているのか。答える自信はない。
 倒された魔物は、無へと帰するのだが、フリルには、ただ魔物が「消えている」と言う風に映っている。
「ふっ・・」
 一つ息を付く。静の姿勢をワンテンポ取り、そしてまた、素速い動。
 群がる魔物は、着実に数が減り、まるで避けることを前提にしているかのような、意味のない攻撃を下す。
 そして、また一つ消える。
 ・・・フリルは、この世のものと信じられない光景に一歩後ずさり、
(!!?)
 カサリと草音を立ててしまった。
 それが、黒コートが疎かにしていた外側の魔物の一匹に、フリルの気配を気付かせた。
「・・・あ・・!!」
 何というか、ピンチまみれである。
 逃げようとするも、恐怖で身体が凍り付いてしまう。
「・・あっ・・あ・・・」
 たぶん、これ以上最悪の誕生日は無いだろう。
 知らない世界に飛ばされ、あまつさえ、その世界で死にかける。
 襲い来る魔物から頭を庇うように、両腕で頭を抱えたが・・・刹那。
 ザンッ・・!! と鋭い、斬切音。
「・・・え?」
 フリルが顔を上げると、そこにはいつの間にか、黒コートの姿。
 フリルを庇うように背を向け、剣を一閃した残心。
 それが、剣で魔物を薙いでいた。
 斬られた魔物は地につき、フッ・・・と消える。
「あ・・・」
 フリルは、顔を上げる。
 ・・・黒コートが、こちらを見ている。
 魔物の姿は、もう無い。
 あれだけの数の魔物を・・・しかも、フリルに迫る魔物の速度も、尋常では無かった・・・、しかも、一人で倒すような人間だ。
 何をされるかも判らない。
 ・・・・そして、その男は、すっと手を伸ばしてきた。
「・・!!」
 ビックリし、首をすくめる。
 しかし、黒コートの言った言葉は、
「大丈夫か?」
 であった。
 続けて、
「驚かせて済まなかった。まさかこんな場所に人が来るとは・・・」
 ふぅっ・・・と、黒コートは一つため息を吐く。
 なんというか・・・それが、妙に似合っていて、和ませる。
「さって・・・立てるか?」
 すっと、もう一度手をさしのべられる。
 その言葉に、頷き返そうとした・・・その刹那。
「フリルちゃん!!」


 探して、公園近くの遊歩道まで来た。
 ・・・そして、そこに、明らかに無かったはずの道。・・・・刻の次元回廊。
「エナさん!!」
 エナが、エナ(茶)を呼ぶ。
 一方のエナ(茶)は、呼びかけに頷きつつも、緊張した表情で道路を見た。
「この道路・・・他とは違います。何というか・・・私が持っている、ペンダントの力みたいな・・・」
「ええ・・・なんというか、判りますね。『普通』とは違うことが」
 頷き合うも、出来ることなど限られている。
 エナ(茶)の発言・・・「ペンダントの力みたいな」。それは即ち、空間転移能力の事である。
 その発言から、刻の次元回廊をエナが分析し、フリルの飛ばされた場所を直ちに探知する。
 もちろん。『分析』と言っても魔力の流れから他世界へのコンタクトを見切る事であって、刻の次元回廊の仕組み自体を知ることが目的ではないし、今は必要もない。
 シフト間移動・・・パラレルへの転移などというのは、そうそう起こる事ではない・・・ごく最近の、つまり濃い流れを探ればいいのだ。
 ただし、面倒な方法を取れば、確実にコネクト出来るが、それだけで軽く5〜6時間は掛かってしまう。
 だから、端折れる部分はカットし・・・ただし、成功率が薄れるので、出来るだけ丁寧に・・・行う。
「・・・判りました」
 開始から20分。エナが呟く。
「本当ですか・・・!」
「ええ。後は、エナさんのペンダントでお願いしますね。・・・あと、この道路は危険ですので、封印します」
 エナが、道路へ手をかざし、祈ると、道路は消え、ただの壁となった。
 これで、誰かが時の次元回廊へ迷い込むことはない・・・少なくとも、『封印が解けない限り』『この道路からは』。
「・・・じゃあ、行きましょう」
「はい!!」
 エナ(茶)がペンダントの能力を開放し、二人は空間を超え、フリルの元へと赴く。
 空間が見え、色が宿り、音が映る。そして、次元の狭間からそこへ出る。
「フリルちゃん!!」
 そこにたどり着いた刹那、エナは『ソレ』からフリルを離し、距離を取った。


