裸ワイシャツ、男のロマン 榛名の家に泊まることとなった阿部が、食後の風呂から上がった時、真っ先に上げたのは、あいつバカか、という罵声であった。 数日前、今度家にオレ一人になるから、泊まりにこい、というメールを受け取った時、今にして思えば本当に愚かなことだが、阿部は、正直な所満更でもなかった。寧ろ色んなことを期待していた、と言っても良い。だからだろうか、今日の帰り際、榛名に校門で待ち伏せされて、皆からの視線が痛かったのは。幸い榛名が馬鹿な失言をする前に、その場より去れたから良かったものの、それでも田島の好奇心に満ちた目は、明日の部活が心配になるものだった。 ともあれ阿部の心境が、多分榛名にとってかなり美味しいものであるだろうことを自覚する位には、阿部は乗り気だった。晩飯後直ぐに風呂に入りたがったのも、第一にはこれからを予想して、少しでも綺麗にしておきたかったからなのだ。 ところが、である。そんな上機嫌な阿部を、わざわざあのとんまなノーコン投手は不機嫌にさせてくれたのだ。 「なんで着替えがなくなってるんだ!」 そういえば先程、浴槽に入っていると、入口の磨りガラス越しに人影が見えたが、榛名と自分しかいない家のこと、榛名に何の用事が有っても不思議ではなく、気にも留めなかった。それがこんなことをしていたとは。 しっかりしている阿部のこと、着替えの類はちゃんと持ってきている。それを置いておいた筈なのに、今目の前に有るのは、白いワイシャツが一枚だけ。 「何考えてるんだあいつは……」 男心と秋の空、一気にやる気を失いながら、何か着なければならないと、しょうがなく阿部はシャツを着た。自分より明らかに体格で勝る榛名のシャツは、当然ぶかぶかで、それがまた神経を逆なでする。 (自慢か。自慢なのか) とにかく榛名に文句を言わねば。ボタンを留め終わった阿部は、急いで二階の榛名の部屋に向かった。 ノックなんて当然せずにドアを開ければ、そこには平然として、ベッドに寝転び野球雑誌を開いている榛名がいた。 「おい!」 三橋や沖辺りが聞いたら、本気で卒倒しかねない様な、荒々しい声。しかし榛名は、そんなもの気にもせずに、ニヤニヤと相好を崩していた。 「やっぱ似合うなー」 少し皺の有るくたびれたシャツは大きく、太腿にかかるぐらいまではある。けれども短パンよりも裾は短いから、阿部の野球部員にしては少々細めな、それでも必死で筋肉を付けんとしている足が、よく見える。 「ふっざけんな! 服返せ!」 「は? どうせ脱ぐんだからいいじゃねーか」 その言葉に、いよいよ阿部はカチンと来る。確かにそうかもしれないが、余りあからさまに言われては、肯定する気も無くなるというものだ。 「誰が脱ぐか!」 「え? タカヤお前、着たままヤりたいのか」 「ちっ……ちっげーよ!」 聞いてきた榛名の顔はあくまでも普通で、本気で思っているのは明らかだった。それが又苛付かせる。一瞬頭が沸いて言葉が出なかった程だ。 だが阿部が幾ら睨んでみても、榛名にとっては、この反応はよく分からないものに過ぎない。 「いーからてめえ、ほら、座れ!」 だから、あっさりと気にするのを止めると、無理矢理腕をベッドへと引っ張った。 「ちょっ……」 体格も力も敵わない。阿部は易々と榛名の膝の上に乗ってしまった。 「やっぱりこの格好は男のロマンだな」 腰に手を回してくるこの人は、一体自分の怒りをどう思っているんだろうかと、いっそ呆れてしまう。 それでも阿部は、榛名の手に実際触れられてまで言うべき文句を持たない。特に薄いシャツ越しか、或いは裾から直接素肌に手が伸ばされているのだ。その温もり一つで、阿部の口は容易く封じられてしまう。睨みつけた名残はまだ視線を厳しくするものの、榛名の目が優しさを帯びていれば、それも儚く消えていった。 右手で腰を支えて、膝の上に座らせながら、左手は丁寧にシャツのボタンを外していく。普段は粗暴な男なのに、こういう仕草だけはゆっくりとしている。まるで、阿部がこの手には何も反抗出来ないのを知った上で、羞恥を煽るかの様に。 実際はそんなことを考えてはいないのだけれども、考えすぎてしまう阿部は、勝手に芯を熱くしてしまう。 「ふーん、結局お前もヤル気だな」 白い布地を押し上げる存在は、まだ完全にはなっていないけれども、手で握れば温かい。 高校生向けの安物のシャツは、ざらざらしてそんなに着心地は良くないが、それだけに敏感な部分が触れれば、じわじわと快感を与えてくる。 「触んなっ」 「は? なんで?」 ベッドに突いていた手を股間に上げ、阿部は振り払おうとするが、力の籠もらない行動は、榛名をただ不思議にさせる。 