<ご注意>こちらの作品は、性的描写が含まれております。 申し訳ございませんが、18歳未満の方、そういった表現が苦手な方は、ご遠慮ください。 あい*あむ☆ますこっとがーる「 」私の手を引いて、先輩は寂れた路地裏をどんどん奥へ進んでいく。 人気のないこの道はとても静かで、二人の足音だけが響いていた。 先輩はあれから何も喋らない。 私も何となく喋りかけることが出来ずに無言で歩くだけだった。 そうして暫く先輩について歩いていると、視界の先に一人の女性が壁際に佇んでいるのが映る。 遠目でもわかるスタイルの良さと、彼女を纏う華やかさ。 きっと綺麗なひとなんだろうと想像がつく。 もしかして、あの女性(ひと)が先輩の言っていた最後の一人? そう思ったと同時に先輩にギュッと手を強く握り締められた。 「行くぞ……」 そう言った先輩の声が心なしか硬いように感じる。 思わず私もゴクリと息を呑んでしまった。 「どんなに俺が情けない姿を見せても、絶対に目を逸らすなよ」 先輩は前を向いたままボソッと呟いて、ゆっくりとそのひとに近づいていく。 私たちの気配を感じたのか彼女がふと顔をこちらに向けて、かけていたサングラスを外した。 女の私でも一瞬息を呑んでしまうほど美しい顔。 でもその顔を見た瞬間、なぜか妙な感覚に陥った。 あれ……このひと、どこかで会ったことがあるような? どこだったかなぁ。気のせいかなぁ。 でも、絶対どこかで見たことがある気がするんだけどなぁ。どこだったっけ……ん〜、思い出せない。 それにしても、このひと尋常じゃなく美人だ。 長身の先輩とそう変わらない背丈だし、スタイルも抜群にいい。 今は地味でラフな格好だからあれだけど、これで着飾ればきっと芸能人とかモデルでも通用すると思……モデル……ん、モデル?! ああぁっ! わかった!! そうだっ。このひと、モデルの舞華(まいか)だっ!! 今やこのひとを見ない日はないというぐらい、テレビや雑誌に出まくっている超有名人!! 目深にかぶった帽子に地味な服装とナチュラルなメイクだからすぐにわからなかったけど、絶対舞華に間違いない!! 私の好きなモデルさんだし、ここまで綺麗でスタイルが良いソックリさんなんてきっといないもん。 それに本人だからこそこんな人目を忍ぶような場所で会うんだろうし。 うわぁ、信じられない。モデルの舞華と蒼斗先輩が? ……うわっ。うわぁっ。うわぁぁっ!!! 驚きと興奮で目を見開く私を、舞華は決してテレビや雑誌では見せない冷めた表情で一瞥してからそれを蒼斗先輩に移す。 そして透き通るような綺麗な声で言った。 「久しぶりに会うって言うのに随分な挨拶ね。女連れ?」 「あぁ、まあな」 「ロスで仕事だったからすぐに帰って来られなかったんだけど、メールを見てびっくりしたわ。どういうこと? 関係を終わりにしたいだなんて」 「まんまの意味だよ」 「それってもしかして、その子のためって事?」 「あぁ、そうだ」 「アハッ! まさか、冗談でしょ?」 「いや、本気」 「ちょっと待ってよ、意味がわからない。どうして私が切られなきゃいけないの? その子と私ならどう考えたって手元に残すのは私でしょう? なんでよりによってこんな地味な子なのよ」 「俺もそう思うよ。なんでコイツなんだってな。だけど、仕方ねえじゃん……本気になっちまったんだから」 二人同時に視線を向けられて、思わず自分の視線が泳ぐ。 先輩は私に向かって優しく微笑み、舞華は鋭く睨みつける。 この対照的なものに私の表情は複雑だった。 「本気って……私は今まで色んな危険を冒してまであなたに会いに来てたのよ? それくらい本気なの。本気で蒼斗の事を好きなの。あなたは遊びのつもりで私の他にも何人もの女と関係していることも知っていたけれど、いつか私だけを見てくれるって信じて我慢してたのよ。あなただってそれくらい気づいていたはずよ。なのに、どうしてこうなるの? なんなの、この仕打ち!」 「それは、悪いと思ってる……ごめん」 「ごめん? そんな簡単な言葉で片付けないでよ! 今日だってどんな思いでここに来たか、どんな思いであなたを待っていたかわかる?!」 「まあ……なんとなくは」 「わかるわけないわよ、あなたには! 許さない……蒼斗も、そして私から蒼斗を奪おうとするあなたも!!」 