 黒コートも、いきなりの事象にバッと距離を取った。
「あなた!! 今、フリルちゃんに何をしようとしたんですか!!」
 エナは、明らかに怪しい黒コートに、フリルを庇いながら言う。
「返答によってはタダでは返せませんよ・・・」
 そして、エナ(茶)は、あくまで冷静に。
 エナは印を踏み、いつでも魔法を放てる体勢を取り。
 そして、エナ(茶)は長刀を構え、隙を探っている。
 それも仕方の無い事だろう。あの底冷えするようなメッセージは、助けを求めるものだったのだ。
 助けを求めたフリルの前に、怪しい黒コートの男が居たら、警戒しないヤツも変だ。
 で。その二人に、黒コートはポツリと言った。
「別に・・・」
「別に? 何の理由もなくフリルちゃんに手を出したんですか」
「フリルちゃんは助けを求めていました。その原因では無い証拠を見せて下さい」
 二人の言葉に怯まず、黒コートは「ふっ・・・」と払い笑う。
 現状は・・まさに、一触即発の事態である。その中で、払い笑う余裕。
 フリルは、現状を説明しようとしたが、それが出来る空気でもなく、張りつめた緊張に言葉を発すことが出来ない。
 黒コートは、その事情の中で、二人に向かってこう告げた。
「証拠? 何だか知らないが、そんなのはない。・・・ま、そんなことはどうでも良いが・・・・戦いがしたいんだろう? なら、相手になってやるさ」
 その言葉通り、黒コートは携えの剣を抜いて、両腕を下ろし、肩の力を抜く。
 ・・・構えというのはない。ただ、落ち着き払って、読んでいる。
 絶対的な余裕などではない。
 構えてないようだが、そこから感じられる隙は、ミリもない。
 威圧だけで近寄ることが難しい。
 ・・・臨戦の態勢である。
 その空気に、エナ(茶)は求めたモノではなかったその答えを哀しそうな顔で受け止め、エナへと耳打ちをする。
「エナさん・・・残念ですけど、対話は無意味です・・・」
「・・・ですね。不本意ですけど」
 お互いに頷き、エナ(茶)は長刀を抜き、走る。
 開戦である。
「ニブルヴァーナ!!」
 そのエナの放った魔法は、走るエナ(茶)を抜くように、黒コートへと襲いかかる。
 ただし、黒コートは、逃げる動作をしない。
(逃げ無いつもり・・・?)
 エナ(茶)は、その事に不審がり、走り止める点を追いつめすぎない位置にした。
 だいたい、畳縦三畳半の距離・・・もちろん、長刀のレンジにはまだ入っていない。
 しかし、このレンジであれば、黒コートも簡単に手出しの出来ない距離だろう。
 ・・・が、その予想は大きく外れる。
 黒コートは、もはやエナの魔法が当たったかの様な寸前の所でエナの魔法を右にずらしてかわし、その踏み込んだ勢いを反動させ、ツーステップ目で距離を詰める。
 まさに、それが一足。
 そして、その黒色の剣で、右上からの切り下げる瞬く間もない一刀・・・距離は、確かに畳縦三畳半離れていたというのに、黒コートはそこから一足一刀を踏み入れたのだ。
「っ!!!」
 ギンッ!! と鋭い音が響く。
 斬られたことはない。長刀を間に入れたのだ。
(黒い剣・・・!!)
 選ぶ武器というのは、心を現す。
 聖なる武器を求めれば、より白光りした神々しい武器を手にする。
 派手さを求めれば、装飾が過多となる武器を手にする。
