窓から肌を突き刺すような太陽光線が入ってくる。今期のイタリアは、熱波の影響からか、平均気温四十度越を記録していた。しかしながらアジアとはまた気候が違うため、日陰や、日の射さない室内は気温からは想像できないぐらい快適に過ごせる。温度よりは湿度の問題だ。  けれども太陽は生きとし生けるもの全てに惜しみなく光を注ぐ。気候と熱光線は別問題。流石に太陽が降り注ぐ中で何時間も仕事をしていれば疲れるというもの。そんな中、立て込んでいた仕事をやっと片付けて、自室で仮眠をとっていた時だった。私は全てが吹き飛ぶような音に目を覚ました。館内に響いた凄まじい轟音。動き始めたばかりの頭で思い出すと、爆音に近いものだったような気がする。聞こえた方向は、上の方からだ。まさか……そう思って廊下に飛び出すと、そこには既に異常を察した数人の隊員達が、パニックになりながら走り回っていた。
「何やってるの! 早く処理班に連絡して!」
 この時期は有給を沢山取る隊員も少なくない。それに今は大きな拗れた仕事のせいで、実力のある隊員ほとんどが出払っている。人員不足の時に一体何をやらかしたのか。最低な状況で、最悪の事態も頭に浮かんだ。私は唇を噛み締めながら足早に階段を上がっていく。案の定ある部屋から、もくもくと硝煙が廊下へと流れ出しているのが見えた。私は息を飲む。
(まさか、まさか……!)
「ボス! お怪我はありませんか?!」
 叫びながら煙の中に飛びこむ。だが、叫び声で煙が晴れるはずもない。部屋の構造を思い出しながら、這うようにして進んだ。真ん中の革張りのソファの所に来た辺りで、ふと誰かの気配を感じた。ボスのものかもしれないと安著しながら、この目で確認するまでは信用もできないと、必死に目を凝らして見上げた先には、
「え、誰…………?」
 ボスが居たと思っていた場所には、溢れんばかりの妖艶さを、威圧感とオーラに変えて仁王立ちをしている、それはそれは綺麗な女の人がいた。見事なまでに、ヴァリアーのコートを着こなし、すらりと伸びた四肢にパンツスーツがよく映えている。通った鼻筋に、彫りの深い顔、まるで果物の切り口のように濡れて艶めく唇。目元は切れ長で、正に鋭く尖ったナイフのような美女。そして、烏の濡れ羽色と言うにふさわしい黒い髪の毛は、ベリーショートに切りそろえられており、そこから見覚えのある個性的なエクステをつけていた。雰囲気と妙に合っていて、何処か涼やかさを感じさせる。身に付けているものや雰囲気から何処となくボスと似ているような気がする。けれども、どう見ても性別が全く違う。
「おい、カス! ……チッ、風邪か?」
 若干掠れてはいるが、しっとりと落ち着いた、なんとも艶のある声だ。口調に聞き覚えがあるような気がしないでもない。
「え、私ですか?」
「お前以外に誰が居る」
 どこかボスに似た女の人は、やけに親しげに話しかけてきた。薄くなった硝煙の中、立ち上がって目を擦るが、こんな女の人は今まで見たこともない。
「えっと、……どちら様でしょうか?」
「何言ってやがる。ふざけてんじゃねぇ」
 女の人はコツコツとヒールを鳴らしながら、近づいてきたかと思うと、ぱん、と小気味いい音をたてながら、手の平で頬っぺたをサンドイッチしてきた。ヒールつきの靴を履いているとはいえ、私より何センチも高い身長にどきりとする。
「え、あの、本当に誰ですか?」
「あぁ? 馬鹿かてめぇは。どう見てもオレだろうが」
「も、申し訳ないのですが、本当に分かりません」
「はぁ? 馬鹿、言っ、てん、じゃ、ねぇ、ぞ」
 語気に合わせて手の平で頬をぐにぐにと押される。痛くはないがちょっと苦しい。この人は一体誰なのか知らないが、私へ話しかけるにしても、あまりに親しげで何か変だ。
「ひゃ、ひゃめてくだひゃい」
「フン、酷い顔だ。鏡でも見ろ」
 女の人は何を思ったのか、頬っぺたをサンドイッチしたまま、備え付けの全身鏡の所まで私を引きずっていった。私を誰と勘違いしているのかわからないが、見ず知らずの人に体を触られるのは少しばかり奇妙な恐怖感を覚える。
「ひゃ、ひゃめて……!」
 鏡が目の前にきた所で、私の頬っぺたをサンドイッチしていた手は糸の切れた操り人形のように、呆気なく落ちた。見上げると、女の人は鏡を見つめたまま目を見開いている。不思議に思いながら鏡を見るが、鏡の中にはこちらと同じく、私とこの女の人と、少し煤のついた部屋が映っているだけだ。
「な……」
 女の人はやっと言葉を発したかと思うと、今度は自分の顔を確かめるようにに手をぺたぺたと当てて確認し始めた。私はその隙に女の人の後ろへ回り込んで、間合いを取って身構える。
(この人、生まれてから今まで鏡見たことないとか、そういう人なのかな)
「お、オレは………………ド畜生が!!!」
 叫び様に振り返ったその顔は険しい。
「あ、あの……!」
 女の人は自分の胸を鷲掴みしながら、私の所へと凄まじい形相でこちらへ向かってくる。殺られる、そう思って懐に手を入れて、頭が真っ白になった。私とした事が、この状況で武器を自室に忘れてきたのだ。しかし、女の人はそんな事おかまいなしに目の前に迫ってくる。人生をここで終えるのか、そう覚悟した次の瞬間に降ってきた言葉は、全くもって見当違いと言うしかないものだった。
「何でオレは女になっていやがる!」
「――――しっ、知らないですよっ! 意味分かりません! ていうかあなた誰なんですか?!」
「ザンザスだ」
「えっ?」
「……チッ」
 苦々しげに吐き出された舌打ちは、確かに見た事がある。いや待てよ、この部屋はボスの執務室だし、現にボスはいないし、でもボスは男だ。けど、なあ……。

