母乳




 普段よりも更に尖って熱を持っているかの如く見える乳首を、榛名はそうっと押した。じわり、と乳白色の液体が滲む。
「うわ、おもしれー」
「……やめてください」
「ヤダ」
横たわる阿部は、顔を背けながら、弱々しい声で抵抗する。けれどもその腕にも、足にも、当の声にすら、抵抗の意志など無いかのようだった。それを榛名はよく分かっているのだろう、言下に一蹴すると、今度はもう少し強く摘んだ。たらり、と一筋のミルクが流れていく。
「いやだってんなら、全部止めるぜ?」
そう言うと、榛名は左手を阿部の性器から離す。既に先端から透明な液を溢れさせていたそこは、急に掌を奪われて、切なげにヒクリ、と動いた。
「お前のチンコもうガチガチだけど、いいのかよ」
そういう榛名の得意げな顔に、阿部は歯を密かに食いしばる。身体はもう、芯から熱を持っていて、それは些細な自慰では収められるものではなかった。久しぶりの行為に、ただ肌を榛名の体温が掠めるだけでも危ないのに、まして欲望の中心を荒々しく弄られては、そうなるのも当然だった。直接的な刺激も、間接的な刺激も、阿部の身体はどちらもたっぷりと欲しがっている。

 子供が出来てからというもの、二人の夜は慌ただしくなって、仮に交われるとしても、勢い性急なものになっていた。それが、今夜は阿部の実家に子供を双子とも預けてしまっていたのだ。
 ただでさえ榛名の、飢えた様な動きと焦らす様な濃厚さとに慣れた阿部の身体が、ここ最近の簡素なもので満足出来ているわけもなかった。少しずつ溜まっていく欲望は、一度解き放たれたら制御出来るものではない。
 阿部は、それを知っている榛名に何の抵抗も出来なかった。ピン、と止めの様に性器を指で弾かれるのを合図とするかのように、一言、続けて、と呟いた。はっきり言わないのはせめてもの矜持であったが、それをすら榛名は許さない。
「え? なんだって?」
「だからっ……」
「はっきり言わねーと、聞こえねェんだよ」
見下ろす視線は優越感に溢れていて、微塵も自分の優勢を疑っていない。考えてみれば、榛名とてギリギリな筈なのだ。ゆっくりと自分を貪れる機会を、逃したい筈はない。阿部は僅かに頭を浮かせて、両足の間に座ってニヤニヤしている男を見た。努めずして、はっきりと存在を主張している欲望が目に入る。股間をそんなにして、それでも有利と思っているのか。
「オレの乳首舐めてくださいって、言えよ」
「……舐め、て、ください」
全く以て悔しいことにそれは正しかった。阿部は辛うじて、後半だけを口にする。
 実際の所、榛名もギリギリだが、阿部だってそうで、そして、上からの視線で熱く刺されるような思いをするのは、阿部の方なのだ。飢えた瞳という愛撫手段は、今この瞬間、阿部の自尊心を無駄な物と認定させる。
「ドコ?」
「ちくび……」
「どんな乳首?」
「……は?」
「タカヤのやらしーミルク塗れの乳首、だろ」
「ふざけんな!」
それでも流石に悪ふざけが過ぎれば、キッと阿部は睨み付ける。咎める為のものであったが、それは榛名にとっては益々興奮させるものにしかならない。だが、元々そこまで言わせられるとは、榛名自身も思っていないのだろう。喉をくぅと鳴らすと、言葉を待たずに阿部の乳首にむしゃぶりついた。
 ピンクの尖りは乳白色で微かにテラテラとしていて、それが又堪らなく卑猥だった。左側の乳首にちゅう、と吸い付く。んっ、と鼻に抜ける声が漏れるが、それ以上に、口に広がる未知の味が、榛名の興奮を無限大にしていく。赤ん坊に飲ませるのを見る度に羨ましく思っていた、隆也の母乳だ。勢いよく吸えば、快感よりは痛みを思わせる声が聞こえるけれども、その痛みが決定的ではないことは、腹に当たる阿部の性欲がよく示していた。こういう時、男同士というのは真に分かり易い。