 そして、悪しき闇の心を持つなら、武器は・・・暗殺や、影の者は光を消すために、より黒い武器を選ぶ。
 ・・・そう。そして、その服飾も。
(やっぱり、この人は・・・・・・え?)
 エナ(茶)は、驚き、疑問に思う。
 確かに、この剣は・・・黒色だ。
 だが、攻撃から黒い意思や思念が感じられないのだ。
 ・・・むしろ、闇は、防御的な属性に付加されている感じ・・・。
 それに、攻撃を受け止めた刹那、瞬間的にだが、黒とはまったく対象の白い刃が見えた気がしたのだ。
(気のせ・・)
「ぃっ!!」
 息を呑み、黒コートの続けて入る斬撃を防ぐ。
 距離が近い分、斬撃は重くのし掛かる。
 まさに、剣の絶好のレンジである。
 このままでは、防戦に一方となってしまう。
 だからこそ、距離を離すため、反撃として胆を込めるタイミングが最良の状態ではじき返すのだ。
 それは、長刀の武術理論からも言える。
 長刀は、梃子の原理を利用した最小の力で最大の攻撃力を発揮する武術だ。
 相手の剣が強い場合、その力エネルギーを反動させ、剣を振るった本人に返す。
 そうすれば、反動した力は不意を付き、強ければ強いほど、バランスが崩れ易くなるのが常である。
 そこから距離を取れば、長刀のレンジである。・・・のだが、
 次の黒コートの大上段からの一閃。力エネルギーが大きければ、反射する力も強くなる。
 つまり格好の機なのだ。
(!!?)
 ・・・・が、しかし、タイミングがズレて、半端な力で押し返したために、自身の体勢が崩れる。
(込めるタイミングが遅かった・・・!? 何故・・・? 防ぐタイミングはバッチリだったのに)
 エナ(茶)も、しっかりとした技量を持っている。だから、このタイミングに偽りはない。
 なのに、何故か向こうの刃が届く方が速かった・・・もちろんこれでは、満足な力で押し返せるわけはない。
 ・・・その答えは、すぐに判った。
 そのまま押して倒そうと判断した黒コートが謀ってきた鍔迫り合いで、黒い剣は、それを受け止めた長刀から数センチほど離れていた。
 その間にあるのは、透明な刃。
 刃と剣の距離は誤魔化され、タイミングを計るのが狂い、見切るのが難しくなる。
 そして、その刃は、光を返し、時折白き刃となる。
 先ほど、エナ(茶)が、気のせいだと思った『白の刃』である。
(白き刃の・・・黒き剣)
「あっ!!」
 鍔迫り合いを急に退かれ、エナ(茶)は、前に倒れそうになる。
 黒コートが鍔迫り合いを止めたのは、エナが魔法を使ってきたからだ。
 それを回避した黒コートは、ため息を吐いて・・・不覚にも、滅茶苦茶ため息をつく姿が似合っている・・・ポツリと囁いた。
「暗雲の灯火は冥俯に渡る者への裁きの回廊・・・放て、我に仇なす愚者に暗夜の雷を」
 その小二フレーズの印をエナ(茶)は聞き漏らさなかった。
 そして同時に、その小二フレーズだけで、黒コートの周りに、考えられない程の膨大な魔力が膨れ上がっているのも。
「エナさん!! 伏せて!!」
「え、あ・・!!」
 不意をつかれ、膨大な魔力に飲み込まれそうになったエナは、エナ(茶)の言葉でハッとなったが、把握し切れては居ない。
 エナ(茶)はすぐにエナに駆け寄り、地面へと転ばそうとする。
 その行動を始めた刹那、
「シャドゥレライ!!」
 暗雲が立ちこめ、そこから

