「ご、ごめんなさい……」 自身の腹の前で両手を組み、頭を垂れる少女――の足元では、無残にも割れた食器の破片が散乱している。 その左では洗いかけの食器が蛇口からの打たせ水をかぶり、震えながら飛沫を飛ばしている。 「またか」 内蔵されたプロペラを回して盛大なため息をつけば、が縮み上がるのが分かった。 「ごめんなさい……ごめんなさい……!」 「謝ればいいという事じゃない。次から気をつけるんだ」 言いながら蛇口を閉める。 「あっ……はい」 目を潤ませ、鼻を赤くする姿からは、深い反省の色がうかがえる。 うかがえるが、毎度毎度細かなミスが発生するのはこれいかに。 そもという人間は孤児で、実験途中のモルモットだった。 公にはせずとも、人間が人間を使って行う実験は少なからずあった。はそういう実験台からの生き残りである。 データを奪うために潜入した先で出会い、なし崩し的に今ここに居るのだが……。博士の気まぐれで引き取られたこいつは、とびきり運が良い。博士だって毎回こいつのような孤児を引き取りはしない。していたら基地が孤児院にでもなっているだろう。 しかしそこで運を使い果たした為か、こいつの仕事ぶりは散々だ。 働かざる者食うべからずと、基地内の水仕事やら雑用やらを任されているものの、おとといはコードに引っ掛かって転び、昨日はバケツの水をこぼし、今日はこれだ。 米を洗剤で洗う程の間違いはないものの、細かなミスが多い。塵も積もれば山となり、いつの間にやらこいつは皆から出来損ないのレッテルが貼られていた。 俺からしてみると、出来損ないではなく、ただ物覚えと要領が悪いだけな気がする。 「怪我がないならそれでいい。片付けるぞ」 「はい」 と、即座にしゃがみ、破片に手を伸ばすを、俺は叱り付けた。 「素手で拾ったら怪我をするだろう。人間はただでさえもろいんだ」 「ご、ごめんなさい」 今日何度目か、またもや泣きそうな顔をされる。 「ほら、この片付けは俺がやっておくから、お前は他の仕事をしろ」 「は、はい。えと、これと、あれと、えっと、えっと……あ、あれ?」 は何かを指をおりおり辿っていき、しまいには指差し確認をし始めた。 「何をするか分からなくなったのか?」 「……ごめんなさい」 は俯いた。図星だったようだ。 「分からなくなったら誰でもいいから聞け」 「あの、その、……皆さん……恐くて……」 「じゃあ俺に聞け。他のやつにもよく言っておくから、俺がいなかったらちゃんと聞くんだぞ」 「…… はい」 は涙目になりながら笑う。こういう表情を見ると、信頼されているのかと少し安心する。怒っている訳ではない。ただ心配なだけだが、甘いだけではこいつの為にならない。 ドジで愚図でノロマで、いい所はこれと言ってない。ただ真面目ではあるがそれを補って余りあるほどに間抜けだ。――まあ、だから世話を焼きたくなるんだが。 これからちゃんと成長してくれるなら、こいつとの付き合いも、悪くはないかもしれない。 (おしまい) |