史上最高のバツゲーム−番外編− 〜 おまけ 〜 マンションに帰るまでの時間さえも耐えられないと言って、優哉はすぐ近くにあったラブホテルへと足を向けた。 平日の、まだ夜の8時前だというのに、花火の関係からか満室に近い状態で。 花火も見ずに何やってんだ。なんて、自分のことは棚にあげて思ったりして。 優哉は2つ空いている内の一つを選ぶと、私の手を引いて少し足早に歩く。 途中、履きなれていない下駄のせいで、鼻緒の部分が擦れて赤くなっていると訴えると、僕が連れていってあげる。と言って、優哉が軽々と私の体を横向きに抱き上げてしまった。 同じ目線になった優哉との顔の距離。 その間近に見える優哉の表情に、少し余裕がないように思うのは気のせいだろうか。 部屋に着くとそのままベッドまで運ばれて、優哉は私を静かにその上におろすと、すぐに覆いかぶさってくる。 「優哉…」 そう呼んだ返事の代わりに、優哉の心地よい唇が重なる。 最初から苦しいほどの深く熱いキスに、一気に私の体が火照りだす。 自分の口内奥深くで絡みついてくる舌の感触。 息継ぎもままならない状態で繰り返される激しいキスに、さすがに新鮮な空気を求めたくなった。 「ゆぅ…やっ…んっ…くる、しっ…」 優哉の体をそっと押しあげ、僅かにあいた隙間から体内に空気を取り入れながら掠れた声で訴える。 だけど、優哉は真っ直ぐに視線を返してきただけで、すぐさま私の体を強く抱き寄せ再び唇を奪い取った。 こんなに激しいキスは、初めて気持ちが通い合ったあのライブの日以来だろうか。 いや…それ以上かもしれない。 瞬く間に思考回路が奪われて、頭の中が真っ白になっていく。 官能的だからとか、魅惑的だからとかじゃない。 そう、これは… 多分、酸欠。 このままでは本気で窒息死してしまう。 私の体が危険信号を発して、先ほどより強い力で優哉の体を押し返す。 つーっと、互いの唇から銀色の糸が伸びて切れた。 「ゆう…や。死ん、じゃう…って…」 肩で息をしながら、途切れ途切れに言葉を発す。 優哉のほうも肩で息をしながら、少しバツが悪そうに、…ごめん。と、小さく呟いた。 「自分が…抑えられない…」 「ゆうや…」 「ごめん…捺。捺のこととなると、本当に余裕がなくなる。過去の彼氏に嫉妬するほど、僕は捺に溺れてるから…」 「嫉妬って…私はあいつのことを何とも思ってないのに?本気で好きになったのは、優哉が初めてなのに?」 「言ったよね…あいつが捺に触れてたんだと思うと無性に腹が立ってくるって。どんな形であれ、捺と関係があったって事実が、嫌…なんだ」 ―――そんな…。と、言いかけた私の言葉を、わかってる。という優哉の言葉が遮る。 「言ってること無茶苦茶だって…。自分だってそういうことがあったくせに何言ってるんだって感じだよね。だけど、これが今の僕の気持ち。過去さえも自分のものにしたいと思ってる…。捺の全てを――心も身体も…過去も全部」 「優哉…」 「それぐらい僕は捺が好き…好きで好きでどうしようもなくて、捺の気持ちが伴っていないとわかっていても、今日みたいに昔のオトコが現れると正気でいられなくなる。さっき、怒ってるのかって聞かれて、すごく怒ってるって答えたけど…ただ単に嫉妬で狂ってただけだから…」 ごめんね、怒ってるなんて言って。と、頬を撫でながら言われて、私は静かに首を横に振る。 正直言って、先ほどの機嫌の悪さにはどうしたらいいのか不安にもなったけど、怒ってるわけじゃないんだってわかってホッとした。 逆に、改めて優哉の気持ちの深さが知れて嬉しかったりするかもしれない。 こんなにも私を好きでいてくれるんだって思うと…。 