 バン!! ババン!!

 と、耳を劈く電気音が響く。
 膨大な魔力を引き上げたにしては、威力は並程度だった。
 ただし、当たったならば大ダメージは必須だろう・・・ただし、威力から考え、死ぬことはない。
 暗雲が消えた時・・・・エナの立っていた場所で、
 ・・・・エナは、エナ(茶)によって地面に倒されていた。
「はっ・・・はぁ・・・か、間一髪でした・・・」
 息を吐いて、エナは呟く。
 しかし、
「何が間一髪だ?」
「!?」
 安心もつかの間。氷のような気配に、エナ(茶)弾かれたように長刀を薙いだ。
 いつの間にかエナ達の首もと近くに寄せられていた、白き刃の黒き剣の進行を長刀で弾き、阻止する。
(油断させるつもりなんでしょうか、やはり構えはありませんが・・・『型』は、ありますね)
 エナ(茶)は、黒コートが距離を置いた瞬間に起きあがり、刃を合わせる。
 とにかく、黒コートの剣閃は速かったのだ。
 攻めなければ勝てない・・・それは判っているが、一方的な攻撃に、どうしても防戦一方となってしまう。
 エナの隙作り貢献した魔術も、その全てが剣を交えながら黒コートに回避される。
「はぁ・・・はぁ・・・・っ!!」
(必ず・・・必ず、何処かに隙があるハズ・・・)
 在るとすれば、ミリ以下の範囲かも知れない。
 だが、そこを付かなければ、勝機は怪しい。
(・・・いえ、無いと言っても過言では・・・)
 だから、フリルを・・・フリルを護りさえすれば、それで良い。
「威勢は最初だけ・・・・か」
 ふっ・・・と、哀れむように黒コートが息を付く。
 まるで、考えている事を射抜かれたかのような物言いに、エナ(茶)はハッとなった。
 それと同時に、
「な・・なんですか!! その小馬鹿にした言い方は!!」
 エナは逆上し、声を荒げる。
 黒コートは一歩下がり、剣で威嚇しつつ、エナへと語りかける。
「事実だ。現状、お前達が優勢とは思えない。それをテンションなどと言うどうにでも誤魔化せるもので把握され、敵へ志気を促進させるのか。
 虚勢でも、勝てる戦いだと仲間に思わせなければ、重要な機を見落とすぞ」
「・・・・何を言いたいのですか」
 油断させるわけでも無ければ、動揺を誘うワケでもない。
 黒コートの言葉は・・・さっぱり、意味の無い事だった。
 エナ(茶)の問いかけを無視し、黒コートはエナへと声を掛ける。
「それに、金髪の方。この程度の挑発に乗せられる様では戦には向かんな」
「な・・・」
 挑発に乗せられたと言うことと、それに気付かなかった自分に恥じて
 カーッと、エナの顔が赤くなる。
「ば、バカにしないでください!!」
 天使化し、放つはサザンクロス。
 大抵はネタとして使われているが、その魔法は星を介する南十字星を指す光の交錯(ライトクロス)
 強力な範囲魔法で、どんなに素早くとも、避けようもない・・・・ハズだった。
「!!」
 だが、光が交錯する向こうで、黒コートは何をしていたかと言えば、
 ただ、手を上に掲げ、防護空間を作っていた。
「・・・冗談、ですよね・・・?」
 最強・・・と言うわけではないが、サザンクロスも相当な力を持った魔法だ。
 それが、術式の詠唱一つも無しの防護膜で防がれたと言うことに、少なからずショックを隠せない。
 サザンクロスが止み、無傷の黒コートは、やはり似合っているため息を吐いて、
「ま、コレは戦場を経験する相場の違いだ・・・諦めろ」
「きゃっ!!」
 唖然とさせる間もなく、長刀に白き刃の黒き剣を当て、エナ(茶)を弾き倒す。
「あ・・」
 長刀が飛び、エナ(茶)の気力も限界で・・・何より、志気を完全に削がれた・・・息一つ付いた刹那だった。
