ほんのり恋の味【GIFT】 ...夏祭り
「すんげぇ、可愛い!!」 「あたっ……いたたたたっ」 「加奈子、どうした?」 慣れない下駄で歩いていたから、鼻緒の部分が擦れて皮が捲れはじめていた。 「足の皮が捲れてきた…痛いー」 「大丈夫?うわっ、マジで捲れてるじゃん。歩ける?加奈子」 「ん、何とか。慣れない履物を履くもんじゃないわね。あー、痛い」 ぴょこん、ぴょこん。と、片足を庇って歩く私を、心配そうに篤が見る。 暫く私を支えながら黙って歩いてたかと思ったら、急に立ち止まり私の前に篤がしゃがみ込む。 「篤?」 「おんぶしてやるよ」 「は?え…いっ、いいよ。大した事ないし……恥ずかしい」 「大した事じゃないって。痛々しいもん。ちょっとこの先の石段の所まで行って一休みしようよ。そこまでおぶってってあげる」 「えーっ!!ホント、いいって。自分で歩けるから」 「いいから、早くする。じゃないと、血が出てきちゃうよ?」 むぅ。 私は篤にせっつかれて、渋々真っ赤に頬を染めながら彼に体を預ける。 篤は軽々と私を担ぐと、石段の方まで歩き始めた。 「ねぇ…重くない?」 「全然。加奈子はもっと食わなきゃダメだって。軽すぎ」 「いっぱい食べてるけど…」 「よっと、到着ー。ちょっとだけココで待ってて。俺、すぐそこの薬局で絆創膏買ってくっから」 「え…やっ、ホント大丈夫だから。いいって」 「いいっていいって。ちょっと待ってて。すぐに帰ってくるし、ここならちょうど死角になっててナンパされる事もないし、ね?」 そういって可愛らしい笑みを浮かべると、篤は走って行ってしまった。 石段の中腹辺りのちょうど曲がり角。 私はそこに一人ぽつんと取り残される。 言葉通り、すぐに帰って来た篤は息を切らしながら私の隣りに腰を下ろす。 「おまたー。一人で心細かった?」 「………ちょっと」 だって突然行っちゃうんだもん。 こんな真っ暗な中、心細くないわけがないじゃない。 篤はごめんね、と呟くと、ちゅっと頬にキスをする。 「なっ?!」 「寂しい思いをさせたお詫び。ほら、絆創膏買って来てあげたから…貼ってあげる。」 「やっ、あの…それぐらい自分で出来るから」 「いいの、いいの。浴衣だと帯が邪魔でやりにくいだろ?俺が貼ってあげるって。足出して?」 ニッコリ笑って箱から絆創膏を取り出し、私の前に屈みこむ。 本当に。どうして篤は私の為にここまでしてくれちゃうの? 額に薄っすらと汗を滲ませて、私の足に絆創膏を貼ってくれる篤に申し訳ない思いと、それとは別の愛しい気持ちが重なる。 「篤……ごめんね」 「んー?何が?」 「…私の為に色々と」 「俺がそうしたいんだから、別に加奈子が謝ることじゃないって……ほい、完成。これでちょっとはマシになると思うけど」 「ありがとう、篤。お礼しなくちゃだね」 「そう?じゃぁ加奈子の身体で宜しく♪」 「はぁっ?!」 ドサクサ紛れに何言っちゃってくれてるのかしら、この人は!! 「あはははっ!!そ〜んな眉間にシワを寄せなくても……結構マジで言ってんだけど?」 「なっ…もっ、もぅ。こんな所でそんな事言わないでよ!」 「さっきも言ったじゃん。加奈子見てると襲いたくなるって。一線越えちゃったら歯止めが利かなくなったみたい、俺」 なぁぁぁっ!そんな言葉をそんな真顔で言わないでって!! 言われるこっちの身にもなって欲しい。 絶対顔が真っ赤で、頭から湯気が出てるわよ。 「まぁ。ここでは流石に無理だから…」 ――――加奈子からキスして? そう耳元から聞こえる篤の声。 「………?!」 言葉にならない声が私の口から漏れて、思いっきり目が開く。 「ダメ?お礼にって事で」 「あのぉ…いやぁー…そのぉ…お礼とは言ったけど…その…」 口ごもる私に篤は、はい。と言って瞳を閉じる。 いや。はい、ってあなた……拒否権なし? 私は暫く固まったままだったけど、一向に目を開きそうにない篤に根負け。 ゆっくりと自分の頬を彼に寄せ、柔らかい唇に自分の唇を重ねた。 ――――ほんの一瞬だけ。 ほんの一瞬だけ。 そのつもりだったのに、篤の手がそれを許さなかった。 いつの間にか後頭部にまわされていた篤の掌。 重なったと同時にもう片方の腕でぎゅっと体を抱きしめられてしまって。 何度も角度を変えて啄ばむようなキスを繰り返す。 「加奈子…好きだよ」 僅かに唇を離して囁かれる篤からの言葉。 その言葉で私の体は一気に上昇し、身体の芯が熱くなる。 開いた唇から篤の舌が割って入ってきて、口内を弄る。 「……んっ」 まだまだ聞きなれない自分の甘い声。 それでも自然に出てしまう声に戸惑ってしまう。 長い長い篤からの熱いキス。 呼吸の仕方を忘れてしまったかのように、息苦しい。 自分の頭がぼーっと白い霧に覆われた頃、突如としてそれは消え去った。 「ママぁー!お兄ちゃんとお姉ちゃんが、チュッチュしてるーっ!!」 ちゅっ…チュッチュ?! その声に2人共がビクっと体を震わせて、パッと身体を離す。 声の方に視線を向けると、幼稚園児ぐらいの男の子とバッチリ視線が合ってしまった。 うーわ。見られた?! 『こらこら。そういう事は声に出して言わないの!ほら、邪魔しちゃダメでしょ?こっち来なさい』 いや、あなたもですよ? 聞こえるように大きな声で言わないで欲しい。 きゃはははっ。と、無邪気な笑い声を立てながら、親の所までかけて行った子を見送りながら、2人共が気まずくなって俯いてしまった。 「見られちゃったな」 「………だね」 「あっと……そろそろ、行く?」 「え……どちらへ?」 「俺の家」 「……………え?」 ニッコリ笑って、私の手を取って立ち上がるけど。 え。篤の家に行ってどうするの? 今日は…むっ、無理だよ? 浴衣だし?勝負下着もつけてないし?? 脱いじゃったら着方も分からないんだからね? 篤……分かってる? そんな表情の私を無視して、篤は浮かれ気分で歩きだした。 ++ FIN ++ |