「私も、逆の立場ならきっと同じことを言ってると思う。優哉の心も身体も過去もこれからの未来も全部全部、私で染まればいいのにって……」 「捺…」 「私だってできることなら、過去を消して欲しい。何も考えず、バカなことをしていた頃の私を全部。優哉がハジメテだったらよかったのにって何度も思う…興味本位で体を許してたことを恥ずかしく思う。ごめんね、ホントにバカだったよね。だから、いいよ?」 「……え?」 「思いっきり、めちゃくちゃにして…」 「捺…」 「優哉の気の済むように、優哉の機嫌が直るまで…」 「いいの?本気にするよ?」 熱い視線を向けられて、私は返事の代わりに優哉の首に腕をまわし、自ら引き寄せて唇を重ねた。 先ほどよりは、少し控えめの激しいキス。 適度に酸素吸入を加えた吐息交じりのキスは、いやらしいほどに部屋に響く。 「捺?…過去を消すことはできないけど…思い出せないくらい捺の中を僕でいっぱいにしてあげる…」 「ゆう…や…」 「だから…捺も僕の中を満たしてよ。今以上に、もっともっと捺で溺れさせて…」 優哉の唇が、私の唇から離れて首筋を伝う。 ゾクゾクッとした肌の痺れとともに、私の口から吐息交じりの声が洩れる。 「んっ…満たしてあげる。今の私を全部優哉にあげる…この先の私も全部…過去なんて薄れちゃうぐらい。だから優哉も…前の彼女のこと…思い出さないで…」 「もう、とっくに思い出せないよ…僕には捺しかいないから…」 「私だって…」 ギュッとお互いに強く体を抱きしめあい、再び唇を重ねて強く吸いあう。 溺れてしまいそうなほどの甘い空間に、私はもう、何も考えられなかった。 部屋には、私の口から漏れる吐息と、時折優哉の口から吐き出される色っぽい息遣いだけが聞こえている。 汗ばんだ肌が直に触れ合い、お互いの体を更に火照らせる。 優哉はゆっくりと時間をかけて、私の体の隅々にまで唇を這わせ、指を滑らせていく。 充分すぎるほどの愛撫…だけど、イキそうなのにイかせてもらえない、気が狂いそうなほどの刺激に、私の意識は快楽を求めつつ半分飛びかけていた。 めちゃくちゃにして… 激しく攻められるよりも、ある意味こうしてじっくり時間をかけて攻められるほうが、おかしくなりそうだった。 「ゆうやっ…イヤっ…も、ダメ…おかしくなっちゃうっ…」 「いいよ…もっとおかしくなって…もっと乱れてよ…」 「いやっぁ…お願い…もう…」 イカせて欲しい… 絶え間なく続く緩い刺激に、意識が朦朧とする。 果てを求めて体が疼き、肌全体が性感帯になったように、触れられた場所が敏感に反応を示す。 懇願するように優哉を見つめると、この上なく艶っぽく色っぽい表情で、彼が見つめ返してきた。 「凄くそそられる…捺のその表情(かお)。欲しい?僕のが…」 いつもより数倍色っぽく聞こえる、少し掠れた優哉の囁き声。 それさえも刺激となって、私の肌を痺れさせる。 「欲しい…今すぐ優哉が欲しいの…お願い…もう、限界…」 「僕ももう…限界…」 ――――今すぐ捺の中に入りたい。 熱い息を吹きかけるように、耳元に唇を寄せて囁かれる。 ビクッと体が震え、そこからゾクゾクッと全身に痺れが走った。 優哉は自分の財布から取り出して枕元に置いといたゴムを取ると、素早く準備を済ませる。 そして、充分すぎるほど潤った秘部に先端を押しあて、ぐぐっと腰を落として中に入ってきた。 「んあぁっ!!」 待ちわびていた存在に、私の体が弓なりに仰け反る。 そのあいた隙間に腕を差し入れ、優哉は私の体を少し起こすと、自分の腕で体を支えるようにと指示をしてくる。 