 黒コートの大上段からの左側から切り下げ。そして、それを止める術も無く・・・ギュッと、目を閉じる。
「だ、だめっ!!!」
「なっ・・・・!!」
 刹那。
 フリルが、間に飛び込んできた。
 しかし、勢いを付けた剣は、瞬間的に戻すことなど効かない。
 誰もが、フリルの両断を予想した。
 剣が振り終わる。
「っう!!」
 ・・・・が、結果は、軽い・・・ほんの少し、フリルの腕に刃が入っただけで終わった。
 黒コートの剣は、返し手で起動を逸らされ、その刃は地面を削っている。
(え・・・何で)
 エナ(茶)は不思議に思った。
 どう考えても、普通なら・・・あの状態なら、間に入ったフリルは両断されていた。
 でも、見たとおり、結果はほんの少しの傷で済んだのだ。
 剣・・・いや、『薙ぐ』関係のレンジの短い武器なら大抵そうだが、攻撃は瞬間的に空間上へ描いた線をなぞる事が攻撃の基本となる。
 長刀もそうである。瞬間的に空間上へ描いた線をなぞるように支える手を支点に握る手で力点。線をなぞる刃は作用点となる。
 その速さが速ければ速いほど、重ければ重いほど、大きな一撃となる。
 それが、剣閃となるのだ。
 つまり、その線の軌道からズラすというのは・・・つまり、腕の良い剣士で在ればあるほど、簡単に出来る事ではないのだ。
 だからといって、黒コートが剣の初心者かと言えば、答えは否。
 あれだけの剣技は、初心者と言うよりも剣聖の領域と言える。
 だったら、黒コートがフリルの突入を予期したか・・・と言えば、これも違う。
 フリルが入ってきた瞬間に、声を上げて動揺したところから、黒コートにとってフリルが入ってきたことは、予期せぬ事態だったハズである。
 即ち、これらのことから、この攻撃が『ある事情』でない限り。普通こんなことは有り得ない。
(・・・寸、止め?)
 そう。寸止め・・・と言っても、フリルの立ち位置から考えると、安全性を考慮して人一人分程も。
 もしも、この最後の攻撃を・・・黒コートがエナ(茶)に入れる攻撃を、初めから寸止めだと狙っていたなら・・・。
 それに、思い返すと、寸止めをしたのがこの最後の攻撃だけか。と言われればそうでもないだろう。
 初撃はエナだった・・・しかし、それは魔法での、いわば『飛び道具』な攻撃である。
 物理攻撃での初撃は黒コートからだった。エナ(茶)からではない。
 相手の力量を測ることもしない状態・・・自分の攻撃を防ぎきれるかどうかも怪しい状態で、寸止めではない剣戟を入れ。「もしも」が在ったら・・・。
 それなら。今更、寸止めを入れることに意味など無く。
 つまり、初めから、寸止めで狙ってきていたと言うことになる・・・・そう、初めから、『斬りつけない』と言う、思いっきり気を使うハンデを背負っての戦いで、アレなのだ。
 ・・・むしろ、初めから勝つ気がなかったとさえ思える。
 でも、思えば、エナとエナ(茶)に放った魔法(シャドウレライ)も、引き上げた魔力の割には威力は弱く、
 その魔法で地面に倒れた瞬間も、あれだけの素早い剣閃が在れば、十分に首を狩れただろうし、
 エナを挑発したときも。何らかを・・・どちらかと言えば、戦への餞の言葉を語りかけてきた。
 それに、最後にエナ(茶)をはじき飛ばした一撃も、明らかに黒コート自らが長刀に当てに来ていた。
 そして、今回フリルが、両断を免れ、腕の怪我だけで済んでいることも・・・・。
 でも、そんなのおかしい。何故戦いで相手に寸止めを・・・?
「ッ!! フリルちゃん!!」
 エナの声に、エナ(茶)はハッとなり、思考を中断させる。
 エナが駆け寄り、フリルに癒しの呪文をかける。