舞華はそう言ってキッと私をまた睨みつける。 その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいるのが見えて居た堪れない気持ちになった。 何も言えずに俯く私を庇うように、先輩がスッと前に立って舞華と私の間を遮断する。 そして静かな声できっぱりと言った。 「俺が、コイツに本気で惚れたんだ。だから悪い……もう、終わりにしてくれ」 「…………!!」 「最後まで好き勝手やって、あんたの気持ちを弄ぶようなことをして本当に申し訳なかったと思ってる。どれだけ謝っても許されない事をしたってわかっているし、許してもらおうなんて都合のいいことも思ってない。ただ俺は、里悠のためにたった一人の存在になってやりたい。それだけなんだ。だから、こうしてあんたを呼び出した。最後の一人と関係を切るために」 「里悠……ね。今まで私の事を名前で呼んだことなんてなかったくせに、その子の事は愛しげに名前で呼ぶのね。あなた、どこまで残酷なのよ……」 そう言って舞華は自嘲気味に笑う。 蒼斗先輩はただ黙って何も言い返さなかった。 「ねえ、蒼斗。あなたがその子に本気なように、私だってあなたに本気なのよ? その私の気持ちはどうなるの?」 「あんたは強い女だ。地位も名誉もすでに持ってるし、俺以上の男も周りに腐るほどいるはずだ。俺なんかいなくてもやっていけるだろ? でも、コイツは違う。俺がいなきゃダメなんだ……いや、違うな。俺がコイツじゃなきゃダメなんだ。俺には里悠が必要なんだよ」 「この子があなたに必要? どこが? いたってどこにでもいる平凡な子じゃない。それこそ周りに腐るほどいるタイプだわ。この子の何があなたに必要なのかわからない。私といるほうがよっぽど得るものが多いと思うけど」 「全てだよ」 「え……」 「確かにこの手のタイプは腐るほどいるだろうよ。でも、志筑里悠はこの世にたった一人しかいない。だから、里悠の全てが俺には必要なんだよ。俺を惑わせるのも熱くさせるのも、コイツ以外にはいないから」 先輩はそう言って私を見つめ、繋いだ手をギュッと握り締める。 見つめ返す私の視界の隅に、屈辱に顔を歪める舞華の姿がチラリと映った。 「そうやって見せ付けるために一緒に来たってわけ? どれだけ私を傷つけているか、あなたわかってるの?!」 「わかってる。でも、見せ付けるためにコイツを連れてきたわけじゃない。俺の全てを見せるために連れてきたんだ」 「全て?」 「あぁ。俺がどれだけ本気かってわからせるためにな。超鈍感女だから、コイツ」 「なにそれ。どっちにしたって屈辱だわ。私はピエロになるためにここに来たわけじゃないのよ! ねえ、蒼斗。もう一度よく考えてみて? どう考えたって私のほうがいいでしょう?」 「そうだな。確かにあんたのほうが何百倍もいい女って言うだろうな……俺以外のオトコは」 「…………ッ!?」 「悪いけど、何を言われても俺の気持ちは変わらない。だから、関係を終わらせてくれ……頼む」 先輩は静かにそう言うと、繋いでいた手を離してゆっくりと舞華に向かって頭を下げる。 今まで先輩の影になっていた舞華の姿がハッキリと目の前に現れた。 端整な顔立ちが複雑に歪み、唇がわなわなと怒りで震えているのがわかる。 まるで燃え盛る炎の中にいるような錯覚に陥りそうだった。 「それで済むと思ってるの?」 「…………」 「ただ頭を下げるだけで、済まされると思ってるわけ?!」 「…………」 「……土下座しなさいよ」 「…………」 「今すぐここで土下座して謝ってよ! その子の前で、私に跪いて許しを請いなさいよ!! プライドの高いあなたにそんな事が出来る? 女に跪くなんて事、あなたに出来るわけないわよね。でも、あなたはそれくらい私のプライドを傷つけたのよ、わかってる?!」 舞華の綺麗な声が怒りで震えている。 ギュッと拳を握り締め、更に湧き上がる怒りを必死で押さえ込んでいる。 私はこの状況に呼吸をすることすら忘れたように、じっと固唾を呑んで見守ることしか出来なかった。 「わかった」 先輩は短くそう言って、舞華と私の見ている間でゆっくりと地面に膝をつく。 そして両手をも地面につけると、そのまま舞華に向かって深々と頭を下げた。 「今までのこと、許してくれなんて言わない。でも、本当に悪かったと思ってる。