ほんのり恋の味未知なる世界へ ...07
色とりどり、デザインも様々な下着が並ぶ。
加奈子が美佳子と一緒に勝負下着を買いに行っている頃―――― とある薬局の前にて。 ………どうしようか。 買っておくべきか、まだ先のようだから買わなくても大丈夫なのか。 悩みどころだよなぁ。 男としてアレを用意しておくべきなんだろうけど。 ……………すんげぇ恥ずかしい。 俺は薬局の前で店に入ろうかどうしようかと、ウロウロと店の前を歩き回り、不審者極まりない行動を取っていた。 いや、仲の良い奴らに言ったらくれるとは思うんだけど、何か恥ずかしいじゃん? 奴らは俺がとっくの昔に経験済みだなんて思い込んでやがるし、「え、お前まだだったの?」なんて言われるのも男として悔しいし。 だから家の近所だと誰かに見られるんじゃないかって思って、こうしてコッソリわざわざ隣町の小さな薬局に自転車に乗って買いに来たんだけど…… だぁぁぁ。すげぇ緊張する。 遠くの方から薬局の中を覗き込み、店員を確認する。 じーさんと、若い女の人か。 じーさんならいいけど、あの女の人の方にあたったら嫌だよなぁ。 うわ、これ買うの?なんて思われそうだし。 かと言って、このままこんな所でウダウダと時間を潰してるわけにもいかねぇよな。 俺だって男だ。 加奈子に「早めにいいって言って」なんて催促したからには、用意するべきものは用意しとかなきゃいけねぇよな?男として。 俺は大きく深呼吸をしてから、意を決して薬局の中に足を踏み入れる。 「いらっしゃいませ〜♪」 そうにこやかに微笑みながら対応に出てきたのは若い女の人の方。 うーわ、最悪。 何で女の方が出てくんだよ……買えねぇじゃん。 彼女はニコニコと笑いながら、何故か俺の横についてまわる。 ………どっか行ってくんねぇかな。 「何かお探しですか?」 ウロウロと店内を回る俺に対して、彼女が声をかけてくる。 ホント最悪。客が少なそうな店を狙ったのが逆に仇になったか? でも、このままウロウロしてるだけじゃ不審がられるよなぁ。 「え…あっと…コン……」 「コン?」 「コッ…トン…ありますか」 ………何言ってんだよ、俺。 「あぁ、コットンですね。こちらにありますよー」 彼女に案内されるまま棚に行き、コットンを手渡される。 ……じゃ、なくて。 深いため息と共に上げた視線の先に、俺の探していたモノが並んでいた。 数種類ある小さな箱。 それを見つけて、俄かに自分の頬が火照ってくるのが分かる。 落ち着け、落ち着け、俺。 根性見せろよ、斎藤篤。 俺はなるべく平静さを装い、何も確認せずにそれを一つ手に取りコットンの上に乗せる。 「あっと…ついでにこれも」 ついでじゃねぇけど。 むしろこれが本命だけど。 「は〜い、コンドームですね。こちらのタイプでよかったですか?他にも色々あって、簡単に装着できるものや初めての女性の方にオススメのゼリータイプもありますけど?」 声がでかい!そんなハッキリと言わなくていいって!あ〜もぅ、超はずかしいんですけど!! はぁ…でも… 他にも色々…そんなに種類があるのか? でも、こんな状況でじっくり見比べられないしなぁ。 確か、初めての女性の方って言ったよな、今。 加奈子……だし… 「あ、じゃぁ〜…そっちで」 と、頬を染めながら薦められた方と取り替えてる俺。 ………って、初めてってモロバレじゃん?! あぁ、もう。早くこの場を立ち去りたい。 俺はレジを済ますと、足早に薬局を後にした。 はぁぁ。すんげぇ疲れた。 これだけを買うために、どんだけ気力使ってんだよ、俺。 不透明なビニール袋に入れられたコットンの箱の横にある小さな箱を眺めてため息一つ。 ……コットン、加奈子使うかな。 |