(妖しすぎる、いや、怪しいんです)

********


 室内を処理班が掃除する中、私とボスは、爆発のさ中、唯一無事だったデスクの周りで話をしていた。処理班が作業をしながらこちらにいぶかしげな視線を送っているが、この妖艶な女の方はボスです、とおおっぴらには言えない。ボスと相談した結果、とりあえず黙っておいた方が面倒は起きないだろう、という結論が出たのだ。
 私もまだ信じたくはないが、この女の人は、ボスであるという事を認めざる終えなかった。振る舞いや言動も確かにボスと同じなのだが、決定的なのは、憤怒の炎を自由自在に操り、鏡ごと壁を蒸発させた事だった。こんな事出来るのは、私はボス以外で見たことはない。

「で、一体どうしてこんな事に」
「ボヴィーノのバズーカを改良したとジャンニーニが試作品を持ってきたんだが、そこから記憶があやふやだ」
「ボヴィーノのバズーカ……ジャンニーニ……」
 ジャンニーニは、武器チューナーの中でも最高峰の、ジャンニーイチの息子だが、彼のいじった武器はまるで使い物にならない上、何が起こるかわからないという話を聞いたことがある。ジャンニーイチに比べて、まだまだ未熟者である彼が改良したとなると……。
「オレが触った瞬間に暴発したのは覚えてるけどな」
 ボスは苦々しげな顔をしながら、自分のデスクに寄りかかり、腕を組んだ。少しどきりとした。
「やっぱり……。多分原因はそのバズーカだと思います。ボヴィーノのバズーカは、確か十年後の自分と入れ替わるというものだったはずですが、ジャンニーニさんがいじったなら、何が起きてもおかしくありません。……ところで、そのジャンニーニさんはどちらへ?」
「知らねぇよ」
「……そうですか」
 彼のことだ、もしかしたらバズーカの爆風にでも巻き込まれて、そこらへんの木に絡まっているのかもしれない。ジャンニーイチさんに連絡を入れてもらうついでに、後で調べてもらおう。
「それにしても……今日は確か会食がありましたよね。どうされます? 一応ジャンニーイチさんに連絡はしますが、なおらなかったら……」
「別に、構わねぇ」
「いやいやいや、こっちが構うんですよ! その姿では話し合い以前の問題です! 他ファミリーのボスとの話し合いに素性も知れない人間が出席しては、ボンゴレの信用に関わります!」
「チッ」
 ボスは近くにあった自分の椅子に座り込むと、足と腕を組んで空を睨みつけた。思わず見入ってしまう。行動そのものは普段どおりのボスだというのに、いちいち仕草がいやらしいというか、絵になるというか……今のボスは歩く十八禁、いや、二十禁と言っても過言ではない。女の私から見ても惹かれるのだ、男の人なんて今のボスを見たらどうなってしまうのだろうか?
「どうした」
 ボスの姿を遠慮がちにだが、じっと見つめているのを不審に思われたらしい。ボスのいぶかしげな視線が痛い。
「その、目のやり場に困るので、せめてブラウスのボタンぐらいはちゃんとしめて頂きたいなぁと……」
「フン」
 ボスは自分の人差し指で胸元あたりをぐっと引っ張ると、中を覗いてこう漏らした。
「確かにな……どうすればいい?」
「どうもこうもまずサイズを測ってですね、それからしたぎ」
「そうか」
 ボスはゆっくりと顔をあげると、あろうことか私の手首を掴んで、そのまま自分の胸へと引っ張った。そして、そのまま私の手の平の上から、胸を揉めと促すかのように、自分の手を押し付けてきた。
「ひっ!」
 手の平に伝わる感触は、胸そのものなのだが、あまりにも障害がなさ過ぎて、私は頭が真っ白になりそうだった。
(ま、まさかのノーブラ)
「おい」
「………………っ胸の大きさは直触りで調べるものじゃありませんっ!!!」
「……そうか」
 私の心からの叫びに、あっさりとボスは手を離してくれた。自分のものもそんなに触る機会も無いのに、人様のものを触るなんて、私には刺激が強すぎる。
「と、ともかく、今日だけでもいいので下着をつけて下さい」
「面倒臭ぇ」
「お願いします」
 切実にお願いしたい。私も含め、この事実に気づいた者なら、皆きっとやりきれない筈だ。本人が嫌がっても下着は無理矢理にでもつけてもらおう。
「と、ところで、これからどうされますか? デスクワークは問題ないと思うのですが、元に戻るまでは外部との接触を控えた方が」
「うるせぇよ」
「でも、あの……」
「カスに頼んだ資料がまだ届いてねぇ」
「じゃあ私が取りに」
「直接行く。お前は付いて来い」
「え、」
 あれよあれよという間に、ボスは歩き出したかと思うと、コートを揺らしながら廊下に出て行ってしまった。コツコツという音が、段々と遠くなっていく。気づくと処理班もいなくなっており、粗方綺麗になった部屋の中、私は一人立ち尽くしていた。
「ま、待ってください!」
 私は壊れて全開放になっているドアを滑りぬけると、遠くに見える姿を急いで追いかけたのだった。