 味は正直、余り美味しいものではなかった。慣れかもしれないが、精液の方がまだ飲める。それでも隆也の母乳というこの一点に於いて、口中の液体は味わうに値するものだった。コクリ、とわざと喉を鳴らして飲んでやれば、やっ、と榛名の頭が押される。腕に力は入っていない。
「ごっそーさん」
「なに言ってんスかアンタっ……」
見れば案の定顔が真っ赤になっていて、そこに更に追い打ちをかけてやる。すると、口では非難するようでありながら、それだけには留まらない何かが、顔から覗いている。
「美味かったぜ、お前の乳」
「変態っ……!」
「お前もな」
そう言ってずっと指先で転がしていた右乳首を、舌先で擽ってやれば、阿部は何も言えずに腕で顔を覆った。この反応も含めれば、確かに母乳は美味だった。
 そのまま今度は右乳首を優しく唇で食む。吸われて少し赤くなった方も、優しく指の腹で押してやる。じわじわと溢れる母乳が、阿部の、自分よりは劣るものの、それでも綺麗と呼べる位には鍛えられた胸を滑る。いやらしい。榛名はにんまりと顔が崩れていくのを、止められなかった。こんなにいやらしい乳首にしたのは、自分なのだ。孕むまで精液を注ぎ込んで。妊娠してからは大事にして。そして無事産んだ今、好き勝手に弄ぶ。全部自分なのだ、やっているのは。独占欲がきっちりと満たされて、心は至極軽い。
 その独占の証である母乳を、またもや口にする。今度はなるべく隆也にも快感を与える様に、優しく、半ばは舌先で擽る様にして、乳首を突く。やっ、という小さな声が聞こえたが、下腹部の方で切なげに震える欲望は、その声の意味が辞書とは真逆であることを痛いぐらいに示している。そのまま、榛名は優しく乳首を舐った。小さな突起の周りには、幾つもの赤い印が付いて、いっそキスマークとは思えない程だ。噛み跡も有るが、深く残った左よりはやや浅い。
 その左乳首は、榛名の左手で揉まれ押し潰されて、たらりたらりと母乳を零している。その液体を、榛名はまるでローションかの様に扱って、胸板に薄く広く伸ばしていた。酷く熱い隆也の身体を直で触るのは、掌の感触だというのに、気持ちがいい。

 そうして榛名が乳首と戯れていると、不意に、阿部の手が榛名の髪を梳いた。
「元希、さん」
「んー?」
「も、胸弄るの止めてくれませんか」
「なんで」
「……もっと下、触ってください」
阿部は、自らの腰を、榛名の腹へと擦り付けた。ヒクつく欲望が、溢れ出る先走りで榛名を汚す。
 珍しい阿部からのおねだりに、榛名は応えようかと一瞬性器を撫でた。欲望に濡れる阿部の瞳は、素直に従いたくなる程には、榛名を魅了したのだ。だが、あっ、と高めの声が漏れると、興奮のあまり、却ってすうっと頭が冷える。このまま滅茶苦茶にしたいという願望が、奇妙な方向にねじまがったのだ。
「やっぱ止めた」
「はっ?!」
「お前、乳首だけでイケよ」
 それを聞いた途端、阿部は大きく首を振ると、榛名の方肩を掴んで、やめてください、と頼み込んできた。その反応に、ビンゴ、と榛名は左手での愛撫を再開する。
「ホントに……元希、さん」
「だーめ」
「……オレの、チンコ、触って欲しいんです」
その言い方は、前に冗談半分で榛名が言わせようとしたものだった。その時は激怒して、危なくベッドから追い出される所だったというのに。今は、自分から進んで言っている。
