novels.08


保健室のベッド

はぁぁ…頭が重い。

今日は、朝からどうも体調が思わしくない。

頭は重いし、体はダルイし…熱っぽい気もしないでもない。

授業と授業の合間の僅かな時間、私は自分の机に突っ伏せて、長いため息を口から吐き出す。

「どうしたの、瑤子(ようこ)。体調でも悪い?」

そう、私の席の前に座っている親友の久本繭子(ひさもとまゆこ)が心配そうな声で尋ねてくる。

「う〜ん。なんか頭が重いのよ…風邪でも引いたかなぁ」

「風邪?まぁ、最近気温の変化が激しいもんね。ちょっとオデコ貸してみ……んー、熱は無さそうだけどなぁ」

繭子は突っ伏せている私の額に掌を当てて、大丈夫?と顔を覗き込んでくる。

「大丈夫だと思うけど…」

「ねぇ、瑤子。次の時間って中川の授業だからさ…保健室で休んできなよ。うまく行けば欠席扱いにならないと思うし」

「繭子…それって」

悪戯っぽく笑みを浮かべる繭子に対して、若干のため息が口から漏れる。

次の授業は数学なんだけど、その担当の先生がちょっとワケありで。

なにを隠そう、目の前にいる親友の彼氏だったりするんです。

2人が付き合っている事はもちろん内緒。

この事は私しか知らないベリーベリーシークレットなワケなんですよ。

だけど次がその繭子の彼氏の授業だからって、そんな欠席扱いにならないなんて都合のいいように出来るのかしら?

でも、事実頭が重いわけで、保健室で休みたい気は充分にある。

それで授業を出ている事にしてくれるなら、願ってもない事なんだけど。


……いいのかなぁ。


「だ〜いじょうぶ。あとであたしがうまい事言っといてあげるからさ…休んでおいで?」

「ホントにぃ?」

「うんうん、まっかせなさい♪ただし!今度、スペシャルイチゴサンデー奢ってよね」

「え…あ、あぁうん」

ニッコリと満面の笑みを浮かべて、私にウインクを投げかけてくる繭子。


……そういう所、ぬかりないわよね。




私は繭子の好意(好意なのかしら?)に甘えて、次の授業の間だけ保健室で休むことにした。

校舎1階にある保健室のドアを開け、コッソリと中を窺い見る。

「あのぉ…すいません。頭が痛いので休ませてもらいたいんですけど…」

薬品の混じった保健室独特の匂いを鼻で感じ取りながら、シーンとした部屋に一歩足を踏み入れる。


…誰もいないのかなぁ。


保健室の先生の姿も見当たらず、どうしたものかと思案しながらドアを閉めて一歩ずつゆっくりと中に入って行く。



「保健室のセンコーなら今日は戻って来ねーぞ?」



「ひゃっ?!」

誰もいないと思い込んだところだったから、突然どこからか聞こえてきた低い声に思わずビクッと体を震わせて声をあげてしまった。

「なんだよ…随分な反応だな、おぃ」

「たっ、高杉先輩?!」

ベッドを仕切るためのカーテンの奥から、ひょっこりと出てきた顔を見て、俄かに頬が紅く染まる。

だって、彼は…

「おぉ、瑤子。さすが愛し合ってる者同士、気が合うなぁ?」

そう言って、ニッコリと綺麗な笑みを浮かべる高杉先輩。

そう。彼、高杉実涼(たかすぎみすず)は一つ年上の先輩であり、私の今現在の彼氏だったりする。

ちょっぴり不良チックだけど、凄くカッコよくて私には凄く優しい自慢の彼。

2年生と3年生で学年が違うから、示し合わせて会う以外めったに学校内では出会う事がない存在。

だからその思ってもみなかった存在に、ドクドクと鼓動が激しく高鳴る。

「高杉先輩…どうして保健室なんかにいるんですか?」

「ん?そりゃ体調が悪いからに決まってんだろ?」

「え…体調悪いんですか?どうしたの、風邪??」

「いんや。寝不足」

「あぁ…寝不足…」

…って、おい!