 傷は浅い・・・だが、早く治さないと傷が残るのもまた事実だ。
 フリルの服に、ジワリと赤い血が染みる。
「大丈夫ですか!!?」
「あ・・うん。平気。エナっち」
 フリルの言葉に、ホッとエナは息を付く。
「・・っ・・っく・・・・・!!!!」
 しかし、それだけで終わらない。
「え・・・」
 一つ息を呑み、苦しそうに喘ぐ声に、エナ(茶)が反応し、そっちを向いた。
「ぁ・・くっ・・・!!」
 その主は・・・黒コート。
 まるで、息が出来ないかのように、声を上げる。
 フリルの腕から、僅かに滲む血を見た瞬間だった。
「え、エナさん!! か、彼が・・・!!」
「え・・・?」
 エナ(茶)が、思わず身体を支えるものの、それでも意識は安定せず、黒コートの身体はふらりと揺れる。
 黒コートは左手で頭を抱え、右手の剣を支えに、苦しみ藻掻いていたのだ。
 それと同時に、畏怖や恐怖などではない。圧倒的な『殺気』が溢れ、白い靄となっている。
「っ・・ぐっ・・・ダメだ・・・ここで・・殺し・・!!」
「ちょ・・なにが、どうなってるんですか・・・?」
 しかし、すぐに黒コートはグタ・・と意識を失ってしまう。
 同時に、ふっと底冷えするような殺気は無くなっていた。
(あ・・・)
 『ソレ』を見て、エナ(茶)は驚く。・・・そして、場違いではあるが、ちょっと心が和む。
 黒コートの目は、つり目がちだった・・・・のだが、目を閉じた顔つきは妙に女の子らしく、思わず可愛いとさえ思えてしまった。
 だからといって、黒コートが女なのではない。彼の声は明らかに男のものである。
(こんな人が・・・・なぜ?)
 戦中もそうだったが、黒コートには妙に何かを隠しているような空気があった。
 白き刃の黒き剣もそうだろう・・・本心は別にあるのに、すれ違わせ、なにか誤解させる。
 もちろん、これだけで、エナ(茶)が黒コートのことを全て知ったわけではないが、とりあえず、その『目を閉じると妙に女の子らしい顔つき』の黒コートをゆっくりと抱えた。
 ・・・しかし、問題は更に三つ目に突入した。
「あうぅっ!!」
「フリルちゃん!?」
 腕を押さえ、フリルが急に声を荒らげ、苦しみだしたのである。
 ・・・傷が、何故か治っていないのだ。
「え、エナさん!? 回復魔法は!?」
「それが、どれをやっても効かなくて・・・!!」
 傷は浅いはずなのに、苦しみ様は尋常ではない。
 焦りも荷担し、試行錯誤するなかで、
「誰か居るんですか!?」
 道の脇から、一人の少女が出てきた。
「あっ!! ・・・・その傷、ワールズエンドで付いた傷ですね」
「ワールズエンド? そ、それよりも、フリルちゃんが・・!!」
「大丈夫です。凍結した時を正常化し、傷を癒せば・・・ホラ」
「あ・・・」
 少女が手をかざすと、傷が癒える。
 そして、フリルは安心したように眠りに就いた。
「あの剣・・・・時の能力が付加されていたんですね・・・」
 エナは呟いて、眠るフリルの頭を撫でる。
「あの・・ありがとうございます。もしもあなたが居なかったらどうなっていたか・・・」
 エナ(茶)は少女に礼を述べ、恭しく頭を下げた。
 それに少女は慌て、
「あ・・・そんなかしこまらなくても。それに、仲間が迷惑を掛けましたから」
「・・・仲間。ですか・・・?」
「はい・・・あ、とりあえず此処では何ですから、家に来て下さい」
 よいしょっと、と声を上げ、少女は黒コートを担ぐ。
「あの・・・・・失礼ですが、あなたは・・・?」
 エナ(茶)の言葉に、少女はこう言った。
「わたしは、ミロリーナ・ルグランです。ミリーって呼んで下さいね」