********

 とある人物の執務室の前で、私は迷っていた。このまま行くべきか行かないべきか。やるかやらないか、真ん中などという答えはありもしない。簡単に言うと、今のボスが何を考えているのか全く分からない中で、無闇に動いてあまり問題を起こしたくない、ということだ。ボスを思う一部下としては、止めるべきなんじゃないか。丁か半か、悩みながら後ろを振り返ると、腕を組んだまま、早く行け、とでも言わんばかりに、仁王立ちをしているボスと目が合った。泣きたくなった。これは行かないと人生ここで終えそうな気がする。
 前門の虎、後門の鬼状態の中、私はある種、意を決したように、目の前のドアをノックするしかない。
、です。資料を受け取りにきました」
「入れぇ」
 ドアノブに手をかけてから、もう逃げられないな、と頭の中で呟く。私は素早く、かつ平静を装いながら、執務室の中へと一歩踏み出した。
「し、失礼します……」
「おう」
 目的の人物は部屋の奥の方にあるデスクの上に座っていた。特徴的な長い髪の毛が、窓から入る逆光のせいでやたらとキラキラと輝いて見える。
「あの、スクアーロ隊長。ボスに頼まれていた資料を受け取りにきました」
「あ゛? んなもんあったかぁ?」
「はい。昨日の夜に頼んだとお話を伺っております」
「ん゛ん……ああ、あれか。ちょっと待ってろ」
 自分のデスクを漁るスクアーロ隊長を見ながら、後ろに居るであろう人物に私は体を震わせる。
「そういえばよぉ、さっき爆発があったらしいじゃねぇか。大丈夫だったのかぁ? オレはついさっき帰ってきたばっかでよく知らねぇけどよぉ」
「えっと、その……」
「お、あったぞぉ」
 私がもごもごと言いよどんでいる間に、スクアーロ隊長は資料を見つけたらしい。左手に資料を掲げて不敵な笑み(に見える)を浮かべていた。そして何事もなく私が一歩踏み出そうとしたその時。
「遅ぇんだよ」
 突然、何の気配も物音すらなく、後ろから響いた声に私の心臓は跳ねた。
(も、もうですか……!)
 当たり前の事だが、事の成り行きを全く知らないスクアーロ隊長は、突然現れた見たこともないであろう女の人に、いぶかしげな視線を送っている。今すぐにでも声を大にして、これはボスです、と言いたいが、言ったらこちらが何をされるかもわからないので、言うこともできない。これからの事を考えると、問題を起こさない為にも、スクアーロ隊長にはあまり敵意をむき出しにしないで欲しい。
「誰だぁ?」
「フン、自分の上司の顔も忘れるとは、てめぇは本当のカスだな」
 コツコツとヒールを鳴らしながら、ボスはスクアーロ隊長へと近づいていく。そんなボスをスクアーロ隊長は、じっと見つめたまま何やら考えていたが、何か思いついたように、ぽつりと一言漏らした。
「………………ざ、ザンザスかぁ?」
 スクアーロ隊長は私でさえ信じられなかった事を、たった一目で見抜いてしまったようだ。今の状態では、声質だって大分違うのに。スクアーロ隊長の観察眼の鋭さに、ただただびっくりしてしまうのだが、多分これは一緒に居る時間の違いというものなのだろう。
「フン」
「な、なんでそんな女、みてぇな……っつーか女……」
「気分だ」
「はぁ?!」
「ぶっ」
 説明になっていない発言に私も思わず噴出してしまった。
「おいカス」
「な、なんだぁ?」
「後ろを向いてここに立て」