あまりにもサラッと返ってきた言葉に、そのまますんなりと受け入れてしまいそうになる。

「寝不足って、体調悪いうちに入りませんよ?また昨日の夜はどこかへ出かけてたんですか?」

「入るっつうの。頭が重いし、目も重い。相当重症だろ、これ。あー、昨日は田深ん家で徹マン」

「徹マンって…高校生なのに、なにやってるんですか。そんな事してるから、寝不足になるんですよ?」

「へぇへぇ、そうでやんす。で?瑤子は頭が痛いって、風邪でも引いたのか?」

「ううん、風邪ではないと思う。頭が痛いってワケじゃなくて…何となく重くって」

こっちへ来い。と言うように手招きされて、私は頬を染めながら彼の傍へと足を運ぶ。

高杉先輩の傍に辿り着いた途端、腕を引かれて彼の体と一緒にベッドに倒れこんでしまった。

「ひゃぁっ?!た、たた高杉先輩?」

「なに」


いや、なにじゃなくてね?
ここ、先輩の部屋とかじゃないんだから…こういう格好はどうかと…


「いいじゃん。ちょうど保健室のセンコーは帰ってこないんだし、お前の頭痛が治まるまで添い寝しといてやるよ」

「でっでもでも、ここ保健室ですよ?学校ですよ??そんな、添い寝だなんて…誰かに見つかったら大変だって!」

「別にここで襲おうって話じゃねんだから、気にすることねぇって。お前だって嬉しいだろ?俺に添い寝してもらってよ」


いや、そりゃ嬉しいですけど…時と場所を考えていただけたら、と。


真っ赤に頬を染める私を見て、高杉先輩はクスクス。と小さく笑うと、耳元に唇を寄せて甘く囁いてくる。

「瑤子、キスしよっか?」

「へっ!?き、キスって…だ、ダメダメ!先輩さっき、襲わないって言ったじゃないですかぁ!!」

「襲おうって話じゃねぇって言っただけで、襲わないとは誰も言ってねぇ」

「なっ…」


そんな、無茶苦茶な。


先輩はニヤリとした意地悪な笑みを浮かべて、掛け布団を引っ張ると私達がすっぽり隠れるように頭から被せてしまう。

途端に遮られる私の視界。

狭い密室に閉じ込められたように、周りの音が遮断され2人の息遣いだけしか聞こえてこない。

「先輩…」

「…瑤子」

絡み合う視線、ゆっくりと重なるお互いの唇。

もう、こうなってしまったら抵抗はできない。

だって、大好きな先輩との甘く優しいキスだから。

ここが保健室だと意識すればするほど、なぜか体が熱く火照ってくる。

そう、まるでスリルを味わっているかのように。

徐々に啄ばむようなキスから、舌を絡ませるような深いキスへと変わっていく。

「んっ…せんぱい…ぁんっ…んっ…」

キスの合間に漏れ始めた私の甘い声。

私達はいつしか互いに強く抱きしめあい、貪るような激しいキスを繰り返していた。

「瑤子…すげーシタくなってきた。このままシよっか」

先輩の掠れた色っぽい声。

それだけで身体が痺れ、芯が熱く疼いてくる。

だけど…

「だ…ダメだよ。ここじゃ…」

「なんで?瑤子が声を我慢すりゃ平気だって…」

そう言いながら、いつの間に外されていたのかブラウスのボタンが全部外されていて、全開に前が肌蹴てしまっている。

その露になった肌に先輩は唇を這わせ、キャミソールの中に手を入れてブラの上から胸を大きい掌で包み込む。

「んっ…せんぱっ…」

「シー。瑤子、声出すなって…」

「そんな…」


無理ですけど…


私は先輩の行動に対して軽い抵抗を見せたけど、そんな事はお構いナシにドンドン彼の行動はエスカレートしていく。

ブラの紐をブラウスごと肩からずらし、そのまま先輩はカップをも指先でずらしてしまうと、露になった胸の蕾を口に含んで舌先で転がす。

「はんっ…ぁっ…」

途端に、鼻から抜けるように漏れる甘い声と仰け反る自分の身体。

先輩の頭に手を添えて、彼の髪を掴むように指先に力が入る。

チュッ、チュッと時折漏れる、先輩が胸を吸い上げる恥ずかしくなるような音。

胸の輪郭を舌先でなぞられ、蕾を軽く甘噛されると脳の中がピンと弾けるように痺れが走る。

「先輩っ…ダメ…だって…」

先輩の手が内腿を這い、下着の上から秘部に触れた瞬間に私は慌ててそれを阻止した。


これ以上は危険。
これ以上されたら私は…


もう既にこの時点で止まらなくなりかけている自分が怖くなる。

頬を高揚させたまま訴えるように先輩を見つめると、彼も暫くの間見つめ返してから、ニッコリと微笑みかけてくる。

「じゃあ、これから帰って俺ん家で続きしようぜ」

「でも…」

「このままオアズケはカナリ厳しいぞ?勃っちまったもん、収拾つかねーじゃん。授業ももうあと1限で終りだし、どうにかなんだろ?」

そう、綺麗な顔で微笑まれて思わず、うん。と頷いてしまった。


わ、私ってば……


「ホント、可愛いよな。瑤子は」

「せ、先輩?」

「マジすげー可愛いよ。俺がお前にすごい惚れてんの、知ってっか?」

先輩が私のブラウスのボタンをとめながら、そう言って優しく笑いかけてくるからボッと頬が紅く染まる。


そんな…ストレートにそういう事言わないで欲しいんですけど。


真っ赤な頬のまま首をふるふるっと横に振ると、先輩はクスクスと笑いながら優しく頬を撫でてくる。

「愛してるって言えるぐらい惚れてる」

「……先輩」

「だから、こうしてお前が傍にいる時はどうしても手が出ちまうんだなぁ。自分でもこんな所構わずだなんて思ってもなかったんだけどよ」

ボタンを留め終わった先輩は、ある程度制服の乱れをササッと直してから、私の身体をギュッと抱きしめてくる。

そして徐に自分のズボンのポケットから携帯を取り出して時間を確認すると、また腕を私の体にまわしてそっと耳元に囁いた。

「今の授業が終わるまであと10分。チャイムが鳴ったら荷物を取りに行って出て来いよ?俺は校門出て暫く行った所のコンビニんとこで待ってっから」

「ん…わかった」

「それまでは、こうして抱きしめといてやるからな」

優しい声と共に再びキュッと抱きしめられて、先輩の胸元に顔が埋まる。

鼻を擽る彼の愛用している香水の香り。

耳に届く先輩の規則正しく打たれる鼓動の音。

それよりもなによりも、大好きな先輩にこうして抱きしめられていることが嬉しくて。

私も同じように先輩にまわした腕に力を入れた。


あぁ。すごく幸せ…まさか保健室で偶然先輩に会えるだなんて思ってなかったし。
次の授業をサボる事は少し後ろめたいけれど、やっぱり先輩と一緒にいたいもん。
今日ぐらいサボっちゃっても、いい…よね?

ん?でもそういえば、私……
そもそもどうして保健室に来る事になったんだっけ?

- end -

H17.12.23

お題提供

萌エロ同盟!様