「・・・・ん」
 フリルが目を覚ます。
 見知らぬ天井・・・と言えれば格好良かったのかもしれないが、生憎と一度見ている景色だった。
 ミロリーナの家の中である。
「やっと起きたか」
 フリルの隣で、黒コートがぶっきらぼうにそう言い、ふっと微笑む。
「あ・・・」
 思い出す。魔物に襲われた際に見せた、その背中を。
 フリルは、自分を魔物から守ってくれた黒コートにお礼を言おうとしたが・・・その刹那。
「セイジ・・・誰のせいで寝込んだのかわかってるの・・・?」
「煩い。考え無しに飛び込んで来る奴が悪い」
 横からの文句と、それをスルーするやりとり。
 ミロリーナが、黒コート・・・セイジの隣に座り、フリルも込みでセイジの看病をしていた。
「・・・ぁ」
 言いそびれ、もう一度、フリルが話そうとした直後、
「あ、二人とも起きましたか」
 今度はエナがやって来る。
 そこで諦めた。もう、お礼を言う雰囲気などではない。
「あ、エナさん。フリルちゃんは、もう安心ですよ」
「そうですか。って、セイジさんの方はどうなんですか?」
「重傷みたい・・・頭の中が」
「そうですかぁ〜。本当に良かったです」
「・・・エナっち、さり気なく酷いこと言ってる」
「いえいえ、傷が治らなかった時なんて焦りましたよ・・・」
「・・・シカト?」
「まあまあ。エナさんもせっかく治癒魔法を持っているんですから、治癒対応知識応用編を身につけたら如何ですか? なんなら本を渡しましょうか?」
「いえ、気軽に貸し借りは出来ないと思うんですけど・・・」
「あ、別に持って帰っていただければ・・・わたしは、ある程度身につけましたから」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
「・・・今日の誕生日、私のハズなのに何でエナっちが物貰ってるワケ・・・?」
 女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、フリルの誕生日発言から話題がだんだんと盛り上がっていく。
「・・・オレは外に出ている」
 彼女等のテンションについていけず、居場所が無くなったセイジは、宣言通り家の外へと出ていった。
 しばらく歩くと、水をくむ小川が流れている。
「あ・・・セイジさん。具合はもう良いんですか?」
 そこでは、エナ(茶)が小川を眺めて佇んでいた。
 ただし、セイジの姿をチラリと見た後は、すぐに目線を川へと戻す。
「どうした」
「・・・いえ・・・あの、今回のこと、私、思慮が足りなかったですね・・・」
「・・・」
 エナ(茶)の独白に、セイジは何も言わず、聞く。
「セイジさんは、フリルちゃんを助けてくれたって言うのに・・・私は、お礼一つ言わず、あなたを疑って攻撃しました」
 この場にミロリーナが居れば、「こいつ、ただの戦バカだから気にしなくてもいいですよ」とか言うのだろうが、当人は家の中で談笑中である。
「・・・そうだな」
 そして、セイジはエナ(茶)の独白の合間に、ポツリと・・・印象づける呟きを一つ。
 更に付け加えるように、
「だが、間違いじゃない。お前は、護りたかったんだろう? 護りたい者を、危険にさらしたくなかっただけだ・・・それに、オレの物言いにも問題はある」
 そう告げる。
 その言葉に、エナ(茶)は顔を上げ、微笑んだ。
「・・・はい。そうですね」
 セイジがエナ(茶)の隣に立ち、小川を眺める。
「お前達は・・・オレには無い強さを持っているんだな」
「え?」
 ふとセイジが呟いた言葉に、エナ(茶)は思わず顔を向ける。
「それだから・・・お前達は、オレよりもずっと強い位置にいる」
「・・・・・・?」
 エナ(茶)は不思議そうにその言葉を反芻した。
 いや、この言葉は嘘か?
 全てを寸止めで狙ってきた・・・倒す気のない・・・戦いで、技も力も、能力もそれなりに強い二人を相手にあそこまで追いつめたのだ。
 正直、勝機は薄かった・・・それなのに、『オレよりもずっと強い位置にいる』という言葉。
 考えるエナ(茶)を横目で見て、セイジは相変わらず似合うため息を一つ付いて、ふっと笑い、セイジは言葉を続ける。
「強さというのは一丸に力が全てじゃない。
 オレの剣は、オレ自身の為に振るわれた。だが、お前達の剣は、誰かを護るために振るわれている。
 ・・・護る者があるウチは、幾らでも力を出せる・・・だから、お前達は、オレよりもずっと強い位置にいる。
 技は劣るかも知れないが、今のオレは、あんた達に比べれば臆病なヤツだよ」
 そう言って、ポンと軽くエナ(茶)の頭に触れ、セイジは背中を向けた。
「傲れる事なんて無い・・・・・大切な者って大抵、失ってから気付くモノだ。それを失う前に知っているお前達は幸せだな」
 そう言って、家へ入っていく。
 それを見送って、エナ(茶)は言葉を反芻した。
 黒コートの剣士は、ミロリーナの家へと入っていく。
「あんなむっつりした顔してるケド、眠ったときっていうか、目を閉じたときのセイジってすっごく女の子みたいな顔してるんだよ。まさに男版ツンデレ!」
「えー・・・それって本当なんですか?」
「ばっ・・・!! ミリィィィィ!!!」
「あ、セイジ〜♪ ほらほら、目閉じて」
「出来るかバカッ!!」
 同時に、中から騒ぐ音
「・・・・・・・(汗」
「・・・茶ナっち」
 いつの間にか、セイジと入れ替わる感じでフリルがエナ(茶)の隣に立っていた。
「あ・・ゴメンナサイ。いつから居ましたか?」
「・・・茶ナっちとセイジの密談の初めから」
「フリルちゃん・・・別にセイジさんとはそんなんじゃ無いわ・・・」
「・・・判ってる。茶ナっちにはしっかり好きな人が居るから」
 「ふぅ・・」と息を一つ吐き、エナ(茶)は言った。
「そろそろ帰りましょうか。あんまり遅いとみんなが心配しますし」