 突然の命令にも、スクアーロ隊長は素直に従っている。素晴らしい主従関係だが、この人は毎度毎度酷い目に合わされているのに、よく耐えていられるなぁ、と素直に感心してしまう。私なら何をされるのか恐怖心でいっぱいになるところなのに。
「おい、これからなにすっ…………いでででで!」
 突然、ボスはスクアーロ隊長を蹴り飛ばしたかと思うと、床へうつぶせに倒れた所をヒールでぐりぐりと踏みつけ始めた。
「な、ボス!! 何やってんですか!」
「あぁ? どうだ、女に踏みつけられる気分は。おいカス、聞いてんのか?」
 スクアーロ隊長は痛みと驚きで固まっているのか、うつぶせになったままなかなか動こうとしない。ボスはそんなスクアーロ隊長の背中を、ぐりぐりと手加減なしに踏みつけている。
「いい姿だな」
「う……」
「もっと抵抗しろ」
「……ぐっ……ぁ……っ!」
 これでは一歩間違えると本当のSMだ。後ろで凝視する私はいたたまれない気持ちとは裏腹に、何故だか心を震わせていた。きっと、スクアーロ隊長の髪の毛を一房掴んで、まるで馬の手綱を引くように操り、艶っぽく笑うボスがいけないのだ。
「おら」
「い゛っ……!」
「このドMが」
「…………っ!」
 段々発言がエスカレートしているような気がするのだけれど、私は目の前の出来事にどう対処したらいいのか、よく分からない。その間にも、スクアーロ隊長の背中へと、ヒールは食い込んでいる。
(痛そうだけどどうしたら……!)
「立て。四つんばいになってやめて下さいとでも頼みやがれ」
「――――っう゛お゛ぉぉおおおい!!!」
 数秒の後、スクアーロ隊長は叫び声とともに、飛び跳ねるようにして起き上がった。そのままの勢いでボスに掴みかかるその表情は、怒りに満ちている。流石に四つんばいで命乞いは、真似事とはいえ、彼のプライドが許さなかったのだろう。
「あ、あの!」
 今の二人に私の入る余地は無い。しかし、揉め事は避けてもらいたい。と、一触即発の険悪な雰囲気の中、ボスは何を思ったのか、余裕の笑みを浮かべていた。
「……女に手をあげるのか?」
「……っ、」
「胸触ってんじゃねーよ、カス」
「さわっ……」
 スクアーロ隊長は口をつぐんだまま顔を赤くすると、掴んだブラウスを手放した。下ろしたその場で手を握り締め、奥歯を噛み締めている姿は、見ていてとても痛ましい。
「フン」
「……っ!!!」
 自信に満ち溢れた女が、腕を組んで目の前の男を見下して笑っている。『女王様』、正にその一言に尽きる光景だった。私の入る余地なんて全くのゼロで、何も出来ないまま何処かのコメディアン宜しく、ただただ見ている事しかできない。そのまま何秒、いや、何分経っただろう。凍りついたままの空気を、作った自らが、壊すように、ボスはこんな発言をした。
「胸、触りてぇか」
「な、」
「ぼ、ぼ、」
 凍って砕けた空気はまた固まる。私もスクアーロ隊長もきっと同じ顔をして固まっているに違いない。
「冗談だ……行くぞ。ついてこい」
「は、はひ……」
 スクアーロ隊長をおちょくって満足したのか、ボスは未だフリーズしている私の手を掴むと、足早に廊下へと飛び出した。コツコツと先ほどまでスクアーロ隊長を踏みつけていたヒールを鳴らしながら、至極楽しそうな笑みを浮かべている。
「面白い。女は得だな」
「は、はは……」
 目を細めながらとても楽しそうに笑ったボスに、私は頼りない返事しか返せなかった。