その事に気づけたのも、そう思えるようになったのも里悠のお陰なんだ。俺は、里悠のたった一人の存在になってやりたい。だから関係を終わらせてくれ……頼む」 「なっ……」 「…………っ?!」 私と舞華の目が同時に大きく見開かれる。 二人とも驚きで暫く声が出せなかった。 ――――先輩が土下座をしてる? 私のために? 私のたった一人の存在になってやりたいって……先輩……。 「本気なんだ、俺。初めて本気で惚れたんだ……だから……」 「……だから、なに? 知らないわよ、そんなこと」 「…………」 「あなたが誰に本気かなんて聞きたくない。私に対して謝ってって言ってるの。私の心とカラダを弄んでおいて、こんなもので済まされると思うの?! 悪かったって、もっと謝ってよ! もっと頭を下げて謝りなさいよ!! もっと、もっと謝ってよ!!!」 舞華は声を震わせながら、踵の高いピンヒールを蒼斗先輩の肩に押し付ける。 何もそこまでとびっくりして止めようとした私を、先輩は声を張って制止した。 「里悠、何もすんなっ!」 「でっ、でもっ」 「言ったろ、ケジメをつけるって。俺が今までやってきた事を考えたらこれくらいされて当然だろ? だから、里悠は何もするな。そこで大人しくしてろ」 その言葉に私は黙り込み、舞華は踏みつけていた足を外すとそのまま力なく地面に泣き崩れた。 「なんなのよ、もうっ! りゆ、りゆって、どこまで私をバカにすれば気が済むの?! なんで私が……なんでなのよっ!!」 「……悪かった」 「悪いなんて思ってないくせに! 土下座もその子のためじゃないっ!! バカにしないでよっ!!!」 「…………俺が悪かった」 「最低。あんたなんか、サイテーよっ!! 女をなんだと思ってるの! 勝手ばっか言わないでよ、バカッ!!!」 「……ごめん。俺が悪かった。本当にごめん」 言葉にならない声を出し、舞華が顔を覆って泣き続ける。 その度に頭を下げたままの先輩は、くぐもった声で謝り続けた。 正直、複雑な気持ちだった。 同じように先輩を愛し、一途に思ってきた舞華。 その思いが痛いほどわかるだけに、私はただ黙って見ている事しか出来なかった。 もしかしたら、今ここでこうして泣いているのは私だったかもしれない……そう思うと余計に。 暫く声をあげて泣いていた舞華だったけれど、少し落ち着いてきたのか鼻を啜りはじめる。 ようやくそこで先輩が顔をあげ、ゆっくりと立ち上がると舞華に歩み寄り腕を取った。 先輩に引き上げられるように立ち上がった舞華は、立ったと同時に先輩の手を振り払う。 そして先輩の顔は見ずに涙声のまま冷たく言い放った。 「触らないで! 最後の情けでもかけるつもり?」 「……悪い」 「悪いなんて本気で思ってないくせに。あなたの頭の中は、その子の事でいっぱいなんでしょう?」 「…………あぁ、基本はな。でも、今はあんたに対して本気で悪かったって思ってる」 「フッ……もう、どうでもいいわ。なんかバカらしくなってきた……その子とオママゴトでも何でもすればいいじゃない。あなたみたいな最低なオトコ、こっちから願い下げよ」 「…………」 「ふぅ……いいわ。あなたのお望みどおり関係を切ってあげる。その代わり、何があっても二度と私に近づかないで」 「あぁ、わかってる。あんたとはもう二度と会わない」 「後悔しても知らないから……逃がした魚は大きいわよ?」 「里悠よりデカイ魚はいねえよ……」 そう先輩が言った途端、パンッと大きな乾いた音と共に先輩の顔が横に弾かれる。 舞華が先輩の頬を平手打ちしたのだとわかったのは、そのすぐあとだった。 「ホント、サイテーな男。地獄に堕ちればいい」 そう言い残して、舞華は再びサングラスをかけるとここから去っていった。 サングラス越しに私を睨みつけながら。 「……ってぇ」 舞華が立ち去るのを見送ってから、先輩はそう小さく呟いて頬を擦る。 私はこの出来事がまるで夢だったような感覚で、少し頭の中がボーっとしていた。 「あの……だっ、大丈夫ですか?」 「アイツ、本気で殴っていきやがった……まあ、当然だけど」 「せんぱい……」 「はぁ……お前を手に入れるのも楽じゃねえな。ある意味、自分が今まで女に対してどんな振る舞いをしてきたかを身を持って知れたけど」 先輩はそう言って苦笑を漏らしながら、近くの壁に背中を預ける。 