「どんどん大きくなってんのに」 二、三回さすりながら囁けば、目許に赤味を差して、阿部は軽くいやいやするだけだった。理でも情でも嫌ではないが、それでも嫌がる口先というものを分からない男に対しては、それしか示せなかった。 榛名は最後のボタンまで外してしまうと、阿部の中央に、直に触れてくる。邪魔者がない触感は、先程以上に温かく、寧ろ熱いと言っても良い。 「そりゃココ触られたら気持ちいーよな」 「べつに……」 阿部の手は相変わらず力が無く、左手に擦られた阿部の性器は、早くも先端が僅かに潤み、言葉が全くの嘘であることを、分かり易く教えてくれている。 「素直になれよ、隆也」 そう言われた直後、綺麗に手入れされた爪先が、阿部の敏感な先端に、軽く触れられる。 「あっ、ちょ、それっ……」 「ぬるぬるしてきてるぜ」 少し強い刺激を与えられると、阿部はモジモジとしてそれから逃れようと試みる。だがそれは、榛名の硬くなった股間に、尻を押し付けることにしかならない。 「ナニ、催促?」 「ちっげー……やっ」 丸出しの尻に、ズボン越しとはいえ勃起を擦りつけられて、慌てた阿部は、逃げようとして余計に榛名を硬くさせてしまう。 「あわてんじゃねェよ」 シャツは乱れ、半分肩からずり落ちそうで、目には涙を溜めながら、自分に腰を振る隆也。股間を膨らませながら、それでも抵抗の真似事だけは続ける自分の獲物に、榛名は知らずに舌なめずりしていた。 「タカヤはエロいからなァ」 「そんなことっ……ふぅっ」 榛名の右手が、腰から太腿に移る。せめてもの抵抗と、足を閉じようとする阿部に、更に快感を与えたかった。 「思いきって認めろって。自分のエロさ」 「バっ……何してっ……」 幾ら阿部が足を動かそうとしても、本気で開く力に、上辺だけの抗いが通じるわけもない。見事に阿部の両足はこじ開けられて、手の中でヒクヒクと更なる刺激を求める自身の欲望を、まざまざと見せつけられることとなった。。 もう阿部の手は添えられるだけで、僅かに押しのけようとすらしない。足だって、一度動かしてしまえば、もう榛名の指に翻弄されるのに忙しく、乱れる阿部を支えに手は戻っているのに、だらんと伸ばされたままだ。 「ホラ、ちゃんと足開けってー」 「っ、いやだ…っ!」 そんな、ベッドではどんどんと素直になる阿部の身体が面白くて、榛名は初めて意識して煽ってみる。実際の所、阿部の足はもうかなり広げられていて、その気になれば前はおろか、後ろまでも弄れる様な体勢なのだが、からかってみれば、口ではまだ反抗しつつ、頬まで赤くなった。 もう阿部は何も言えず、榛名が口を閉ざせば、聞こえるのはクチュクチュという水音と、切なく漏れる喘ぎ声だけで、我慢も限界に近い。 「なあ」 「ん……?」 ゆっくりと動かされる指の中で、だらだらと下の涎を垂らす阿部は、榛名の身体に半分体重を預けながら、ゆっくりと応える。 「イかせてほしいか?」 手の中で達する阿部を見たい、という欲望と、股間の欲求と、天秤にかけても重い方を量りかねた榛名が結論としたのは、この言葉だった。もし素直に応じれば、そのまま阿部をイかせるし、まだ口がさかさまのことを言うなら、イかせずに放置して、ちょっと痛く襲ってやろう。こう考えたのだ。 「え……。ん、なのっ」 「どっちだ? 隆也」 答えかねる阿部を焦らすべく、握ったまま榛名は手を動かすのを止めた。すると腰が擦りつけようと動くから、それも腿を叩いて自重させる。 「ほら、言わねェのかよ」 「……せて」 「聞こえない」 「イか、せっ……」 悲しみの結果ではなく、寧ろ悦びの結果である涙が、阿部の頬を一筋伝う。ドロドロと溜まる欲望を出さないなんてことは、もうとっくに無理だったのだ。 「へえ……素直だな」 一瞬悔しそうな光が目に浮かぶが、性器の胴を揉んでやれば、それも直ぐに更なる快感を求める色に染められる。 「涎まで」 生意気でしょうがない後輩が、今ここでは榛名の与える刺激に、純粋に反応している。だらしない口から零れた唾液を右手で拭って、榛名はそっと舐めた。 そして、左手で一気に先端をこねくる。 「あっ……んんっ!」 艶の有る声が漏れたのと、阿部の掌に勢いよく精液がぶつかったのは、ほぼ同時だった。そのまま落ちてきた白濁液は、榛名の手はおろか、膝まで汚していく。黒いズボンに、染みが出来た。 「汚すんじゃねーよ」 半笑いの台詞に帰ってきたのは、脳天まで痺れさせる様な、吐精直後の阿部の縋り声。 「元希……さん……」 こう名前を呼ばれては、これ以上何も言えない。榛名は、お望み通り阿部の秘部へと指を伸ばした。 平成十九年丁亥九月十五日公開 |
青井玲司様の絵チャでの絵があまりに萌え萌えだったので。