 それからというもの、ボスは元に戻るまでの間、しょっちゅう幹部の人たちの所へ赴き、思い思いに行動しては、楽しそうにしていた。
 ルッスーリア隊長、レヴィ隊長、ベルフェゴール様、マーモン様……思い出すだけでも恐ろしい。ベルフェゴール様は自らボスの体を触ったり羨ましがったりしていた。マーモン様に至っては、写真を何枚か撮ると、興味なさげに行ってしまわれたのだけれど……。ルッスーリア隊長から『やっぱり男の方がいい』、と言われた瞬間に殴り飛ばしたり、レヴィ隊長に自分から胸を触らせる等々の逆セクハラをしたりの強硬手段には流石にびっくりしました。何故か一緒に付き添いとして引っ張り回される私は、胃が痛くなる事がしばしばだった。

 ボスが元の姿に戻ったのは、それから三日後だった。その悪夢の数日間に繰り返された会話と言えば、これだ。
「動くとやたら胸が揺れてうぜぇ」
「おかしいですね。下着はちゃんと付けてますか?」
「面倒臭ぇ」
「もうっ!」
 日課のようになってしまったやり取りを思い返すと様式美さえ感じてしまう。

 ちなみにスクアーロ隊長の背中の痣は一ヶ月消えなかったそうです。
(おしまい)

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