(分かってねェなあ……)
フン、と鼻を鳴らすと、榛名はその健康的な歯で、優しく乳首を甘噛してやった。必死な目つきを見れば見る程、声が切羽詰まる程、胸しか弄りたくなくなるのだ。それ位、短い付き合いではないんだから、分かりそうなものだが。
 いや、分かってはいるのだろう。ただそれを上回る羞恥心が、判断を誤らせただけで。
「ヤ。ホント、に、そんなっ……」
桃色の乳首は薄らと充血して、ぷくりと膨れた姿はまるで吐精寸前の様だ。実際、今の乳首は精液ならぬ母乳を、じわじわと零している。
「ほら、イケよ」
「やっ、ぁ……っ」
 阿部の性器が、ビクビクと跳ねた。と、榛名の腹に温かい感触がぶつかってくる。手で触ると、どろり、とねばっこい液体が付いていた。
 その精液をこれ見よがしに舐め取りながら、様子を窺う。屈辱的だったのだろう、甘い声を漏らしたとは思えない、無念そうな涙目で、阿部は横を向いていた。普通なら榛名に回される手も、今日はシーツを掴んでいる。
「お前、恥ずかしくねーの?」
だがそれが、いっそう嗜虐心を煽る。
「オトコの癖にさあ、乳首舐められてイくとか」
本当に、隆也は。天才的なまでに榛名の心を刺激する。
「だらだらミルク垂らしてるだけでも、エロイっつうのに」
 それほどまでに言われても、阿部はそっぽを向くだけだった。
「ほら、指舐めろよ」
「……うる、せ」
「は? テメエの為に言ってんだぜ?」
「うる、さい」
「今度はケツだけでイかせて――」
「うるせえよ」
言葉は端的に榛名を拒否するものの、それでも怒気塗れの罵声を浴びせる普段よりは、かなり大人しい。怒りよりも羞恥が勝っているのだ。
 その態度に、榛名は股間にツン、とした痛みを感じた。実際、もう既にちょっとの刺激で達せそうなぐらい、榛名は欲望を滾らせていた。このままだと、もしかしたら言葉だけで達せるかもしれない。
 それよりは隆也のナカの方がどれだけいいか。榛名は舐めるように、阿部の上半身を見回した。しっかりとベッドシーツを握る両手も、涙の跡が僅かに残る目尻も、固く閉じられた口も、どれも榛名に協力する気は更々無いらしい。だけれども、身体の方はそれなりに榛名を求めるつもりらしく、ぷっくら膨らんだ乳首は、相変わらず吸って欲しげに色づいている。
「舐める気は、ねェんだな?」
その時浮かんだアイデアを確かめる前に、榛名は敢えて、もう一度聞いた。返事は予想通りで、違ったことはと言えば、もう言葉すら出さず、黙って横を向いているだけ、ということだ。
 ククク、と喉から上機嫌な声が漏れる。多分そうしたって榛名が諦めないことは、隆也も理解している筈だ。それでも、ただ感情のままに拒絶する。もっと酷いことになるとも知らずに。榛名は左手の指先を乳首に押し付けた。生温い母乳が、綺麗に調えられた指先を濡らしていく。そうして、何とか潤いを得た指を、先走りと精液とで水分を持つ後孔へ、ズプリ、と挿れようとした。強張る身体は容易に受け付けないけれども、くにくにと穴の周りを押してやれば、不意に熱い肉壁に包まれる。
「ちょっ、アンタ、やめっ」
「いいくせに」
 流石に声を上げるのも軽くあしらって、そのまま指を進める。潤い少ない内部は、中学時代と変わらない様なキツさで、きゅうきゅうと指先を締め付ける。
「ほら、お前のナカ、喜んでる」
「ちが……」
「違わねェよ」
食ってかかりそうになるのも、右指で胸の突起を摘むと、艶めいた呻きと視線という、誘いの動きにしかならない。
「アナに指突っ込まれて、感じてんだろ?」