言われた通り、体の少し後ろの位置でベッドに両肘をついて自分の体を支えると、優哉が私の両膝を持って、グッと大きく脚を押し開いた。 「見える?…僕のが捺の中にっ…入っていくの…」 「みえ、るっ…んっ!あっ、あっ…んっ…優哉のがっ…私の中に…入ってくるっう!」 最大級の存在が、ゆっくりと私の中に押し進んでいくのが、この体勢だと自分の目からもハッキリと見えてしまう。 かなりリアルな映像。 視覚と感覚と、優哉が動くたびにそこから漏れる卑猥な水音に、聴覚までも刺激される。 「僕からもっ…見えるよ…捺の中に…僕のが入っていくのが…気持ちいい?…捺っ」 優哉はワザと見せ付けるように、グッと私の脚を押し開いたまま、ゆっくりと出入りを繰り返す。 くちゅっ…くちゅっ…。と、動きにあわせて漏れる間隔のあいた水音。 視界に映るその生々しい様子に煽られるように、私の中から更に熱い蜜が溢れ出す。 「んっ…あんっ…気持ち、いい…」 だけど、少し物足りない… 散々焦らされ、イカせてもらえなかった体は、もっと強い刺激を求めている。 優哉はきっとそれに気付いてる。 確証はないけど、なんとなく優哉の表情を見てそう感じた。 ……意地悪しないでよ、優哉。 私は溜まらず体を起こして腕を伸ばすと、優哉の首の後ろにそれをまわし、彼の腰の上に座るように、自分の腰を落とした。 ググッと更に深く入り込んでくる優哉の存在。 思わず顎があがり、吐息が漏れてしまう。 「はぁっん!!」 「んぁっ…ック!…な、つ?」 「もっ…お願い。限界なのっ…優哉ので、イカせて?」 「なつ…んっ!」 優哉の頭を抱え込み、自ら唇を重ねて彼の舌を絡め取る。 こんなに自分から求めたのは初めてかもしれない。 そう、少し恥じらいを感じながらも、それでも自分を抑えられなかった。 少し戸惑いを見せた優哉も、すぐに私の体に腕をまわして強く抱きしめてくると、同じように舌を絡ませ、唇を強く吸い上げてくる。 お互いの唇を吸いあう音を聞かせながら、徐々に腰を打つリズムが早くなっていく。 「あぁっ…あぁんっ…優哉っ…もっと!…はぅんっ…もっとぉっ!!」 「捺っ…くっ…ぁっ…あっ…くぁっ…なつっ…んっ…」 優哉の体にしがみ付くように腕に力を入れて、彼の耳元でもっとと喘ぐ。 優哉も私の体を強く抱きしめ、胸元に顔を埋めて荒く息を吐き出しながら、下から激しく中を突きあげてきた。 徐々に痺れ出す私の肌。 急激に襲い掛かってくる快楽の波。 「あぁぁっ…優哉っ…イクっ…イクぅっ…あぁああん、いあぁっ!!」 「あぁっ!捺っ…捺っ…僕、もっ…いっイクッ…っ」 優哉は繋がったまま体勢を変え、私をベッドに組み敷き上から覆いかぶさってくると、両膝を抱えあげて更に激しく中を突いてきた。 揺さぶられる身体、激しく軋むベッド。 私は優哉にしがみ付いたまま、身体を仰け反らせ、半分意識を手放しながら果てを迎えた。 同じくして果てを迎えた優哉は何度か出入りを繰り返したあと、色っぽく息を吐き出しながら私に身体を預けてくる。 荒く吐き出される優哉の息が、直(じか)に私の耳に吹きかかる。 それを少しくすぐったく思いながら、私は優哉の汗ばんだ身体を愛しげに抱きしめた。 「優哉…大好き…」 「僕も…捺が大好きだよ…」 少し顔をあげて視線を絡ませてくると、綺麗な笑みを浮かべた優哉が、軽く啄ばむようにキスをしてくる。 同じように優哉の唇を啄ばみながらキスを返し、また見つめあって一緒になって笑みを浮かべた。 「今日の捺、すごく大胆…」 ゴロンとベッドに横たわり、顔だけをこちらに向けて、優哉がからかうような笑みを見せる。 それに少しだけ拗ねたような表情を浮かべて、私は口を尖らせた。 