「元気でね。あなた達に出会えて良かった」
「じゃあな」
 二人に見送られ、三人はエナ(茶)の力で元の世界に帰る。
 三人が出てきたのは、『刻の次元回廊』があった場所。
 時刻は夕暮れ・・・もうそろそろ、パーティーの準備は整っているハズだ。
「みんな待っていますし、帰りましょう。フリルちゃん」
 エナの一言で、三人並んでゆっくりと家路に就く。
 一日で、いろんな事があった。
 それも時が流れ、思い出となる。
 それを証明するように、いつの間にか玄関へと三人はたどり着いた。
「ただいま」
「あ、フリルおねーちゃん!!」
 家に着いた時・・・準備の終わり間際だった。
 料理組は充実していたが、飾り組が不足していたのが原因だという。
 ・・・まあ、前回のテレア誕生日も事件後に準備が行われたクチなのだ。この際は不問とするべきだろう。
 とりあえず時間潰しにと、テレアから先に渡された誕生日プレゼントを手に、フリルは自分の部屋へと戻る。
 ・・・その一つの本に、記されていた。

『大切な者って大抵、失ってから気付くモノだ。それを失う前に知っているお前達は幸せだな』

 タイトルは、『聖勇者伝記』。黒コートの青年セイジの聖勇者伝記。天空と地上を駆けた、冒険物語。
 パラパラと軽く読みながら、セイジがエナ(茶)に・・・同時に、フリルにも・・・言っていた言葉を反芻する。

『強さというのは一丸に力が全てじゃない。
 オレの剣は、オレ自身の為に振るわれた。だが、お前達の剣は、誰かを護るために振るわれている。
 ・・・護る者があるウチは、幾らでも力を出せる・・・だから、お前達は、オレよりもずっと強い位置にいる。
 技は劣るかも知れないが、今のオレは、あんた達に比べれば臆病なヤツだよ』

 聖勇者と呼ばれる黒コートの剣士よりも強いと、本人に認められた・・・・・・その、心。
 誰かを護りたいという想い。願い。
 力が、全てじゃない。例え非力でも、剣を抜ける。
 誰かのために強くあることは出来る。
『傲れる事なんて無い』
 自分のやれる範囲でやればいいのだ。
 本を閉じ、階下へ下りる。
 黒コートから貰ったプレゼントを心に刻み、
 成長を実感して、また再び歩き出す明日へと。
 そして・・・・・・、
 自分が護りたい人達の元へと。

 「フリルちゃん!! お誕生日おめでとうございます!!」





>>あとがき

 この作品はクロスリンクなフィクションです。実際の人物や団体、行動などは一切現実のものと関与しません。
 また、コイサン氏及びコイサン氏に著作のあるキャラクターは彼の者であり、私に著作はありません。
 そして、セイジやミリー。及び地理の設定は、神無月オリジナルの作品『聖勇者伝記(※未発表)』に基づき、『聖勇者伝記』及びこの作品設定の著作は神無月カイにあります。


 さて・・・空間移動という設定が前回と似てる形になってしまったのが大きな反省点。
 だって戦うエナ(茶)が書きたかったんだよもん(←それをフリル誕生日にやる事が問題)
 どうせだから、『魔法少女えなリオン!!』とかも考えましたが(←逝け)、そんな脆い軸ストーリーで話しが流れるワケが無い。
 で、結局。戦と言えばセイジだな。と、管理者もお疲れさまな登場。前回送ったテレアのにもチラリと出てたハズです。
 まてよ・・・・そうか!! なるほど!! コイサン氏が格好良く活躍し、戦闘する物語を書けば(マテ)
 そんな私は、脳内でコイサン氏をビジュアル的に妄想し出す危険人物です(コラ)

 と言うか、誕生日の度に事件が起きている件について・・・いや、元凶は私ですが・・・(ォィ)


 出来うる限り、聖勇者伝記に関してはキャラクター以外は触れないように努力しましたが、あう〜・・・ついボロっと出てしまう・・・orz
 って、論点が違う。コレはフリル誕生日なハズなのに、なぜフリルが脇的な存在に・・・!!!?
 一番の反省点はここでしょうね・・・orz
 一応、一度通して書いた後に修正はしましたが、まだミョーンな所が残っているかも知れません。


 しかしアレです。
 コイサン氏に、ウチの黒髪きょぬー娘を描いて欲しかった・・・。


 広い心を持って読んで頂けると嬉しいです。
 もうホント、色々と不甲斐なくて・・・・orz



このSSはテレアの誕生日記念(2005年現在)として神無月カイ様に頂きました(^^)
今回はいつも違ってバトル物です。
いつもいつもありがとうございます♪