露骨な言葉で煽ってやれば、ギリ、と歯を食いしばって、胸の快感を乗り越えた反感の眼差しが来る。けれども、それとは裏腹に、阿部の後孔は異物を飲み込んで嬉しそうに蠢いているし、乳首から絞られた母乳は、右手を濡らしていた。
 その右手で、榛名は左手に更に濡らす。潤いとしてはやはり不充分だけれども、隆也の母乳を潤滑液にするというのは、性欲を酷く刺激する。そのまま二本目をねじ込むと、くぅ、と隆也の目が閉じられたが、苦しそうな息も、最早阿部に関わる全てが、榛名を煽って止まない。
「あー、悪ぃ」
「なに、今更……」
「もう我慢出来ねぇ」
 まだ二本目の指もギチギチなのに、まして久方の隆也にはち切れそうな榛名の欲望相手とは、流石に些か罪悪感が湧く。身体を痛めつけたいという訳でもないのだ。ただ、もう限界だった。指を抜くと、そこにすかさず先端をめり込ませようとする。思わず入る力に、ギシリとベッドが軋んだ。
「力、抜け」
「やっ、モトキ、さん、ムリっ」
 否定的でありながら、甘い媚びを含む声。それは痛みを避ける為の、無意識のものであったが、今の榛名にとっては余りにも強烈すぎた。脳内に、ズキンと痺れが走る。咄嗟に我慢しようとしたものの、そこで隆也の内壁が、飲み込んだ分だけでもと絡みついてくる。あ、あ、と、榛名は勝手に声を出していた。ドロドロの精液が、阿部の尻を汚していく。大半は阿部の中に吸い込まれたが、一部は後孔から零れ、桃色の秘所の周りに、白い色を添えた。

 不思議に熱い感触に、阿部は緊張してぼんやりとした頭で榛名を見た。と、力んでいた身体から、力が抜ける。呆気に取られた顔が、そこには在った。
「折角……隆也と……」
その声は、果たして意地悪く自分を苛んだものと同じなのかと疑ってしまう位に、しょんぼりと、泣きそうな風だった。
「何やってんスか、元希さん」
「う、うるせー」
その様子に、プッと阿部は吹き出す。ぬるぬるとした感触も気にならない位、おかしい。
「早いですね、随分」
「オレァ連射が効くんだよ!」
誤魔化す様な物言いに、益々阿部は笑いたくなる。それと同時に、気が付けば、羞恥による怒りはすっかり消えていた。榛名の早漏を見ると、もう意地を張る気にもなれない。
(ったく、しょうがねェなあ……)
 阿部はベッドを掴んでいた手を離すと、悔しそうな榛名の頬に、そっと触れた。
「じゃあ早く見せてください」
そう言って、そのまま首に手を回す。それだけで充分だということは、分かり切っていた。

 確かに、榛名にはそれ以上いらなかった。よく分からないが、隆也の機嫌はどうやら直ったらしく、見つめる視線も、艶は同じだがどうも優しい。これはこれで、大変気分がよい。喜んで自分を受け入れる姿は、征服欲を満足させてくれる。少なくとも、思わぬ誤射で傷ついた自尊心を癒す位には、満たされた。
「じゃあ、挿れるぞ」
「今度はもう少し持たせてくださいよ」
「テメッ……!」
フン、と笑う隆也の目は、意識して挑戦的で。それに素直に乗ると、榛名はグッと力を込めた。先程の精液が助けになって、最初よりは順調に抉れるものの、それでも解れきっていない阿部の内部は、どちらかと言えば本人にとっては苦痛しか感じないようで、はっ、と吐く息は、切羽詰まっている。
 背中に回された手が、榛名の背中にガッチリと爪を食い込ませた。割と几帳面な阿部が、まして子供がいるからと、常に短く切っているその爪さえ、深々と刺さる。それでも、痛みは感じない。そんなものを感じる暇がないのだ。それよりも、目も眩まんばかりの刺激で、頭がいっぱいだった。一体何度精を放ったか分からない隆也の後孔は、それなのに、まるで初めて体験したかの様に、鮮やかな悦びを榛名に与える。吐精直後で余裕が有る筈なのに、もう榛名は身体の奥がキュウっとして、一気に欲望を放ちたい衝動に駆られた。
