――――――産まれ出でたその瞬間を、僕は、憶えている。
――――――聞こえた声の切なさを、僕は、憶えている。
『 終わらせる。 ・・・この子の為にも 』
――― 俺の屍
を越えてゆけ ―――
「まぁ、待望の男子ですのね」
「ひさしぶりの御子に天界も華やぎますわね」
「凛々しいお顔立ちでいらっしゃいますこと」
「ほんに、聡い御子であらせますこと・・・」
「流石は、氷ノ皇子の御子様・・・・」
僕は、生まれて直ぐに、此処、天界へと連れて来られた。
僕の、父親は、神と崇められし存在。
僕の、母親は、神の血を色濃く注ぎし呪われた異形のモノ。
地上に住まい鬼を討伐する、呪われた一族の長。
母についてそう言うと、周りの皆は、どこか、寂しそうな顔を、する。
・・・そう教えたのは、皆なのに。
だから僕はきいてまわる。
「えー、お前のかぁちゃんかー? そうだなー」
髪が緑でー、色は白くて、瞳はお前と同じに赤かったぜ。
それで、今はたしか女伊達らに剣士やってんだよ。強いらしいぜ?
僕をその腕の中に抱きこんで、頬擦りをしながら火車丸はそう言う。
その意見は僕の知りたかった事ではないのだけれど、頬擦りが嬉しくて、僕は黙る。
「あの子も美人だけど、お前のほうが、可愛らしいよ」
僕の頭を撫でながら、陽炎ノ由良は、そう言う。
誤魔化されている気がしないでもないけれど、由良の微笑が嘘じゃないから、僕は黙る。
いつだってそんな風に暖かくて優しい火車丸が、由良が、僕は好きだ。
僕の父親は、冷たい。・・・物質的に。身体は比喩ではなく、本当に氷のよう。
だから、と言って、彼は僕に触れようとは、しない。
そして僕は父親ではなく、祖父である光無ノ刑人の元に在る。
刑人の下で、多くの神々に囲まれて暮らす。
だから、寂しくは、無い・・・。
――――――敦賀ノ真名姫は、言った。
「貴方は、本当に良く似ているわ。
だから、御父様も、戸惑うの」
誰に、とは、訊けなかった。
そのときの彼女は、僕を見つめながら、僕を其の瞳に映しては居なかったから。
刑人は其の目に何も、映さない。
困らないのかと訊いたら、どうして困る?と訊き返されてしまった。
其の目は光を捉えねど、其の心が確かに光を感じる。
如何して困ることがあろうかと、そんな彼のコトバが僕は、好きだ。
刑人の胸に寄りかかり、その鼓動を確かめる。
彼の瞳に、僕が映ることは無いのだろうけれど、
彼は確かに僕の姿をとらえ、心を感じてくれているのだから。
そして、天界には、僕の一族の者達の一部が、氏神として存在する。
特に優秀な能力を宿した者だけが、氏神に、なれるのだと教えられた。
彼等は頻繁に僕を訪れ、昔の、彼等が地上に居た頃の話をしてくれる。
三代前に薙刀士だった杏華。
つい最近氏神になったという彼女は刑人の娘であり、僕ととても血が近い。
其れゆえか、特に熱心に僕に色々な事を教えてくれる。
其れは時に格闘術であったり、敵と成るであろう『鬼』との戦闘術であったり。
「他の神々は、そんなこと教えなくたって良いだろうと言うけれど
お前はきっと必ず、奴等と闘うことになるのだから」
そういっては、稽古に励む、彼女の顔には何処か翳りが在って。
「こうしていられるのは今だけ・・・。
ホンの僅かの時なのだから、思い切り、甘えなさい」
そういって、僕を抱きしめてくれる、彼女の微笑みは儚くて。
生まれた時のあの声を聞いた時のように、・・・切なくなる。
そして他の神々が居ない時にこっそり教えてくれた物語。
父、氷の皇子が拾い育てた男の子。
父の体を氷に変えてしまった男の子。
「お父上は彼の事をとても案じているし哀れんでいるわ。
だから、良く似た貴方を見ると戸惑ってしまうのね」
氏神となって、やっと、いろいろなことが見えてきた、と告げる貴方の瞳はとても遠い所をうつしていた。
「何処が僕に似ているの? .
・・・ 髪の色も瞳の色も。
何もかもが、僕、とは、違う」
我慢できなくて、こっそり刑人に頼んで地上を写す鏡を覗いた。
そして思わず呟いたその言葉に、刑人は言った。
「髪の色も瞳の色も、その命を構成する上での要素の一つに過ぎない」
似ているのが姿形だと、誰が言った・・・・?
「・・・・・・私はお前の髪の色も瞳の色も判らない。
それでも、お前とあの子は良く似ているよ、確かに」
儚く強いその命。命のヒカリの耀きが。
内に秘めた強い意志。何者をも凌駕せんとする、チカラを秘めて。
瓜二つだよ、お前達は。
「 きっと、お前達の瞳に宿る眼差しは、 .
誰よりも儚く、そして ―――― 強い 」
------------ |||| 蛇足 |||| ------------
終にやってしまったぁー。
書いてしまいました。俺屍、俺様ストーリー・・・・・。
此の子は討伐隊最後の当主で、氷の皇子の最初で最後の子供となったのです。
わたしは皇子の解放がかーなーり、遅かったんです・・・・。不覚にも。
初期の討伐でめぼしい宝物+解放を済ませてしまっていたので
自然と足が遠のいてしまったのでした・・・・・・。
頑張ってくれたね、私の分身!