そして私を手招くと、自分の前に立たせて一つ息を吐いた。 「里悠……」 そう言ったっきり先輩は暫く私を見つめ、愛おしそうに髪を梳く。 その先輩の左の頬が少し赤くなっているように見えて、無意識に私の手がそこに伸びていた。 「…………?」 「赤く……なってます」 「あぁ……まあ、思いっきり殴られたからな。赤くもなんだろ」 「あの……ほっ、本気ですか? さっき言っていたこと。私のことをその、好きだって……」 「冗談でこの俺が、女に土下座まですると思うのかよ」 「思えないですケド……でも、まだ信じられないというか実感が持てないというか……っ?!」 先輩の頬に手を添えたまま、視線を外し、口をもごもごとさせて独り言のように呟く私のその手を先輩は突然ギュッと握る。 反射的に視線が先輩の元に戻ると同時にグイッと手を引かれて、そのまま唇を塞がれた。 口内奥深くまで味わわれるような、熱くて深いキス。 一気に体が熱く火照り、頭の中がまたボーっとしてくる。 「信じられなくても、これから嫌ってほど実感させてやるよ……俺がどれだけ本気かってことをな」 「せん……ぱい……」 「だから、俺から離れられるなんて思うなよ?」 「んぁっ……」 「里悠、おまえが好きだ」 そう囁いて先輩が再び私の唇を塞いだ。 ゆっくりと丹念に唇を啄ばまれる。 先輩の舌が私の舌に絡み付いてくる。 味わうようなキスから徐々に激しくなるキス。 そのキスに犯されるように頭が真っ白になっていく。――――里悠、おまえが好きだ。その言葉だけを残して。 先輩と思いが通じたなんて、未だに信じられない。 この二日間の出来事がまるで夢のように霧がかっている。 だけど自然と涙が零れ落ちていた。 唇から伝わる温もりに、先輩の気持ちが表れているようで。 「なに泣いてんだよ。喜ぶのはまだ早いだろ」 唇を少し離し、先輩が少し掠れた声でそう囁く。 「だって……まだ信じられないけれど、嬉しくて……」 そう言って、グズッと鼻を啜ると先輩が、なんだよそれ。とおかしそうに笑う。 それから暫く私をジッと見つめ、少し口の端をあげて言った。 「なあ、里悠。おまえに最後の特権をやるよ」 「……とっけん?」 「あぁ。最後の特権として、マスコット契約を解消してやる……」 「え……」 ちょっと待って。 解消って、この関係を終わらせるってこと? どうして急に? 先輩と思いが通じたんじゃないの?? 「え、まっ、待ってください! どうして? どうして急に解消だなんて……いっ、嫌です! だって、たった今先輩は……」 「あ〜っ、もう! 早合点してんじゃねえよ。最後まで話を聞けっつーの!」 「…………ぁ、はぃ」 「ったく。いいか? マスコット契約は、たった今ここで解消する。だから、おまえはもう単なるマスコットじゃない。正式に俺のオンナになったって事だ」 俺のオンナ……? って事は、つまりは……? 「え……カノジョって事……ですか?」 「ククッ。あぁ、おまえにしては珍しく中々頭の回転がいいな」 「えっ、えっ! えぇっ?! やっ、あの! いっ、いいんですか? こんな私が先輩の彼女になるだなんて!?」 「……なにその反応。おまえ、俺のオンナになるよりマスコットのほうがいいってか?」 「やややっ! そっ、そういうわけではないんですけど……彼女って……彼女って?! なっ、何をすればいいんですか?」 「は? 改めて聞くなよ、んな事。俺だって知らねえよ」 知らねえよって……そんな頼りない。 マスコットから突然彼女になっちゃって、私は今後どうしたらいいの? 何をすればいいの?! 誰かと付き合った経験がないから全然わからないんですけどっ!! 「まあ……ヤル事は今までとなんら変わりねえだろうけど、ハッキリとした違いは俺の隣にはおまえしかいないって事だ」 「先輩……」 「俺はもう、おまえしかいらない。俺が欲しいのは、おまえだけ……だから、早く食わせろ。お前のすべてを……」 先輩がそう言って熱い視線を向けてくる。 私の……すべて……? それってつまりは……―――― H21.5.1 仕上げ back to top
すいません。ちょっと間があいてしまいました(汗)
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