 榛名は首を振って耐えると、阿部の喉元に口を寄せる。そのまま軽く歯を立てると、や、という声が一際高くなった。
「も、や、あっ……」
「嫌、なのかよ」
「ちが、きもち、いっ」
普段とは打って変わった素直な返事に、だらしなく開けられた口へ、褒美のキスを榛名は与える。零れる唾液を舐め取って、そのまま今度は隆也に自分の唾液を下ろす。すると、躊躇いもなく喉はこくん、と動いた。その従順さが嬉しくて、今度は頬を甘噛する。腰の欲望で穿ちながら、鼻、額と顔のあちこちに、歯形とキスマークとを残していく。正気なら雷の一本でも落ちる所だが、今この時だけは、ひゃあっ、という甘い嬌声だけが出てくる。眉さえ舐めたのに、寧ろ、ねだる様に腰を揺らされた。
「タカヤ」
 優しく出そうとした声は少し上擦っていて、我ながら余裕がない。それでも、モトキさん、と呼び返す声は同じく熱に充ち満ちているから、何度も呼んでやる。タカヤ、タカヤと、呼ぶ度に自分の中でも熱が反射して大きくなっていく。
「モトキ、さっ……あっ……!」
 先に達したのは、阿部だった。貫かれる苦痛を感じながらも、それ以上の快感を、もうその身は知ってしまっていた。触れられてもいないのに、性器はビクンと震えて、欲望の証を零していく。切ない様な、頭が真っ白な目が、榛名をぼんやりと見ていた。それに反して肉壁は却って激しく榛名に絡み付く。しがみつく隆也以上に、ナカは榛名の性器にしがみついて離れない。
 哀願するかの如き声を聞きながらの刺激に、耐えられるはずもなく、二度目の吐精も亦呆気無いものだった。腕から力が不意に抜けて、阿部の上にのし掛かりながら、榛名は心地良い開放感に全てを委ねる。跳ねているのが分かる程に、勢いがよい。緩慢に腰を打ち付けながら、そのまま最後の一滴まで隆也の中に注ぎ込んだ。


 射精直後は気怠くて、そして全てが菓子の様に甘い。ぐぷり、と音を立てながら、榛名は自身を引き抜くと、そのまま隣に寝転んだ。快い疲労は、譬えて言うなら極々好調な投球のそれに近い。
「また出来るかもなァ」
その気分に任せたまま、榛名はケラケラと脳天気に言い放つ。隆也のナカは、二回の射精でかなりいっぱいだった。
「そうですね……」
その返事は、疲れによって物憂い様子ではあるが、決して厭う風ではなく、寧ろ嬉しそうな色を多分に滲ませている。それが少し意外で、いいのかよ、とつい聞き返してしまった。
「元希さんは、嫌なんですか」
「まさか!」
阿部の声は閨の睦言に相応しい、落ち着いたもので、それだけに大慌てで否定する。変な誤解はして欲しくない。
「オレは野球チーム作りたいんだっつーの」
抱き寄せながらそう囁くと、阿部の顔が綻ぶ。そして、オレもです、と榛名の胸に顔を擦り寄せながら、呟いた。
「あと七人だな」
「アンタ、人数ギリギリで試合するつもりですか」
「はっ?」
「控えもいるでしょ」
せめて十人、と言う阿部は、本気なのかどうなのか。愉快でしょうがない、といった顔だった。
 その顔に、榛名の股間が、健やかに育っていく。
「……元希、さん」
熱い刺激に、阿部はそっと名前を呼ぶ。
「したいんですよね」
けれども、続く言葉は咎め立てではなく、言外に含まれているのは、寧ろ催促であった。榛名は、それに頷きもせず、阿部の上に覆い被さる。折角のお誘いには、もう返事さえもまどろっこしかった。





平成二十年戊子六月四日公開