「だって、優哉が意地悪するんだもん」 「クスクス…そう?でも、たまにはこんな大胆な捺もいいかも?」 素に戻ると私は恥ずかしいから嫌かも…。 自分の行動を思い返し、若干頬を紅く染めながら恨めしげに優哉を見ると、私が何を思ったのか分かったようで、可愛い捺。と、また笑われた。 なんかちょっと悔しい。 だから、反撃の意味も込めて、今日は大胆な私を貫くことに決めた。 それが自分の首を絞めることになるとは気付かずに。 「ねぇ、優哉…気持ちよかった?」 「うん、もの凄く。いつも以上に激しかった気がするから…暫く動けないかも」 「ダメよ」 「……え?」 「休ませてなんてあげない…1回で終わると思ってる?」 「なつ…?」 「もっと私の中を優哉でいっぱいにして?もっともっと優哉が欲しい」 ――――ごめん、今日はさすがにもう無理かも…。 先ほどの激しさを考えて、そう返ってくるだろうことを見込んで言った言葉だったのに… 優哉は少しだけ体を起こして、私の顔を覗きこんでくると、 「捺…本気で言ってるの?」 と、意外にも熱い眼差しを向けてきた。 ………なんとなく、墓穴掘ったか? いつもの優哉のタフネスさを考えると、結果は目に見えていたのに。 浅はかな考えだけで行動に移してしまった自分に嫌気が差してくる。 私ってば本気でバカかもしれないと、自分に対して深いため息も漏れた。 「あ、いや…疲れたなら無理にとは言わないけど…」 「疲れた…なんて、僕が言うと思う?」 思いません…。 「捺の要望には応えてあげなきゃね?僕の全身全霊を込めて」 いや、別に応えてもらわなくてもいいですけど…。 しかも、全身全霊を込めてだなんて…そんな、怖ろしい事言わないでよーっ!! 「捺が言ったんだからね?僕がもっと欲しいって…だから、覚悟して受け取ってね?」 形勢逆転…っていうか。いつものパターンじゃんっ。 いや、今日は更に状況が悪いかもしれない。 優哉の闘志に火をつけてしまったようなものだもん。他でもないこの私がっ(涙) 「これからもう一回して、僕の家に帰ってからもたっぷり僕をあげるからね?」 「あ、えっ?はっ??」 「クスクス…今日は寝かせてあげない」 自分の蒔いた種に泣きそうな表情を浮かべている私を見て、勝ち誇ったように笑みを見せる優哉。 絶対、してやったりって思われてる。 あーん、もう。なんで私はあんなこと言ったんだーっ!! 私ってば大バカヤローっ!!! 最低な元彼の出現で、少し重めの空気になっていたことも、この時にはもうすっかりと忘れて元通りの雰囲気になっていた私たち。 そして同時に、今日が花火大会で、私が浴衣を着せてもらって来たことも… すっかり忘れてしまっていることに気付くのは、もう少し経ってからだった。 ++ FIN ++ →ちょこっとあとがき 相変わらずですか、優哉(苦笑) でも、今回はちょびっと捺が大胆かな?と思ったんですが、いかがでしょ。 えちぃのも割と軽めかなぁ。なんて(ぇ 最近感覚が麻痺って、エロいのか緩いのか判断ができません(重症) いや、でも。今回のはおまけなんで緩い…ハズ キュンキュン(笑)な、内容ではありませんが…ちょっぴりムラムラしていただけたら嬉しいかなと思います(何 さて…捺は一体どうやって浴衣を着て帰ったんでしょうかね(笑 あ、でも。最近のラブホって着付けとかのサービスがあったりするんでしたっけ? だったら、浴衣とかもサービスで着せてもらえたりするのかしら… もー、随分とそういう場所へ行ってないのでわかんねーっ!! 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